宮間快人の長い一日②
エデンさんとふたりで出かけることは、まぁいい……いや、不安は凄まじいが、それでもそうそういう話になった以上、いまさら文句を言う気もない。
だが、それとは別に気になる点がある。それは、一体エデンさんがいつまで持つかという話である。
このふたりで出かけるという話までに、エデンさんはフェイズ2まで進行している。これまでの経験上、あと5~10分ほどで暴走するであろう段階だ。
そうなると、目的地に着くまでにエデンさんが暴走してお開きということにならないだろうか?
そんな風に考えながら、エデンさんの方を見ると……表情が深い笑みに変わっていた。フェイズ3に入った。ということはもうほぼ暴走まで秒読み状態といえる。
反射的に首元のネックレスに魔力を送ってクロにサインを送ろうとしたが、その直後にエデンさんはこれまでとは違う行動をとった。
「……申し訳ありません。少し、失礼します」
「え?」
一言告げたあとでエデンさんは姿を消し、数秒で戻ってきた。摩訶不思議なその行動に首を傾げていると、エデンさんは先ほどまでとは違う穏やかな微笑みを浮かべた。
「お待たせしました。さっそく出発しましょう、我が子」
「……あれ?」
え? なんで? 深い笑みも消えて、早口でもなくなって、俺の呼び方も我が子になった……フェイズ0に戻ってる!?
ど、どうなってるんだ? いままでこんなことは一度もなかった……自力で暴走を抑えたって、そういうことなのか?
「……エ、エデンさん? いま、なにをしたんですか?」
「少々我が子への愛が爆発しそうだったので、時間の流れを変えた空間を作り、そこで『数日経過』して頭を冷やしてから戻ってきました」
「……そ、そうですか……」
暴走対策をしてきただと!? そ、そうか……たぶんエデンさんも、暴走すればこのお出かけがお開きになるって分かってるんだ。だから、ある程度理性が残っている段階でクールダウンすることで、暴走を抑制したというわけだ。
な、なんというか、エデンさんの本気度がうかがえる。うかがえるが……。
「あの、エデンさん? そもそも、暴……愛を爆発させないように我慢するというのは?」
「不可能です」
「……じゃあ、しょうがないですね」
そっかぁ、根本的に暴走しないってのは不可能なのかぁ。全知全能の神様が不可能って断言するぐらいなんだから、全知全能でもどうにもならないのだろう。
じゃぁ、しょうがないよなぁ……暴走しないエデンさんというのは諦めよう。ただそれでも、自力で暴走を抑えようとしてくれているのはありがたい、俺の安全度も上がるというものだ。
……と、そんな風に甘く考えていた少し前の自分をぶん殴りたい気持ちだ。
あのあと、エデンさんと共に目的地に向けて出発したわけだが、エデンさん曰く転移で行くのも風情が無いとのことで、空を飛んで移動している。
俺はエデンさんに浮遊させてもらって移動していたわけだが、その途中でエデンさんはまたフェイズ2まで進行した。
今回はフェイズ2の段階でエデンさん自身で気付いたらしく、再びクールダウンのためにエデンさんは数秒姿を消してから戻ってきた……『深い笑みを浮かべて』『どす黒い狂気を瞳に宿しながら』。
「お待たせしました、愛しい我が子」
「……エデンさん、即刻もう一度クールダウンしてきてください」
「む? 愛しい我が子がそう言うなら……」
クールダウンしたとしても、必ず戻ってきた時にフェイズ0になるわけじゃなくて、進行してるパターンもあるのか!? しかも、いまのはフェイズ4じゃないか!? あぶない……少しでもクールダウンに戻すのが遅れていたら、確実に暴走していた。
「愛しい我が子、これで問題ありませんか?」
「あ~そうですね。それなら、なんとか……」
今度はフェイズ1……これもしかして、クールダウンする度にランダムで切り替わるのか? き、気が抜けない……3とか4だったら、即座にクールダウンに戻さないと危険だ。
ともかく俺が神経を研ぎ澄ませて置いて、戻ってきた直後の様子で的確に現在の状態を判断しなければ、待つのは暴走だろう。
正直、最初は暴走してお開きになってもいいかなぁとか思ってたが……エデンさんが、曲がりなりにも自己対策して努力している……つまり、それだけどうしても俺と一緒に出かけたいと考えていることを思うと、なんとか力になりたいとは思う。
まぁ、さすがに初手暴走状態とかだとどうにもならないが、それ以外なら俺が素早く気付くことで対応可能なはずだ。
ともかく、エデンさんが姿を消して戻ってきたらその時は要注意だ。即座に確認するべきは口元……微笑みか深い笑みかだ。
微笑みであればフェイズ0~2の間なので、絶対ではないとはいえ暴走まではある程度猶予がある。だが深い笑みの場合は、本当に油断すると即暴走の危険があるので、素早い判断が求められる。
……これ、仮におすすめの場所についても、景色見る余裕とかあるのだろうか?
シリアス先輩「……おかしいな? なんでふたりで散策に行くだけのはずなのに、主人公がかつてないほどシリアスな感じで、命を懸けたギャンブルに挑むみたいな心理状態になってるんだろう?」
???「……実際のところ、命じゃなくて貞操はかかってそうな気もしますがね」
シリアス先輩「…‥というか、アイツ、自力で抑制できたのか?」
???「いや、おそらく相当無理して我慢してるんだと思います。たぶん繰り返すごとに、フェイズ1とか2は出なくなって、3とか4ばかりになりそうな予感がします」
シリアス先輩「……なにその、繰り返すたびに耐性上がって状態異常が効きにくくなるみたいなやつ……」




