究極の神③
気持ちのいい目覚めだった。こう、なんというかスッキリ起きられたというか、熟睡できたというか……なんにせよ、朝からどこか清々しい気分で起き上がった。
そして今日はなんだかいい日になりそうだと、そんな風に感じながら朝の日差しを浴びるためにカーテンを開いて……。
「……」
あまりの光景に言葉を失った。窓を開けてすぐ俺の目に飛び込んできたのは、庭に生える『10メートルほどの木』だった。
位置的に考えると、間違いなくあの木は庭に植えていた世界樹だろうけど、昨日までせいぜい2~3メートルほどだった木が、朝起きると10メートルぐらいに成長してるとか、そんなことある?
……成長期かな? いや、そんなわけあってたまるか!
「……なんだアレ?」
「……なんすか、アレ?」
「アリス? お前でも、分からないのか?」
「分からないというか、いま『いきなり大きくなった』ので……」
突然姿を現したアリスも戸惑っている様子で、いま起きていることが異常事態だということが伝わってきた。
とりあえず近くに言って確認してみようと、俺は寝巻の上に上着を羽織って庭に向かう。アリスも姿を現したまま真剣な表情で少し後ろを付いてきており、なにかあったらすぐ対応できるように警戒している様子だった。
庭に出て大きな木の近くに辿り着くと……またも不思議な光景が目に飛びこんできた。というのも木を下から見上げると……葉の裏が黒っぽい青色で、ところどころ煌めいており……朝のはずなのにまるで満天の星空のように見えたからだ。
ユグフレシスで見た世界樹ともまったく違う、なんとも不思議な光景に目を奪われていると……不意に木が輝きを放ち、その光が一ヶ所に集まって人の形へと変わった。
現れたのは1mほどの妖精よりは大きいものの、小さいと言っていい体躯の少女。少女は空中に浮遊しており、俺に気付くとゆっくりと視線をこちらに向けた。
足元まである長くつやのある黒髪は、毛先に近づくにつれて青みがかっており、キラキラと星空のような不思議な輝きを放っている。
金色の瞳には黒いバツ印ような模様があり、どことなく不思議な雰囲気を放っている。身にまとう黒いドレスにも星空のような煌めきがあり……なんというか、まるで満天の星空、あるいは宇宙が擬人化したかのような、そんな印象を受ける少女だった。
……いったい、この子は……何者なんだ? もしかして、世界樹の精霊とかそんな感じだろうか?
いや、でも、たしかこの世界樹にはリリウッドさんが精霊が宿らないようにしているはずだし、仮になにかの手違いで精霊が宿ったとしても、アリスがここまで警戒するとも思えない。
となると、やっぱりなにかしらのイレギュラーな事態ということだろうか……とりあえず、目の前の少女から敵対的な感情は伝わってこないので、話しかけてみることにしよう。
快人の前に姿を現した少女……精霊へと姿を変えた究極神ネピュラは、心の中でこの場には居ないシャローヴァナルへの怒りを爆発させていた。
(お、おのれ……シャローヴァナル! 妾を、絶対者たるこの妾を、格落ちさせるだけではなく 精霊などという下等な生物へ作り変えるとは、この恨み絶対忘れんぞ!!)
圧倒的だった力を準全能級まで格下げされた上に、全てを内包するという彼女が持ちえた究極の力も『敵対した相手にのみ有効』という制限を加えられてしまっている。
いまの彼女は戦闘に関しては、かつてと同じように無敵と言っていいが、己を敵視してない相手に対しては準全能級の力しか発揮できないように弱体化されてしまっており、己を絶対者として認識している彼女にとってそれは耐えがたいほどの屈辱だった。
(……まぁ、よい。どうあろうと妾が絶対者であることは変わらん。たとえ人間などという下等生物に仕えなければならないとしても……人間などという下等生物に……)
シャローヴァナルへの怒りを心の中で燃やしつつも少し冷静さを取り戻し、これから己が使えなければならないという人間に視線を向けて……頭が真っ白になった。
(……え? もの凄く、カッコいい――はっ!? なんだこの胸の高鳴りは? シャ、シャローヴァナル! さては、他にもなにか妾に手を加えたな……おそらくこの人間に対して好意を持つように細工したといったところか……ぐ、ぐぬぬ……お、おのれぇ、ふざけるなよ。この程度で、妾が下等生物に懐柔されるとでも思っているのか!)
心の中でさらなる怒りの炎を燃え上がらせるネピュラに対し、快人が恐る恐るといった様子で声をかける。
「……えっと、君は?」
そんな快人に対し、数多の多重世界を統べ、かつて究極神と呼ばれた絶対者……ネピュラは――。
「初めまして、主様! 妾はネピュラと申します!」
――輝くような笑顔で元気よく挨拶を返した。
シリアス先輩「おいぃぃぃぃ!? 過去最速レベルで即落ちしたんだけど!」
???「ま、まぁ、落ち着いてください。まだ心の中でどう思ってるかは分かりませんしね」
シリアス先輩「……それはまぁ、そうだけど……もう不安しかないよ」
 




