アリスと縁日デート①
マキナさんが気を利かせてくれたことにより、アリスとふたりで縁日デートを行うことになった。1時間後に花火があるということなので、屋台を回りつついくつか食べ物を購入していくのがいいかもしれない。
マキナさんと三人でいた時にも結構食べたので、俺は割とお腹はいっぱいだが、アリスはいくらでも食べるだろうし、食べ物の屋台を中心に回っていく感じがいいと思う。
そんなことを考えていると、隣を歩くアリスがなにやら小さな声で声をかけてきた。
「……あ、あの…‥カイトさん」
「うん?」
「えっと……ですね……その……」
「どうした? なんか、言い出しにくそうな感じだけど?」
現在アリスは仮面を外しており、普段より表情の変化がよく分かる。若干ではあるが屋台などからの光によるものとは別でアリスの顔は赤くなっているように見えた。
なんとなくいつもより緊張しているように見えるアリスがなにを言い出すかと首を傾げながら聞き返すと……。
「……えと……手、手をですね。繋いだりしてもいいかな~なんて」
「え?」
「ほ、ほら、私たち恋人なわけですし、デートなわけですから……」
「真剣な顔してなにを言い出すかと思ったら……別にそのぐらい全然かまわないというか、わざわざ宣言する必要もない気が……」
重大な告白でもするような顔で言い出したのは手をつなぐという提案……いまさら過ぎるとも思ったが、そう言えばアリスの方から言い出すのは珍しい気もする。
「舐めないでくださいよ、カイトさん! 言っときますけどね、私はリリアさんに勝るとも劣らないぐらい『恋愛に関してはクソ雑魚』ですからね!!」
「……いや、それは自分で力強く宣言するようなものなのか……」
アリスの発言に若干呆れつつも、希望通りアリスの手を取ると、アリスは一瞬ビクッと肩をすくませたが、特に抵抗することはなく手をつなぐ形になった。
う、う~ん……いや、本人曰く恋愛関連に弱いというのは、ここまでの付き合いでよく分かっているが、なんかそれを加味しても今日は肩に力が入りまくっているというか……。
「なぁ、アリス、ちょっと聞いていいか?」
「え? なんすか?」
「お前なんか、やたら緊張してない?」
「そ、そそ、そうですかね? アリスちゃんはいつも通りのプリティな超絶美少女ですよ!?」
「……」
「……ぁぅ、い、いえ、そのですね……せっかくの機会なわけですし、た、偶には私の方から積極的になってみようかなぁとか、そんな風に思ったわけでして……そ、その、私だって、もっとカイトさんと恋人らしいことしたいなぁとか、思ってるんですよ? 単純に恥ずかしくてなかなかできないだけで……」
顔を茹ダコのように赤くしながら告げるアリスの言葉を聞いて、俺はなるほどと納得する。やけに緊張していると思ったら、自分からいろいろやろうとしていて、それを変に意識してたわけか……。
「……その気持ちは嬉しいけど、意識し過ぎてギクシャクしてたら本末転倒だろ。変に肩ひじ張ることは無いって……」
「うぐっ……それはまぁ、たしかに」
さすがに自分でもテンパり過ぎていたという自覚はあったのか、俺の言葉に頷いたあとでアリスは大きく深呼吸をして肩から力を抜いた。
その姿を微笑ましく思いつつ、先ほどのアリスの発言を思い返す。もっと恋人らしいことをしたいか、アリスがそう思ってくれていたのは素直に嬉しい。
それで自分から行動を起こそうとするとテンパってしまうというなら、俺の方がリードしてあげるべきだろう。
頭の中で考えをまとめると、俺は繋いでいた手をいったん離したあと、その手をアリスの肩に置いてグッとその小さな体を抱き寄せた。
「わひゃっ!? な、なな、なんすか?」
「いや、せっかくのデートだし偶にはこんな風に歩くのもいいかなぁって」
普通の縁日であれば、人が多くて肩を抱いて歩くというのはあまり現実的ではないが、この貸し切り状態の空間であれば問題はない。
手を繋いで歩くのももちろん恋人らしいと言えばそうだが、今回はいままでと違う感じということでこの形で行くことにしよう。
「で、でもですね……こ、これはちょっとエッチすぎるのでは?」
「いや、肩抱いてるだけだから、なんならいままでもっと凄いこともしてるわけだし……」
「風呂場での話はやめてください!!」
「いや、風呂場の話じゃないんだけど……でもそう言えば、あの時もそもそも最初に背中流すって入ってきたのは……」
「おっと、カイトさん、そこまでですよ。迂闊にその先を言えば、恋愛クソ雑魚アリスちゃんの羞恥心がえぐいことになって大変ですよ!!」
「いや、だから、そういうのって自分で宣言するものなのか?」
「事実ですし……だって、いま私、顔超熱いですからね」
「照れてる顔も可愛いけどな」
「うにゃぁ!? またサラッと……そういうところです! ほんと、そういうところですからね!!」
ただでさえ赤い顔をさらに赤くして抗議してくるアリスを見て苦笑する。そんなことを言いつつも、俺の腕から逃れたりはしない辺り、本当に可愛くて愛おしいものだ。
シリアス先輩「……やべぇぞ、これ、糖度たけぇ……しかも①とか絶望的なタイトルが見える。こ、ここからが本当の地獄か……」




