究極の神④
成長した世界樹から現れたネピュラと名乗る少女は、明るい笑顔で自己紹介をしてきた。とりあえずこちらに対して有効そうな雰囲気で安心しつつ、俺も言葉を返す。
「俺は宮間快人、よろしくお願いします……えっと、ネピュラさん?」
「ネピュラと、そう呼んでください主様! 敬語も不要です!」
「えっと……それじゃあ、改めてよろしく……ネピュラは、え~と……精霊ってことでいいのかな?」
「はい! 妾は、主様の世界樹の精霊です」
パッと見た印象だと神秘的でクールな雰囲気だが、ネピュラは明るい性格みたいで1mほどの小柄な体躯も相まって可愛らしい印象も受ける。
俺を主様と呼ぶのはたぶん、世界樹の持ち主が俺だからだろう。しかし、やはりネピュラは世界樹の精霊らしい……リリウッドさんが精霊が宿らないようにしたと言っていた世界樹になぜ精霊が宿ったかは分からない。
ネピュラと話しつつ、俺はリリウッドさんにハミングバードを送った。リリウッドさんも忙しいだろうしすぐには難しくとも、確認してもらいたいと思ったからだった。
しかし、どうやらネピュラの件はよほどの異常事態らしく、一分も経たずに『十分以内に予定を調整して向かう』という内容のハミングバードが戻ってきた。
リリウッドとハミングバードのやり取りをする快人を見つめながら、ネピュラは心の中で思考を巡らせていた。
(下等生物ごときが、絶対者たる妾の上に立つなどありえん。調子に乗るなよ……いや、待て……しかし、主さ――下等生物に罪があるかと言われれば、そうとは言えない。悪いのはシャローヴァナルだ。それを考えるなら、コヤツも妾と同じく奴の被害者といえる。であれば、この下等生物に恨みを向けるのは絶対者としてやるべきことではない)
人間に仕えるということに沸騰しかけた頭を冷静にさせ、ネピュラはさらに思考を続ける。
(……そう、考え方を変えればいい。主さ――人間はある意味復活した妾の初の下僕と言っていいわけだ。ふむ、であれば重用してやらねばなるまい。そうだな、そう思えば多少の無礼など許してやらねばな)
ある意味傲慢な理論と言えるかもしれないが、彼女の中では納得いく結論に達したのか、心はだんだんと平静に戻っていく。
するとそのタイミングでリリウッドが到着して、変化のあった世界樹とネピュラを交互に見る。
『……なるほど、たしかに精霊のようです。それも、とてつもない力を秘めているみたいですね。そして木の方も、変化はしていてもたしかに世界樹ではありますね。なぜこうなったかはわかりませんが、新たな精霊の誕生は喜ばしいことです』
(……こ、このっ……準全能級にも届かぬ程度の力しか持たぬ者が、妾に対して何を上から話しておる! たとえ格落ちしていようとも、妾がその気になれば一瞬で……いや、待て)
精霊族の王として新たな精霊の誕生を微笑まし気な顔で見るリリウッド対し、一瞬プライドが刺激されかけたネピュラだったが、その途中であることに気付いて思考を修正する。
(コヤツは主様――我が下僕の知り合いだ。となれば妾がこの精霊を処するということは、下僕に迷惑をかけるということ……い、いかん!? 『下僕が妾に迷惑をかける』のはいい……妾より能力で劣るのだからそれは必然だ。それをすべて許すのが絶対者の器量というもの……だが『妾が下僕に迷惑をかける』のは絶対にあってはならないことだ。そのような行いは絶対者として恥でしかない!)
超高速で思考をまとめたネピュラは、リリウッドに対して笑顔を浮かべて話しかける。
「妾はネピュラと申します。よろしくお願いします、リリウッド様!」
『ええ、こちらこそ……なにか困ったことがあれば、気軽に声をかけてください』
「ありがとうございます!」
思考は一瞬で行われているため、傍目に見れば非常に友好的に顔合わせが終わったように見える……ネピュラの内心はどうであれ。
するとその場に、リリウッドに次いで快人から連絡を受けてクロムエイナもやってきた。クロムエイナはかつてリリウッドの本体である世界樹を育てた経験もあったが……さすがに今回の事態は特殊過ぎて、よく分からない様子だった。
簡単に自己紹介をしたあと、興味深そうにネピュラを見つめながら呟く。
「う~ん、やっぱり突然変異かなにかかな? それにしても……ネピュラちゃんは、とてつもない潜在能力を秘めていそうな感じがするね。成長したら、六王に匹敵するぐらいの力になるかもしれないね」
(……なんなのだコヤツは? 能力が偏り過ぎではないか……準全能級といったところではあるが、権能級の能力は『破壊に特化』したものばかり……破壊神かなにかか? これではバランスが悪すぎて、成長しても全能級には届かぬだろう……ふむ、主様……下僕の知り合いということは、広義に考えれば妾の庇護下といえる。いくつか創造系の権能でも付け加えておいてやるか……そうすれば、成長すれば全能級に届くだろう)
その後いろいろ調べてみた結果、ネピュラは突然変異で発生した新種の精霊という結論に纏まった。というのも、実際にネピュラは精霊であることは間違いなく、また快人やその関係者に対しても友好的で危険性はほぼ無いと判断された。
唯一警戒心の強いアリスはまだ警戒しているようだったが、それでも快人に大きな害などはないと判断したのか、解散するころには警戒もある程度緩まっていた。
シリアス先輩「内心では滅茶苦茶悪態ついてる……ように見せかけて、快人のことは何度も『主様』って呼ぼうとしてるし、友好的であるのは間違いないような……いったいあの天然神はどんな細工をしたのやら……」
 




