閑話・アリス~二人の親友の顔合わせ~
恒例となった特訓に向かう途中、アリスは彼女にしては珍しく悩むような表情を浮かべていた。その原因は、現在一緒にマキナの元へ向かっている……イリスの存在だった。
アリスにとってはイリスとマキナはどちらもかけがえのない親友ではあるのだが、直接の面識はいままでなかったので、一度ちゃんと紹介しておこうかと思って連れてきたのだが……マキナがどういう反応をするかが分からなかった。
というのもイリスは、当然ではあるが『我が子ではない』となると、普通に考えれば塩対応かとも思うが……マキナがアリスの親友を無下に扱うとも思えない。
となればいったいどの程度友好的なのか……他に例がない以上、さすがのアリスでも完璧に読むことは難しかった。
「……」
「……」
そして実際に引き合わせてみると、マキナもイリスもしばし無言で見つめ合い、少ししてからマキナが口を開く。
「……えっと、私もイリスって呼んでいいかな? 私のこともマキナって呼んでくれればいいし、敬語もいらないよ」
「構わぬが……我の方は気安い態度で、かまわないのか? 我は我が子とやらではないが?」
「いや、さすがに私が生まれるより前の時代の人に対して、我が子だとかそうじゃないとか言う気はないよ。イリスの話はアリスからよく聞いてたし、こうして会えて嬉しいよ」
どうやらアリスの心配は杞憂だったようで、マキナはイリスに対して非常に友好的だった。素に近い状態で応対しており、アリスはそっと胸を撫で下ろしたが……彼女にとっての災難はこれからだった。
初めはぎこちなく会話をしていたが、ある程度話すと打ち解けてきたのか、マキナとイリスの会話は盛り上がりを見せていた。
「……そう、そうなんだよね! アリスってば本当に強引でさ、私もさんざん引っ張りまわされたよ」
「ああ、分かる。コヤツは時々思い付き先行で取り合えず行動というパターンがあるからな。頭がいいので、最終的に無難な結果に落ち着くが、振り回されるこちらは大変だ」
「わかる! そうなんだよね、突拍子もないことするんだよね」
楽し気に話す親友ふたりを見て、アリスはなんとも言えない微妙な表情で浮かべてみていた。これはある意味仕方がない結果だ。
マキナとイリス、ふたりにとって共通の話題といって真っ先に思い浮かぶのはアリスの話であり、必然的にこちらの話が多くなる。
「……なんすかねこれ、友達と友達を会せたら、共通の話題である私のことで盛り上がってて、私自身は会話に入り辛い上にあんまりされたくない昔話もどんどん出てくるっていう」
引き合わせたのは自分自身であるため文句も言い辛く、せっかく盛り上がっているのに話を止めるのも躊躇してしまう。
そう考えたアリスは、微妙な表情を浮かべながら親友ふたりを眺めていた。
「それでさ、アリスが~」
「ああ、コヤツは昔から妙なところで馬鹿を発揮するからな。かつて旅していた時の話だが……」
「……」
己の過去の話で盛り上がられるというのは、どうにも落ち着かない思いであり、アリスは落ち着かない様子でナイフなどの道具の手入れをしているが、その肩はプルプルとなにかを我慢するように震えている。
「……そうして、ただの薬草相手に大立ち回りというわけだ」
「あはは、アリスらしいっていえばらしいかもしれないね。どこまで冗談か分からないことがあるしねぇ」
「………………」
そのうち終わるだろうと、そう思っていたアリスだったが……イリスとマキナの話は30分ほど経っても盛り上がり続けており、次々に互いしか知らないアリスの過去のエピソードを話し始める。
しかも得てしてこういう場合に出されるのは、失敗談的な話が多く、アリスとしてはいい加減我慢の限界が来ようとしていた。
「……こんな感じにキリッとした顔してたね。頭にワカメ乗っかってなきゃカッコよかったんだけどなぁ」
「どうにも抜けているところがあるからな。我と旅をしていた時にも……」
「お前らいい加減にしろぉぉぉぉぉ!!」
「「うん?」」
「いつまで人の恥ずかしエピソードで盛り上がる気なんですか、もう1時間たってるんすよ!! ずっと聞かされてる私の身にもなれぇぇぇぇ!!」
我慢に我慢を重ねたアリスだったが、さすがにこれ以上の羞恥プレイには耐えられないと猛然とふたりに食って掛かる。
まぁ、仮にここで止めたとしても……「じゃあ続きはまた次の機会に」となるだけではあるが……。
「……あの、アリス?」
「なんすか?」
「なんでお前、そんな不機嫌なの?」
「……別に、過去の自分の行いと、いまの自分の迂闊さを後悔しているだけですよ」
「……お前って、割と高頻度で後悔してるよな……まぁ、それは分かったけど、俺はどこに引っ張って行かれてるんだ?」
不機嫌そうな顔で手を引くアリスに、快人はなんとも言えない表情を浮かべる。
「アリスちゃんは傷心なんです! 可愛い恋人が傷心してるんすから、カイトさんも気持ちのケアに協力してくれますよね?」
「……いや、協力はするけど……気持ちのケアって、いったいどこに、なにをしに?」
「やけ食いに付き合ってください!!」
「……お前の気持ちのケアってそれでいいのか……いや、まぁ、本人がいいならいいけど」
やけ食いに付き合えというアリスに対して、若干呆れたような呟きつつも、快人はしょうがないなぁと言いたげな表情で苦笑した。
……ちなみにここで『協力する』という言質を取られた結果、最終的にやけ食いをした分を驕る羽目になったため、ある意味今回の件で一番被害を受けたのは快人と言えるかもしれない。
Q、普段でもいっぱい食べるアリスちゃんがやけ食いをしたら、どうなるの?
A、快人の財布から白金貨(1000万)が数枚消えた




