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やっぱりリリアさん気絶した


 それなりの時間をかけてリリアさんも復活し、俺達はレイさん達の家に移動してから、夜にある本祭についての話を聞いていた。


「本祭と言うのは、まぁ簡単に言ってしまえば大宴会だね。料理も食べ放題、飲み物も飲み放題で、皆で一年間の豊穣に感謝するのさ。まぁ、今年は界王様がいらっしゃってるし、より大々的なものになるだろうね」

「成程、じゃあ、俺達はのんびり食事を楽しめばいいんですね」

「……いや、リリアちゃん達はそうだけど……君は違うよ?」

「え?」


 大宴会と表現される本祭だが、つまるところ皆で食事して談笑しようと言うものらしく、何だかんだで慌ただしかった宝樹祭の締めとしては丁度良く、のんびり楽しもうかと思ったのだが……何故かレイさんが神妙な顔で俺を見つめて来た。


「ミヤマくんは収穫祭の優勝者だからね。本祭ではある程度挨拶が終わったら『精霊の森で一晩過ごす』事になる」

「……初耳なんですが……」

「いや、すまん。私も、昨日まで君達の誰かが優勝するなんて思っていなかったから……」

「……精霊の森で過ごすって、寝具とかは?」

「……祠がある」

「祠っ!?」


 何と収穫祭の優勝者は、毎年精霊の森で精霊達と共に一晩過ごす事が習わしらしい。

 精霊の森で宿泊を許されると言うのは、精霊魔導師達にとってはとても栄誉な事らしいのだが……俺にしてみれば、食事もそこそこで一晩森に放り出される様にしか思えない。

 しかも寝る所は祠って……それどう考えても寝る為の施設じゃないし、当り前だけど布団とかも無さそうなんだし、まぎれもなく野宿である。


「あの、それ、身の安全とかは……」

「それは大丈夫だ。収穫祭の優勝者が滞在する間は、精霊達が守ってくれるし、今年は界王様もいるから万が一はないだろう」

「……そう、ですか……」


 どうしてこうなったんだろう?

 優勝したと言うのは、喜ばしい事の筈なんだが……何でこんな罰ゲームみたいな状況になってしまったんだろう。


「ルナ、毛布を用意しておいてあげてください」

「畏まりました」

「宮間さん、頑張ってください」

「先輩、ファイトです」


 どうやら俺の野宿はもう確定事項みたいだ。

 口々に慰めと応援の言葉を投げかけてくれる皆に、引きつった笑顔でお礼を言った後、俺は大きく溜息を吐いた。





















 野宿に関してはもうこれ以上考えても仕方ないので……と言うか、考えると寒そうだとか悪い方にばかり発想がいくので考えない事にする。

 そのまましばらく雑談をしていると、呼び鈴の音が来客を知らせてくる。


「おや? 誰だろう?」


 レイさんがそう呟きながら立ち上がって玄関に向かい、その扉を開く。

 そして現れた来客を見て、レイさんは腰を抜かした様にその場にへたり込んだ。


『失礼します』

「っ!? か、かかか、界王様!?」


 何と現れたのはリリウッドさんであり、レイさんは勿論俺達も驚愕する。

 リリウッドさんは驚くレイさんや俺達を見て、微かに微笑みを浮かべた後で頭を下げる。


『突然の来訪、申し訳ありません』

「い、いい、いえ! そんな! この様な薄汚い家にようこそおいで下さいました」

『本祭が始まってしまえば、私も何かと忙しくなりますので、今の内にカイトさんがお世話になっていると言う貴族に挨拶をと思いまして』

「ッ!?」


 穏やかに告げるリリウッドさんの言葉を聞き、リリアさんがビクッと背筋を伸ばす。

 その動きが見えたのか、リリウッドさんは視線をリリアさんの方に動かし、リリアさんの前まで歩いてから声をかける。


『おや? 貴女は……『リリアンヌ王女』では?』

「ひゃい! あ、いえ、い、今はリリア・アルベルトと名乗っています」

『そうでしたか……王宮で何度かお見かけした事はありますが、こうしてお話しをするのは初めてですね。ご存知かもしれませんが、リリウッド・ユグドラシルと申します。以後、お見知りおきを』

「は、ははは、はい。ここ、こちらこそ!」


 リリウッドさんに話しかけられ、それはもう分かりやすい程ガチガチに緊張しているリリアさん。

 クロの時もそうだったが、公爵であるリリアさんがここまで緊張しているのは、やはり相手が六王と言う滅多に会う事すらかなわない相手だからだろう。

 うん、正直1ヶ月ちょっとで3方と会ってるので、滅多に会う事が出来ないと言う印象はないが、それは俺の状態が異常なだけで本来はこういう反応になるのが正常だ。


「……ルナマリアさん、リリアンヌって?」

「爵位を得る前のお嬢様の名前です。リリアンヌ・リア・シンフォニア……王女だった頃の名前ですね。公爵になった際に、リリア・アルベルトと改名しています」

「成程」


 リリアさんは以前リリアンヌと言う名前で、王宮を出て爵位を得た際に改名しているらしい。

 以前王位を継ぐ気はないと言っていたし、王族としての名前を変えたのはそう言う決意表明みたいなものなのかもしれない。


『リリア公爵、こうしてお会いできた事、嬉しく思います。事前に申請もせず押しかけてしまい、本当に申し訳ありません』

「い、いえ!? そんな、全然!?」

『ありがとうございます。私も縁あってカイトさんと知り合い、交流を持ち彼の人柄を気に入りました。なのでこれからも懇意にしたいと思っております。勿論、リリア公爵、貴女ともです』

「ははは、はい! あ、ありがたき、ここ、光栄でしゅ!」


 丁寧に優しく話すリリウッドさんだが、その腰の低さが災いして、リリアさんの方は恐縮と混乱でもういっぱいいっぱいと言った感じだ。


「……ルナマリアさん、リリアさんって昔から、慌てる時はあんな感じなんですか?」

「基本クソ真面目で頭が固いですからね。突発的な事態に弱いんですよ。まぁ、あそこまで慌てるのは、年に1度あるかないかですがね」

「成程」


 リリアさんのテンパりだすと歯止めが効かなくなるのは、元々の性格かららしい。

 後基本的にあそこまで慌てる事は無いらしい……

 俺が僅か一ヶ月であの状態のリリアさんを何度も見ているって事は、それだけリリアさんにとって予想外の事態ばかり連続していると言う事……いや、何と言うか……リリアさん、本当にごめんなさい。


『また後日、改めてリリア公爵の屋敷へ伺いたいと思っていますが、構いませんか?』

「は、はい! もも、勿論、いつなりと!」

『ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします、リリア公爵。改めて、今回は突然の訪問になってしまい、重ねてお詫びいたします』


 リリウッドさんは、そう言って深く頭を下げる。

 その行動はリリウッドさんの温厚な性格が現れたものだったが……『六王に頭を下げられた』リリアさんの方は、いよいよ限界に達してしまったらしい。


「ひゃいっ!? ああ、あわわ、界王様、あた、頭を上げてください。そそ、そんな、わわ、私などに頭下げ、あわわ……きゅ~」

『ッ!?』

「お嬢様!?」


 まるで湯気でも出そうな程……正に混乱の臨界点に達したリリアさんは、目を回してその場に崩れ落ち、ルナマリアさんが慌てた様子で駆け寄る。


「お嬢様! お気を確かに!」

『どうしました!? もしや、どこか具合が……それでしたら『世界樹の果実』を……』

「界王様!? どうかご容赦を! それは、もう『トドメ』ですから!?」

『え? えぇ?』


 急に気を失ったリリアさんを見て、リリウッドさんも慌てた様子で世界樹の果実を取り出そうとしたが、ルナマリアさんが必死な形相でそれを止める。

 確かにこの状況で、世界樹の果実なんてものを食べさせられたら……リリアさんの精神にトドメを刺す結果にしかならないだろう。

 いや、リリウッドさんの方は100%善意なんだろうけど……


 拝啓、母さん、父さん――リリウッドさんが訪ねて来て、リリアさんと挨拶を交わしたよ。それでもう、予想できた結果とは言えるけど――やっぱりリリアさん気絶した。

 


















かいと の とりぷるあたっく

りりあ は きぜつした

    ↓

りりあ の げきりん

かいと は きぜつした


成程互角か……


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この主人公、ほとんど口に出してきちんと謝らないよね。21歳にもなって。 [一言]  俺が僅か一ヶ月であの状態のリリアさんを何度も見ているって事は、それだけリリアさんにとって予想外の事…
[一言] 界王様は六王の常識人的な存在なんだろうけど、やっぱり常人とはちょっとずれてるのねw
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