ドラゴンカーニバル③
軽く雑談を終えたあと、フレアさんは一度頷いてから本題に入る。
「……さて、これより現地に案内するわけだが、現地までは我が運ぶ。ただ、我は竜の姿では通常の言葉を発することができないのでな、質問があるのであればいまのうちに聞いておく」
「いえ、これといって質問は……」
そう言いながらチラリとリリアさんの方を向くと、リリアさんも質問は無いと首を横に振る。フレアさんはソレを見て一度頷いたあと、組んでいた腕を解く。
「では、参るとしよう。我が背に乗るがいい」
そう告げると同時に、フレアさんの体が光ったかと思うとフレアさんは竜の姿に変わっていた。燃え盛る炎のような赤い鱗、数多の戦いを感じる傷跡、翼と一体化した腕。
色以外はたしかに俺が見たことあるワイバーンを大きくしたような感じだが、迫力の桁が違うというか、凄まじいほどの強者のオーラがある。
なんか背後に燃え盛る炎でも見えるような気がするほどで、思わず圧倒されていると、不意に頭にフレアさんの声が響いた。
(ふたりであれば、我のサイズでも問題はないだろう)
「あっ、そうですね。俺とリリアさんなら十分乗り切れるかと」
(……む? 戦友よ、貴公……我の言葉が分かるのか?)
「え? えっと、頭に声が響いてますけど……そういうテレパシー的なことをしてるわけでは、ないんですか?」
なにやらフレアさんが驚いている様子だったので、首を傾げながらリリアさんの方を見ると、リリアさんは首を横に振る。
どうやらいまフレアさんの声が聞こえているのは俺だけで、リリアさんには聞こえていない。あと、フレアさんの反応を見る限り、シロさんみたいに頭の中に直接話しかけているというわけでもないようだ。
(……今現在、我は魔力波長を飛ばしている。言ってみれば竜種や魔物の多くが行う会話手段ではある)
「それが俺に聞こえてるってことは、もしかして感応魔法が原因ですかね?」
(いや、聞こえているのもそうだが……貴公は、我の魔力波長を……《言語として認識できている》のであろう? 感知するだけでは、ただの魔力でしかない。それを言語として認識しているのなら、なにか別の力が働いていると考えるべきだろう)
「……別の力……シロさんの祝福、ですかね?」
感応魔法で読み取ったとしても、同じ竜種や魔物でもない限り、言語としては認識できないはずの魔力波長を言葉として聞き取れている。
感応魔法でないとすれば、あと考えられるのはシロさんの祝福以外にはない。シロさんの祝福はいまだよく分からない部分も多いが、全神族の祝福の上位らしいので、その中に魔力波長を言語として認識できるような祝福があるのなら……。
そしてこれに関して、俺には他にも似たような経験がある。それは、ベルとリンに関するものだ。
俺にはベルやリンがなにを言いたいかというのが、ある程度分かり、いままでそれは感応魔法によって感情を読み取っているからなのだと思っていたが……よくよく考えればおかしい部分もある。
というのも、ベルとリンで分かり方に差があるのだ。
ベルの方は、割と大雑把な感情しか分からない。喜んでいたり、これが好き、これが嫌い、などの単純なものがほとんどだが、リンの方はある程度なにが言いたいかを察することができていた。
世界樹の果実を欲しがったり、自分に任せろといったり、あとで褒めてと言ったりといった感じだ。それはもしかして、魔力波長を読み取っていたのかもしれない。
まだ赤ん坊であるベルと子供ではあるもののベルよりは年上なリンで、意思の伝わり方に差があったのはそれが原因ではないかと思う。
また今度改めて検証してみるのもいいかもしれない。上手くいけば前々以上に二匹と意思疎通がしやすくなるかもしれない。
(……なるほどな、思念神などの神の祝福、あるいは別の祝福の効果などが複合した結果かもしれんな。だが、僥倖と言っていい。この姿でも意思疎通ができるのであれば、我としては嬉しい限りだ)
「まぁ、たしかに困ることでは無いですね」
(うむ……っと、話が逸れたな。改めて、会場に向かうとしよう)
そう言って身を屈めたフレアさんの背にリリアさんと共に乗る。リリアさんには現在フレアさんの声が聞こえないので、俺が通訳するような形になるが……それ以上にリリアさんは、フレアさんの背に乗ったことに感動しているみたいだった。
努めて冷静でいようとしているみたいだが、嬉しさを隠せていないというか、感動しているようにもみえる。
なんというか、思い付きでリリアさんを誘ったわけだけど、思った以上にリリアさんが楽しそうで、本当によかったと思う。
日頃いろいろ迷惑もかけているし、こういう機会には思いっきり楽しんでもらいたいものだ。
シリアス先輩「これって、結構前々から貼ってたけど回収できてなかった伏線だよね? 治癒のブレスのくだりの時とかに、リンの鳴き声だけ言葉みたいに認識してたりしたし」
???「まぁ、ベルも二年で成長しているので、もうそろそろ以前のリンぐらいに意思疎通ができてもおかしくは無いですね。ベヒモスは大器晩成型なので、成長は遅いですが」




