究極の神⑥
究極神ネピュラ……かつて数多の多重世界を統べ、数多の世界の創造主たちを従えたシャローヴァナルという論外を除けば、絶対的頂点と呼べる存在。
全てを内包しあらゆる存在の絶対上位者として君臨した彼女に敵対すれば、たとえ全知全能の力があってもほんの一瞬の間に消される。
本人が己をそう呼ぶように、ネピュラはまさに絶対者と呼べる圧倒的な存在だった。
では、彼女は……ネピュラはその他を隔絶した力を持って数多の世界の創造主たちを従えていたかといえば……『別にそんなことは無かった』。
ネピュラは強大な力を持つが故に性格に難がある者が多い世界の創造主と比べれば、極めて珍しいと言える善性の強い存在だった。
彼女は数多の世界の頂点に君臨してこそいたが、別に己に従う者たちになにかを要求することなど無かった。彼女の理論としては、絶対者たる己は下位の者たちに対し施しを与える側であり、下位の者たちが己になにかを捧げる必要はない。
口調こそ絶対者たる尊大な物言いではあったが、彼女は己の庇護下の者たちを護り、導き、その心の在り方を多くの者たちから慕われていた。
数多の世界の創造主たちがネピュラに仕えていたのも、彼女が求めたわけでは無くそれぞれが己の意思で敬愛するネピュラに仕えていたにすぎない。
しかし、来るものを拒まないネピュラは己に従ったものは全て庇護下とみなし、等しく恩恵を与えた。
そもそも、である。彼女は……ネピュラは『己の世界を持たない神』だった。ネピュラは世界創造に興味はなく、絶大な力を持ちながらも己の世界を造ったりはしなかった。
……だから、そう……彼女は本来あの時に『終わりを迎える存在ではなかった』筈だった。
シャローヴァナル……終わりという現象が現れたのは、ネピュラの前ではなく彼女に従うひとりの世界創造主の作った世界だった。
当時すでに広く名を知られ始めていた逃れられぬ終焉、それが配下の元に現れたと知ったネピュラは即座に行動を起こした。
その力を持って『その世界の創造主を己に移し替え』『本来の創造主は別の世界へ逃がした』。それだけではない、どこまで意味があるかは分からなかったがその世界に生きる者たちも可能な限り、他の配下の世界へと逃がした。
もちろんそれには多くの配下が反発した。特にシャローヴァナルが現れた世界の創造主は、己のためにネピュラが危険を犯す必要など無いと、必死に訴えた。
しかし、ネピュラはソレを一蹴し、その創造主と世界の生物をすべて別の世界に送り終えたあと、内包していた全ての存在との繋がりを断ち切った。
己が終わりを迎えることで、内包しているものにまで影響が出ることを避けるため……。
そして彼女は、空っぽとなった世界でたったひとりで終焉へと挑んだ。
絶対者たる己であっても、『物語の終わりには抗えないことを知っていながら』……。
だからこそ彼女は、ネピュラは終わりを迎えたあとも……現在に至っても、多くの世界の創造主たちから慕われているのだ。
それだけではない。彼女のその戦いは、終わりという現象……シャローヴァナルにも影響を及ぼした。シャローヴァナル自身にも、当時はわからなかった。しかし、感情を獲得したいま思い返してみれば……シャローヴァナルという存在が『最初に興味を抱いた』のはネピュラだった。
己ではなく他者のために、絶対に勝てぬと知りながらも戦うその姿を見たことが、思えば彼女に心が生まれる一番初めの切っ掛けになった。
もちろん当時はそんなことに気づきはしなかった。実際ネピュラを終わらせたあと、マキナに巡り合うまでには数字で表すのが困難なほど膨大な年月が経過している。
だか、確実に影響はあった。だからこそ、当時のシャローヴァナルは……『ネピュラが逃がした者たちに終わりを与えず次の世界に向かった』。
それまでのシャローヴァナルなら……いや、それから先のシャローヴァナルであっても、別の世界に逃げたとしても『別の世界に逃げた存在として終わりを与えていた』が、唯一その一度だけ……別の世界に逃げた者たちを見逃した。
思えばそれは、ほんの僅かに芽生えた心がそうさせたのかもしれない。……いずれ巡り巡って逃げ延びた世界に辿り着いたなら終わりを与えるが、ネピュラという存在に免じて一度だけは見逃す。
いまとなっては当時の心境は本人にすら分からないが……もしかしたら、ひとり終焉に立ち向かったネピュラへの微かな敬意の表れだったのかもしれない。
「……ひとつ教えろ、シャローヴァナル。妾が逃した者たちは、いまどうしている?」
「貴女が逃がした神は、しばしの後新しく世界を創造し直したみたいです。そのあとは創造した世界を別のものに任せてあちこちの世界を旅しているとか……まぁ、私も知り合いの神に聞いただけですが……」
「……そうか、『終わらせなかった』のだな」
シャローヴァナルがネピュラを復活させた際、彼女が一番初めに尋ねたのはそれだった。
「望むなら連絡を取ることも出来るかもしれませんが?」
「必要ない。妾は一度終わりを迎えた、その時点で当時の配下たちとの繋がりは切れている。いまさらかつての席に縋りつこうなどとは思わん……元気なら、それでいい」
ネピュラはそれ以上過去のことを尋ねたりすることはなく、シャローヴァナルが持ちかけた話に耳を傾けた。
「不満は山ほどあるが……いいだろう。貴様には知らぬうちに借りが出来ていたみたいだしな……しばし、犬扱いに甘んじてやろう」
「そうですか、了承してくれてなによりです。では、『貴女を精霊に変化』させますね」
「……いま、不満が一つ増えた。本当に、覚えておけよ貴様……」
???「余談ですが、いまもネピュラさんは数多の世界の創造主たちに深く信仰されているみたいで、それこそ彼女が一声かければ、ほぼかつてと同じ規模の勢力が彼女の元に集うみたいです。本人は復活したいまは新しく生まれ変わったと認識して、過去の立ち位置に戻る気はないみたいですがね」
シリアス先輩「そういえば、絶対者として相応しき立ち位置に~とかは心の声で言ってたけど、かつての栄光を取り戻す的なことはまったく言ってなかったし、しっかり切り替えてる感じがするな」




