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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした  作者: 灯台


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とても昔の特典SS

どうにも体調が悪く執筆が厳しいので、今日の更新をなんとか誤魔化そうと考えたところ、フォルダの奥底から第一巻発売時の特典SSのデータが出てきたので……もうさすがに4年前ですし、公開してもいいだろうとそのうちのひとつを公開します。


内容としては第一巻の快人が迷子になる直前のくだりを、別の視点から見たものです。


 俺の名はヴァイス……二百八十六歳のエルフだ。エルフ族の端麗な容姿に大人の色気を兼ね備えたナイスガイってわけだ。もちろん男ってのは、見た目がよければそれでいいわけじゃない。仕事もできてこそ一流の男。

 自慢するつもりはないが、俺はシンフォニア王国の諜報部に所属するエリート諜報員……影で国を支える仕事をしているわけだ。日陰者と揶揄されることもあるが、俺はこの仕事に誇りを持っている。まぁ、給料がいいからってのもある。

 家で待つ『愛しのマリア』に美味いものを食わせてやるためにも、実入りのいい仕事をするに越したことはない。


 さて、そんな俺のもとへ国王陛下から直々の任務が届いたのが数時間前。なんでも、今年の勇者召喚で事故が発生したらしく、勇者役以外にも数人の異世界人が召喚されてしまったらしい。

 そして俺に与えられた任務は、その異世界人の内のひとりを調査すること……。巻き込まれて召喚された異世界人は三人で、俺以外にもふたりの諜報員がそれぞれ別の対象を調査している。

一応理由としては、イレギュラーな存在なので念のため、ということらしい。


 まぁ、「本当は妹が心配なだけなんじゃないか?」とか突っ込みを入れたかったが、流石に国王陛下に文句を言えるわけもないので、すぐに任務を了承し対象を見張ることにした。

 そんな俺の担当である異世界人は……運の悪いことに野郎である。チクショウ、三人中ふたりは女の子って話だったから、できるならそっちを担当したかったぜ。


 で、その対象なんだが、現在俺の視線の先で平和そうなツラで街を歩いている。隣には水色の髪の美人メイド……もう、あの野郎敵なんじゃね? 敵って報告していいかな? なに初日で女とふたりで出歩いてんの?

 ま、まぁ、個人的な怒りは置いておいて、その対象に関してだが……普通のガキにしか見えない。魔力も大したことはないし、足運びも戦闘経験者のソレではない。少なくともわざわざエリートである俺が、監視を行う必要があるとは思えないレベルだった。


 現在は『空中に浮かぶ展示用の荷馬車』に隠れて対象を監視しているが、ここまで念入りに隠れる必要なんてなかったな。やれやれとひとつ溜息をついて、肩の力を抜きながら監視を続けようと荷馬車の中から少し顔をのぞかせ……直後に戦慄して顔を引っ込めた。

 なんだ? あのガキ『こっちを向いた』ぞ? まさか、俺の存在に気付いたのか? い、いや、ありえねぇ、これだけの距離だぞ⁉ 

 背中に冷たい汗が流れるのを感じつつ、再び少しだけ視線を動かすと……やはり、その男はこちらを見て、そしてニヤリと笑った。


 ば、馬鹿な⁉ 気配はちゃんを消してたはずなのに……はっ⁉ ま、まさか……さっきキョロキョロと視線を動かしていたのは、自分を監視している相手を探し出すため? む、無害なガキを装っていたのは……俺を油断させるためだっていうのか⁉

 い、いや、考え過ぎだ。きっと、偶然目があっただけ……そうにきまってる。諜報部内でも、迷子になった王女殿下の飼い犬捜索でトップスコアを誇る俺が気取られるなど、あるはずがない。

 震える体に喝を入れ、俺は再び対象を見るために少し顔を出すが……き、消えた……だと……。一緒にいたメイドの姿は確認できるが、男の姿だけが煙のように消え失せている。


 馬鹿な! ほんの数秒だぞ……その間に『男の方だけ見えなくなる』なんて、そんな馬鹿な……い、一瞬で俺の視界に映らない位置に移動したのか? な、なんのために? ま、まさか……。


「お、俺を始末するために……」


 思わず乾いた声が口から零れた。相手の実力を見誤った奴に待つのは死……そんな言葉が、やけに鮮明に頭に浮かびあがってくる。

 どうする? どうすればいい? こちらを見たときに浮かべた笑み、アレは獲物を見つけた捕食者のものだったような気がする。いや、確実にそうだ。アレは血に飢えた獣の笑みに違いない。

 となると攻撃手段はなんだ? ま、魔法か? 射撃魔法でこの荷馬車ごと撃ち抜くつもりか? それとも、広場ごと広範囲殲滅魔法で……あ、或いは伝説の『空間消滅魔法』を使ってくるかもしれない! い、いや、きっと『異世界にしかない必殺技』に違いない。


 だ、駄目だ! ここに留まっていたら死ぬ⁉ と、とにかく移動しなければ……。


 人は死に瀕すると思考が加速するというが、いまの俺の状態はまさにそれだ。一瞬で思考を巡らせ、俺は即座にその荷馬車から脱出する。しかしどこへ逃げればいいのか……いや、そもそも逃げるという考えが間違っているのかもしれない。背中を向ければその瞬間に消し飛ばされてもおかしくない。

 アイツは明らかに実力を隠していた。いま姿を消したのも、己の力を他の人間に見られることを嫌ったからだとしたら、むしろ人の多い場所こそ……賭けてみるしかないか。

 そもそもこの戦いはすでに先手を取られてしまっている。ならばあえて死地に飛び込まなければ、活路は開けないはずだ!

 やってやる……やってやるぞ! ここで逃げたら男が廃る! 勝負だ異世界人!


 大勢の人々の間をすり抜けながら、一心不乱に広場の中心を目指す。血が冷たくなっていくような感覚、久しく忘れていたぜ……。

 思わず口元に笑みが浮かぶのを実感しながら、広場の中央付近に辿り着く。近くにあった屋台の陰に身を潜めつつ、広場の中央にある噴水の様子を窺う。

心臓の音がやけに大きく聞こえやがる……まったく、厄介な仕事を引き受けちまったもんだ。ヤツはどこだ? ……いた! 噴水前で堂々と待ち構えているだと? 舐めやがって……。

 目標の異世界人を見つけ、腰に差したナイフに手を伸ばそうとした瞬間。俺の心は絶望に包まれることになった。


 そ、そんな……や、ヤツが持っているのは……『魔法具』だと⁉ し、しかも、魔水晶の色は漆黒……俺なんかじゃ一生手に入れられねぇほどの超高級品じゃねぇか⁉

 ば、馬鹿な……なんで今日異世界に来たばかりの奴がそんな凄まじい品を持っている? やべぇ、やべぇぞ……間違いなくあの魔法具は『攻撃用』だ。漆黒の魔水晶ともなれば、相当な威力の魔法術式を込められる。

 駄目だ。完全に誘い込まれた! あの野郎……初めから俺をおびき出して、魔法具で仕留める気だったんだ!


 もはや詠唱も術式展開も間に合わない。全身が小刻みに震え、体中から汗が流れ始める。すると異世界人の手にある魔法具が煌き、光の線が俺のほうへ伸びてきた。

 ち、ちくしょう……居場所も既にバレていたのか……これは狙いを付けるための目印……すまねぇ、マリア……どうやら、俺はドジを踏んじまったみてぇだ。

 いや、諦めるなヴァイス! ここで終わるわけにはいかない。俺が死んだら、マリアはどうなる? 俺は、俺はまだ……。







 男には、時に退くことも必要だ。勝者とは強い奴ではなく、生き残った奴だ。

 ……逃げ切れたのか、それとも見逃されたのかはわからないが、あの異世界人は明らかに魔力を隠していた。人に見られることを嫌ったのだろう。本気を出されていたら、たぶん俺は死んでいた。方法は予想できないが、おそらく『異世界の超技術的なナニカ』で!

 己の命が無事だったことを実感し、一度身震いをしてからマイホームの扉を開く。


「ただいま、マリア」

「なぁ~」


 迎えてくれたのは、愛しき『飼い猫』のマリア……ああ、俺は無事帰ってきたよ。

ひとしきりマリアを愛でてから、俺は王宮へハミングバードを飛ばした。

 あの異世界人がいかに危険か、どれだけ強大な力を有している可能性があるかを細かに書き記し、それを親愛なる国王へと伝える。



 返事は、すぐに帰って来た……『再調査しろ馬鹿』と……解せぬ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です!連続で見ました!最初はマキナさんと一緒に回って行く話しでしたが、屋台の店員さんが全部マキナさん(エデン姿)は怖いw 快人さんに会うたびにアリスさんが止めるのかなと思ってしま…
[良い点] 猫かよw [一言] お大事になさってください
[良い点] いつも楽しい話をありがとうございます! [一言] ゆっくりして下さい!(>人<;) ここまで連続更新ありがとうございました!
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