三人で縁日へ⑤
温かな灯に照らされる石畳の道で、俺は屋台で買った串焼きを食べながらチラリと視線を動かす。
目の前に居るのは屋台で買ったイカ焼きを美味しそうに食べているマキナさん……う~ん、本当になんというか普段のエデンさんとはまったく違う印象を受ける。
アリス曰くエデンさんの時は威厳を気にしていて性格を作っており、現在の性格の方が素ということらしい。まぁ、普段の振る舞いに威厳があるかどうかは置いておくとするが、今日はなんというかマキナさんのことをよく知れたような気がする。
というのも、現在縁日を回り始めてそれなりの時間が経過したが、マキナさんは暴走していない。いや、正しくは、暴走しかけるとその兆候をアリスが素早く察知して止めるため、暴走に至っていないという感じだ。
アリスの先読みが凄いのか、俺よりよっぽど暴走の兆候を素早く察知しており、現状危ない場面すらない。
「――はっ!? 我が子が私に注目してる! これは母に甘えたいサイ――ふぐっ!?」
いまもなにかを言いかけたマキナさんの喉に、鋭い手刀を叩き込んで阻止しており、実に素早い判断と行動である。
「……ねぇ、アリス。普通止めるにしても、喉に手刀とかそんな残虐な方法じゃなくて、もっと人道的な方法が……」
「暴走しなけりゃいいんすよ」
「それを言われるとね、私も辛いところなんだけどね」
あとなにより、やはり親友と言う関係だからか、アリスはマキナさんに対して一切遠慮がなくそれが素早い暴走阻止に繋がっているわけだ。
……いっそ、今後マキナさんと会う時もアリスが常にセットでいてくれたらいいのにと思わなくもないが、さっきそれを口にしたら「私の胃が大変なことになるので勘弁してください」とマジトーンで言われたので、実際は相当集中して先読みしているんだろう。
そんなことを考えていると、マキナさんが突然笑顔で手をパンっと叩いた。
「う~ん! 楽しかった!! 我が子の可愛いところも見れたし、楽しく縁日回れたし、私は満足だよ」
「うん? そろそろお開きにするってことですか?」
マキナさんの言葉を聞いてアリスが首を傾げながら聞き返すと、マキナさんはなにやら悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「いや、『私はここまで』ってことかな……私はちょっとシャローヴァナルと話をしてくるから、ここから先は『恋人同士で楽しんでよ』。あと1時間ぐらいすると花火が上がるようにしてあるから、それも楽しんでいって……ああちなみに、あっちの神社の境内辺りが見やすくてお勧めだよ」
えっと、マキナさんの言葉をそのまま受け取ると……自分は三人で遊んで満足したから、ここからは俺とアリスで縁日デートをすればいいって、そう言うことだと思う。
気を使ってくれたのかな? やっぱり、親友のアリスに対してはマキナさんもいろいろと気を回すのだろう。
それに提案自体もかなり魅力的だ。三人で回るのも楽しかったが、アリスとふたりで回るのもそれはそれでまた違った楽しさがあるはずだ。
マキナの突然の提案を聞き、アリスは怪訝そうな表情を浮かべながら快人に聞こえないように小声で話しかける。
「……どういうつもりですか?」
「ふふふ、チャンスだよアリス」
「なにがです?」
「ほら、我が子はこっちの世界のこの空間に来ていた間の記憶は、向こうに戻った時には思い出せなくなるようにしてあるから……恥ずかしがり屋のアリスも、思いっきり我が子とイチャイチャできるよ!」
「なっ……なにか企んでいると思ったら、なにを馬鹿なことを……」
「まぁ、最近いろいろ助けてもらったお礼ってことで……我が子とたっぷり愛を育んできてね~それじゃ、私はこれで!」
「あっ、ちょっ、マキナ!?」
顔を赤くするアリスにニヤリと意地の悪い笑みを向けたあとで、マキナは姿を消し残ったアリスは深くため息を吐いた。
お膳立てされた状況というのは若干気に入らない部分もあるが、たしかにマキナの提案はアリスにとって非常に魅力的だった。
トリニィアに戻れば快人はここでのことを忘れているというのであれば、彼女も普段より大胆になれるような気がした。
そしてなにより快人も乗り気であることは、表情を見ればすぐにわかる……アリスは乗せられたという事実に若干複雑な表情を浮かべつつ、今日ぐらいは大胆になってみようかとそんなことを考えていた。
ところ変わって、マキナは白い空間に戻ってきており、そこで軽く指を振ると空間に裂け目が生まれて、シャローヴァナルの顔が映る。
「なにか用ですか?」
「少し提案がありまして……ほら、今回我が子を1分こちらに連れてくる見返りに、『こちらの世界の祭りなどについて情報提供する』と、そういう契約でしたね」
「ええ、それが?」
「いえ、せっかくなので口頭で説明するよりも実際に見たほうが分かりやすいだろうと、こちらの祭りを再現した空間を作り出したのですが……その空間を『一時的にそちらの世界に移動』させてもかまいませんか?」
「なるほど、構いませんよ。すぐに紹介してくれるのですか?」
「いえ、少し予定があるので移動だけ先にしておいて、後ほど声をかけさせていただきます。紹介が終われば、こちらの世界に戻しますので……」
「分かりました」
シャローヴァナルの了承を得たあとで時空の裂け目を閉じてから、マキナはニヤリと笑みを浮かべた。
快人が思い出せなくなるのは『マキナの世界にある特殊な空間での出来事』であり、『シャローヴァナルの世界に移動した特殊な空間での出来事』は……対象外である。
マキナちゃん「アリスは奥手だしなぁ~本当はもっと我が子とイチャイチャしたいくせに、素直じゃないんだから……まぁ、親友としてこのぐらいのサポートはしておかないとね!」




