究極の神⑪
イリスやマキナと話して情報を得たアリスは、ネピュラが99%根っからの善人であるという結論に達した。しかし、それでも現在の彼女がなにを考えているかまではわからない。
過去は十分理解した……だが、これからの未来ネピュラが快人の害にならないかどうか、直接見定めようと考えた。
現状のネピュラの能力は準全能級であり、油断さえしなければ不意を打たれることはない。いつでも動けるように心の中で警戒しつつ尋ねたアリスの言葉に対し、ネピュラは少し沈黙してから口を開く。
「……その通りですとも違うとも言える質問なので、少し返答に迷いますね」
「ふむ、どのあたりにですか?」
「究極神というのは『かつての妾』を指す言葉です。妾は一度終わりを迎えた身ですし、現在は神ではなく精霊ですので……『元究極神』というのが正しいですね」
「なるほど……」
「まぁ、もっとも、どこでどのような立場であろうと、妾が絶対者であることに変わりはありませんが!」
小さな体で胸を張るネピュラを見て、アリスは軽く苦笑を浮かべた。一応想定していたパターンではあったが、ネピュラは己がかつて究極神と呼ばれた存在であることをあっさり認めた。
というより、口ぶりから察するにそもそも別に隠しているつもりもなさそうな感じだった。
「しかし、アリスさんはどこでそのことを? シャローヴァナルから聞いたのですか?」
「いえ発端は推測からでした。最初は……」
ネピュラが元究極神であるという考えに達した材料や推測などを説明すると、ネピュラは感心したような表情を浮かべて頷いた。
「……推測の段階でほぼ正解ですね。アリスさんはとても優れた頭脳と思考力をお持ちなのですね」
「お褒めにあずかり光栄ですよ。ただ、気になることが残っているので、直接尋ねてみようと思ったわけなんです……そんなわけで、いくつか教えて欲しいことがあるんですが、かまいませんか?」
「無論、構いません。妾は絶対者です! 教えを乞うものを突き放すことなどありえません」
ここまで話してもネピュラは友好的な姿勢であり、アリスが注意深く観察しても邪気のようなものは感じ取れなかった。
「……いまの現状に不満ありますか?」
「山ほどありますね! 絶対者たる妾が格落ちさせられたとか、能力に制限を加えられて不便だとか、妾と比べれば下等生物と言っていい者たちにペコペコせねばならぬ屈辱だとか……まぁ、不満は山ほどあります。ただ、妾は自分で納得して番犬扱いを受け入れました。ならば、不満はあれどそれを周囲に当たったり後になって文句を言うのは、絶対者の行いではありませんので……不満はあれど納得していますね」
「ふむ、カイトさんを害する意思は?」
「なぜ、主様を害するのですか? 主様は、言ってみれば生まれ変わった妾の一番初めにできた庇護対象ですよ? 守ったり助ける理由ならいくらでもありますが、害する理由などありません」
ネピュラの言葉に嘘はない。彼女はたしかに格落ちさせられたことや種族を精霊にされたことなどには不満を持っているが、それを周囲に当たり散らしたりする気も無ければ、一度受け入れた以上後から「戻せ」などと文句を言う気も無かった。
不満はあるとハッキリ口にしながらも納得していると告げるネピュラの言葉は、アリスとしても好感が持てるものだった。
下手に取り繕って不満は一切ないなどと言わない辺り、ネピュラの誠実な性格が読み取れる気がしたから……。
「ちなみに、その喋り方って地ですか?」
「う~ん、これはまた返答に困る質問ですね。以前の妾の口調と比べてどうかというのであれば、違います。以前の妾は、数多の者たちの上に立っておりましたし、相応の口調でした……ただ、それが地かと言われれば、どうなのかは妾にもよくわかりませんね」
「そうですか……いえ、なんか、絶対者と自称するわりには腰が低い気がしたので」
少し戸惑いながら告げるアリスの言葉を聞き、ネピュラはアリスの疑問を理解したと言いたげに頷いたあとで、静かな声で告げる。
「……妾が絶対者であることは、生まれ変わったとしても変わることはありません。……ですが、強大な力を持つならば他者に対して横柄であっていいのかといえば、そうではありません。そんなものは三流以下のやることです。礼節もしかと心得てこその絶対者です! たしかに妾は絶対者ですが、ここでは現在一番新参者です。ならば、相応の口調や態度であるべきだろうと、そう思っていますよ」
「……な、なんというか……ええ、改めて……真っ当すぎるぐらい真っ当ですね、貴女……」
「あらゆる面に優れていてこその絶対者ですからね!」
「ふ、ふふふ……なるほど、感心しました」
自信満々といった感じで胸を張るネピュラを見て、アリスは「どうやら本当に問題なさそうだ」とそう結論付けて肩の力を抜き、微笑まし気な表情でネピュラの頭を撫でた。
ネピュラは満更でもなさそうな表情を浮かべつつ素直に撫でられた後で、グッと拳を握りながら告げる。
「……アリスさんも、困ったことがあればいつでも妾に相談してくれて構いませんよ。絶対者たる妾は、差し伸べる手を惜しんだりはしません!」
「ははは、それは頼りになりますねぇ」
アリスはネピュラへの警戒をすっかり解いて微笑み、そのままネピュラと一緒に綺麗な月を見上げながら他愛のない雑談を交わした。
シリアス先輩「……あまりにも、あまりにも……マトモすぎる。いや、比較対象ふたりが酷すぎるせいかもしれないけど……あとマジで全然隠してる感じが無いから、快人とかが聞いても普通に正体話しそうな感じがする」




