並んで同じものを見て
本日はコミカライズ版5巻の発売日です!
ガンロックドラゴンものとを訪ねたあとは、他の竜種……特に最後まで残っていた四体の竜種の元を優先して訪れた。
驚いたのは、その際にテンペストドラゴンが、以前俺とリリアさんが魔界を旅行した際に挨拶に来た個体ということが分かり、奇妙な縁を感じた。
ある程度ドラゴンたちの元を回ったあとは、交流会がそのまま食事会となり、食事するドラゴンたちをリリアさんと一緒にレジャーシートに座って眺めつつ、いくつか分けてもらった食材とマジックボックスに入っているものを食べていた。
ドラゴンたちがくれた食材はやはり肉が多かったので、野菜やパンなどを出して食べる。ちゃんと俺たちのために、焼いてから渡してくれた肉を薄く切って、少し前にティルさんにいっぱい貰った野菜と共にパンに挟めばサンドイッチの完成である。
「……カイトさん、カイトさん」
「はい?」
「これはもしかして、ピクニックというものなのでは?」
「……まぁ、近いかもしれませんけど、なんでまた?」
「いえ、野営などは騎士団に居た際に行いましたが、ピクニックというのは初めてで、なんだか少しウキウキしてしまいますね」
そういえば、ついつい忘れがちになってしまうがリリアさんは元王女で現公爵、相当な上流階級である。たしかに、レジャーシートに座って食事する機会とかはほぼ無いと言っていいだろう。
「なるほど、気持ちは回りますよ。こうやって外で食事をするのって、楽しいですよね」
「はい! 淑女らしくは……ないかもしれませんが……」
「う~ん、あんまりピクニックと淑女は関係ないような気が……貴族らしくないといえば、まぁ、そんな気がしないでもないですが……それに関しては本当にいまさらですし」
「あれ? おかしいですね。いまなんだか、私が貴族らしくないと言われたような」
まぁ、貴族でも乗馬が趣味で遠乗りとかする人も居るだろうし、ピクニックとかもしそうな気はするが、なんとなくレジャーシート敷いて弁当食べてというと、庶民的な感じがする。
「……リリアさんが貴族らしくないというのは、以前どころか、この世界に召喚されて少し経った頃には思ってました」
「い、いちおう、生まれながらに貴族なのですが……」
「いや、でも、悪い意味で言ってるわけじゃないですよ。リリアさんが貴族らしくなくて、親しみやすい優しい人だったから、俺だけじゃなく葵ちゃんや陽菜ちゃんも安心して過ごせましたからね」
これは、本心である。リリアさんがあまり貴族的な感じではなく、優しく話しやすい相手だったからこそ、突然異世界に召喚された混乱や不安も和らいだ。
本当にリリアさんが俺たちを召喚してよかったと、そう思う。他の貴族が召喚の責任者だった場合、同じように楽しく過ごせたとは思えない。
「ほ、褒められているということでいいんでしょうか?」
「そのつもりですよ。それに俺は、貴族らしくない優しくて可愛いリリアさんが、好きですからね」
「……あ、ありがとうございます」
素直に思いを口にすると、リリアさんは耳まで真っ赤にして俯きながら小さな声でお礼の言葉を返してきた。そのなんともリリアさんらしい反応に苦笑していると、リリアさんは恥ずかしさを誤魔化すように視線を空に向けて口を開く。
「……もうひとつお礼を……今日は誘ってくれて、ありがとうございました」
「リリアさんが楽しんでくれたみたいなら、なによりです」
「ええ、本当に楽しくてあっという間でしたね」
「リラックスして楽しんでるように見えたので、俺も誘ってよかったって思いましたよ。日ごろなにかと気苦労をかけることが多いので……」
今日のリリアさんは少し子供っぽい雰囲気で、無邪気に楽しんでいるように見えた。気分をリフレッシュできたのなら、本当に誘ったかいがあるというものだ。
「まぁ、カイトさんの行動に関しては、もう少し手加減をしてもらいたいものですけどね」
「うぐっ……」
「六王様方の幹部と知り合うというだけでも『またか……』という感じなのに、順番を宣言したと思ったら全然違う方と知り合ってきたりしますし……」
「そ、その辺りに関しては、大変申し訳なく……」
本当に何故か、いろんな流れというか出会いというか……リリアさんの胃にダメージを与える方向にばかり転がるのは、大変申し訳ない気分である。
まぁ……ジークさんが海水浴の時に、リリアさんは昔っから厄介事を引き寄せる的なことも言っていたが、胃痛の原因は主に……少なくとも8割以上は俺が原因である。なんなら10割かもしれない。
なんともいたたまれない感じで、返答に困っていると……リリアさんはこちらを向いて悪戯っぽく笑う。
「でも、私は……そんな困ったところも全部ひっくるめて……カイトさんのことが、好きですよ」
「リリアさん……」
「まぁ、容赦してほしいのは本音ですがね」
そう言って苦笑したあと、リリアさんは恥ずかしそうに頬を染めながら、そっとこちらに身を寄せてきた。密着するわけでは無いがすぐ近く……恥ずかしがり屋のリリアさんとしては、それでも相当勇気を振り絞ってくれたのは想像できる。
まぁ……愛おしさのままに肩を抱いたら、湯気でも出そうなほど顔を赤くしているので、キスとかしたら気絶しそうではある。
???「これだけ密着しても気絶しないのは……結構成長した方な気がしますね」
シリアス先輩「……アマイ……ヤダ……シンドイ」
???「こっちは成長しませんね」




