宮間快人の長い一日⑩
マキナさんの話は驚きの内容だった。まさか、アリスの知り合いだったとは……いや、本当に驚いた。しかも、アリスの親友で神に成ることを選びアリスと分かれたマキナさんが創造した世界、そこで生まれた俺が巡り巡って再びアリスとマキナさんを再会させるきっかけにもなったというのだから、なんとも凄まじい。
「……私は全知全能だよ。なんでもできるって思うでしょ? 実際できないことは無いって言ってもいいと思うんだ……それでも『間違うことはある』。一度間違えた私には救うことができなかったアリシア……アリスを救ってくれて、ありがとう」
「……マキナさん」
「我が子はきっと、自分がそうしたいからしただけっていうだろうけどさ、それでもアリスが救われたのは確かだよ。だから、一度ちゃんとお礼を言っておきたかったんだ」
そう言って微笑むマキナさんの表情は、ほんの少しだけ後悔しているようにも見えた。いや、後悔はしていないのだろう、それでも……もし、あの時アリスの苦悩に気付けていればと、そういう気持ちが少しは残っているのだと思う。
もしかしたらマキナさんなら、その気になれば過去を改変することも出来るのかもしれないが……。
そんな風に考えていると、マキナさんは軽く首を横に振った。
「できたとしても、そんなことはしないし、する必要もないよ。アリスはそんなIFよりも、いまの方がずっと幸せそうだしね」
「そうですか……」
「まぁ、そんなわけで、私は我が子に本当に感謝してるんだよ。そうだっ! もしなにか、お願いがあるなら言ってみて? ここで叶えられないことでも、あとで叶えてあげられるよ」
明るく笑いながら告げる言葉に、反射的にお礼なんていらないと言いかけたが……不意にあることを思いついた。いや、本当に思いつきなので、駄目なら駄目で構わないのだが……。
「……マキナさん、それじゃあ……夢の中じゃない現実の貴女のことを思い出したいっていったら?」
「……なるほど、そうきたか~。う~ん、私の神の威厳的にはちょっと躊躇しちゃうんだけど……起きたら忘れちゃうよ?」
「ええ、それでも、いまだけだとしても、知っておきたいんです」
「そっか……」
俺とマキナさんは知り合い……らしい。いや、『そっちの私』という風な言い回しをするので、姿を変えている可能性もあるのだが、それでも彼女がいったい誰なのか知りたかった。
マキナさんは少しだけ悩むような表情を浮かべたあとで苦笑し、パチンと指を弾いた。
「ッ!?」
その直後に、いままでまったく思い出せなかったことが頭に思い浮かんできて……彼女が誰なのかがすぐに結びついた。
「……マキナさんが、エデンさんの本体だったんですね」
「ふふふ、うん。そういうことだね」
「じゃあ、もしかして前にハンバーガーの話をした時のって……」
「あ~あれはついうっかり素が出ちゃった感じだね。私にも神としての威厳とかそういうのがあるから、普段は威厳ある態度で振舞ってるつもりなんだけど、つい気がゆるんじゃったね」
……威厳ある態度? いや、まぁ、それは置いておいて、まさかエデンさんとマキナさんが同一人物だったとは驚きである。
通りで言葉や雰囲気の節々から、そこはかとないヤバさを感じるわけだよ……心底納得した。
「……まぁ、これで私が我が子をここに呼んだ用件はもう終わったし、我が子のお願いも聞けたからこれでお開きでもいいんだけど……とりあえず我が子が目覚めるまであと『26分38秒』あるし、のんびりはなしでもしよっか~」
「……そ、そうですね」
なんで、ナチュラルに俺が目覚めるまでの時間を秒の単位まで把握してるのかなぁ……やっぱり、雰囲気が変わっても、さすがエデンさんの中身というべきか……。
「あ~でも、ここはいいね。シャローヴァナルとの契約の問題があるし、私も本体にダメージを与えられるから、暴走の心配がほぼ無いよ」
「ほぼ、なんですね……というか、自分で暴走ってわかってるなら、なんとかならないんですか?」
「それができるなら、私も苦労してないんだけどねぇ。我が子が可愛すぎるのが原因だし、ある意味我が子が悪いのでは?」
「理不尽すぎる……」
「あはは、ごめんごめん、冗談だよ」
楽し気に笑うマキナさんは、エデンさんの時より幼い感じで、なんとなくではあるが普段より少し話しやすい気がした。
いや、まぁ、狂気はところどころに滲んでるけど……まぁ、ある程度自制してくれてるだけ、マシと思うべきだろう。
「あっ、そうだ。なんなら今度、アリスも交えて三人で話すのも面白いかもね」
「それは、楽しそうですか……なんかアリスが嫌がりそうですね」
「昔話されるの嫌がるからね~でも、そんなに変わってるわけじゃないんだよ。いや、長い年月が経ってひねくれてはいるけど、根本的な部分は変わってないよ」
「ふむ、アリスの昔話にはちょっと興味がありますね」
「そうだね~さっき話したの以外だと、一緒に旅行したんだけどさ、その誘い方がまた強引で……」
アリスの……親友の話を楽し気にするマキナさんを見て、俺も少し肩の力が抜けて、微笑みを浮かべつつ相槌をうちながら、目が覚めるまでの間、マキナさんとの雑談を楽しんだ。
???「なんでひとつ前の話より状況が悪くなってるんですか!! 恐ろしい雑談会を企画するのマジ止めてくれませんか……文字通り悪夢んじゃねぇっすか」




