究極の神①
マキナとの恒例の特訓を終え、疲労した体を休めていたアリスは、ふと思いついたように言葉を発した。
「そういえば、マキナ。ちょっと聞いていいっすか?」
「うん? なにを?」
「世界の創造主ってたくさんいるわけじゃないですか……その中でマキナって、どのぐらい強い位置づけなんですか?」
「う~ん」
他の世界の創造主について興味を持ったアリスが尋ねると、マキナは考えるように指を顎に当てて唸る。
「……難しい質問だね。ていうのも、そもそも全知全能クラス以上になると戦いになること自体少ないんだよ。そのレベルになると、戦ったとしてもまともに勝敗が決まること自体が稀だからね。なにせお互いひたすらに後出しジャンケンしてるようなものだし、戦いってなると数万年とか数億年単位でやり合うことになるわけだからね……本当によっぽどの理由でもない限り、できるだけ戦いは避けようとするね」
「なるほど、たしかに六王と六王がガチで決着着くまで戦うとしたら、相当の年月戦うことになるでしょうし、それ以上のクラスになるとさらに規模が違うわけですね」
「うん。基本的に全知全能クラス同士の戦いは我慢比べだよ。ある程度の期間戦って、互いに契約を結んで停戦するみたいな感じだね。私は全知全能よりは強いから戦えば大半の相手に勝てるけど……それでも本当に滅茶苦茶時間がかかるからやりたくないね。逆にそういう、本来なら莫大な年月をかけて戦うはずの戦いを、早期決着できるような力を持つ者は、明確に他より格上って言っていいと思う」
「ふむ」
マキナの話を聞いてアリスの頭に浮かんだのは、シャローヴァナルの持つ論外の力物語の終わりだった。
逆に言えば、そう言った明確かつ異常な力を持たぬ限り、そうそう誰が強いとは断言しにくいのが世界創造の神の領域ということなのだろう。
するとそこでマキナはなにやら真剣な表情になって、ゆっくりと口を開く。
「……その前提条件の上で、私が『戦っても絶対に勝てない』って明言できる存在は『ふたり』……ひとりは分かるよね? そう、シャローヴァナルだよ」
「もうひとりは?」
「……かつて数多の多重世界を支配下に置き、数多の世界の創造主の中で唯一『究極』という呼び名を冠された絶対者……『究極神ネピュラ』。別の通り名では『全能殺しのネピュラ』って呼ばれる存在だね」
「……究極神……ネピュラ……」
重々しく告げられた言葉に、アリスも真剣な表情を浮かべて呟く。ただ名前を告げられただけで、不思議と周囲の空気が重たくなったような、そんな気さえした。
「シャローヴァナルが最強……というか、論外であるってのは結果が証明している。けど、そのシャローヴァナルを除けばネピュラは、間違いなく最強って呼んでいい存在だと思うよ」
「……さっきの話から察するに、なんらかの特別な能力を持っているってことですよね?」
「うん。ネピュラの持つ力は『全てを内包する』っていう力……本当にザックリ言っちゃうと、ネピュラはあらゆる力、あらゆる存在に対して『絶対的に上位』とでもいうべきかな? 対峙した時点であらゆる存在はネピュラの腹の中にいるも同然……例えば相手が全知全能なら、ネピュラは全知全能を内包した『常に完全なる上位互換』。あらゆる力はネピュラに通じず、ネピュラはあらゆる力を支配できる。全知全能の存在から、『全知全能を取り上げる』なんてことも簡単にできちゃうわけだね」
「あぁ、なるほど……だから、全能殺しですか」
常にありとあらゆる存在や能力に対して絶対的に上位……まさに絶対者と呼ぶべき能力を聞いて、アリスは少し驚いたような表情を浮かべつつも、全知全能の存在たちの頂点に立つのならそれぐらいの力を持っていてもおかしくないだろうと、そう感じていた。
「……ネピュラは己の世界を持たない神だったけど、その力で文字通り星の数ほどの世界の創造主を従えて、数多の世界の頂点に君臨していた。まぁ、文字通り最強の存在だったわけだね」
「……あ~予想が間違ってたらすみません。さっきから『全部過去形』なのは、つまり……」
「言ったでしょ? シャローヴァナルが最強っていうのは『結果が証明してる』って……そうだよ。ネピュラはシャローヴァナルによって終わりを迎えた。むしろ絶対者たるネピュラですらどうにもならなかったからこそ、シャローヴァナルは数多の世界の創造主たちに心底恐れられてたわけだね」
「……なるほど、いやはやまったく上には上がいるものですね」
「さすがにシャローヴァナルとかネピュラは論外の領域で、ちょっと他とはレベルが違い過ぎるけどね。まぁ、アリスの疑問への答えはこんな感じでいいかな?」
「ええ、勉強になりました。ありがとうございます」
アリスの疑問にマキナが答えていたころ……神界の神域では、シャローヴァナルがある存在と向かい合ってお茶を飲んでいた。
「……つまり、なんだ……シャローヴァナル。こう言いたいわけだな? 妾に……この、絶対者たる妾に……その宮間快人とかいう、下等生物の下に付けと……そう言いたいわけか?」
「というより、『番犬』になってほしいのです」
「わ、妾を……言うに事欠いて……犬扱いか、貴様は本当に妾を怒らせるのが上手いな」
「ありがとうございます」
「褒め取らんわっ!!」
明確に怒りを露わにする相手に対して、シャローヴァナルは特に気にした様子もなく淡々と告げる。
「ともかくそういうわけですので、了承してくれますか? ……『ネピュラ』」
シリアス先輩「……やれ、もっとだ。いいぞこれ! 来てるよ!! 第二部になってから、ようやくまともなシリアスの気配が来てるよ!!」
???「……きて、ますかね? いや、まぁ……夢見るだけなら好きにすればいいですけど……正直、そうやってシリアス先輩がはしゃいでる時点で、結果は見えましたけどね」
シリアス先輩「メタ発言やめろ!!」




