六王幹部に会おう・七姫編⑦
クロのおかげでピーマンを食べる展開を避けることができたあとは、ふたりとお茶……というよりは軽い食事会を開始した。
テーブルにはティルさんの育てた野菜や果物が並んでいて、スティック状にカットした野菜などを、ドレッシングを付けて食べる。
本当にどれも獲れたて新鮮で、非常に美味しい。まぁ、俺としては肉とかも一緒に食べたいところではあるが、ラズさんとティルさんは肉類は食べないので、俺もマジックボックスから肉を出したりはせず野菜のみを楽しむ。
野菜や果物を食べながら、交わす会話はふたりについての話であり、仲良しだというふたりの話を微笑ましく聞いている感じだ。
どうもここまで話をした感じ、ティルさんはラズさんを相当慕っているらしく、たびたび「ラズ様は凄い」的な話をすることが多い。
「……そういえば、ティルさんが二代目の妖精王で、ラズさんが初代の妖精王でしたっけ?」
「はいです! ティルはまだまだラズ様には敵いませんが、妖精王やってるです!」
「ティルは立派にやってると思いますよ~」
「ちなみに、なんでラズさんは妖精王を辞めたんですか?」
「ラズは、クロム様に誘われて一緒に暮らすことにして、妖精の森から引っ越したからです」
いわゆる妖精の集落みたいな場所があって、そこのまとめ役が妖精王って認識でいいのかな? それでその集落から離れることになったから、そのまとめ役の地位もティルさんに譲ったって感じかな?
「……あれ? ティルさんの畑がここにあるってことは、ティルさんはこの辺に住んでるんですよね?」
「そうですよ?」
「ということは、妖精の森ってのはユグフレシスの近くにあるんですか?」
「はいです! ユグフレシスの南の森にあるですよ。あと人界にお引越しした子たちもいまして、その子たちはリグフォレシア近くの森に住んでるです」
なんとなくふたりの天真爛漫なイメージから、妖精王とは言っても国のようにガッチリした集団の長ではなく、村長とかそんな感じのイメージが湧いてしまう。
その後にいろいろ話を聞いてみると、俺の予想は間違いではなく、妖精王としての仕事はたいしてないとのことで、あくまで妖精たちの代表みたいなイメージで大丈夫らしい。
「ちなみに、不勉強ですみません。俺はあまり妖精と精霊の違いが分からないんですけど……」
「えっとですねぇ、えっと……リリウッド様がなんか言ってたです。う~んと……」
「あ、アレです。ラズもクロム様から聞いたことがあるです。えっと……か、体が……体がなんとかって……」
素朴な疑問として尋ねたのだが、ティルさんとラズさんは困った様子で首を傾げ始めてしまった。いちおう違いはあるみたいだが、ふたりともよく分かってないみたいだ。
悩んでいるふたりの姿は大変可愛らしかったが、俺もただ少し気になっただけでふたりを困らせるのは本意ではないので、分からなければ大丈夫だとそう伝えようとしたタイミングで、ティルさんがなにやらハッとした表情に変わる。
「……あっ、リーリエ様が教えてくれるみたいです! えっと……『明確な違いは精霊には本体となる存在しますが、妖精には存在しないということです。妖精は精霊が宿るほどの力がない花や木などの微弱な魔力が、大量に集まって生まれる存在ですので、生態的には似通った部分も多いです』……らしいです!」
「なるほど」
なんとなくはイメージできた。大きな魔力を持つ植物なんかに宿り、その植物を元に生まれるのが精霊。単品で精霊が宿るほど大きな魔力はない何種類もの花や木の魔力、自然の魔力ともいえるものが集合して生まれるのが妖精って感じだろう。
そういえば、ラズさんは自分のことを『花の妖精』だとは言っていたが、特定の○○花みたいな名称は挙げていなかったのは、いくつもの花の魔力が集まって生まれたからなのだろう。
「ラズさんは、たしか花の妖精ですよね?」
「はいです!」
「ということは、ティルさんも?」
「ティルも花の妖精です! ラズ様と一緒です!」
「わざわざ花のってつけるぐらいですから、他の妖精も居るんですよね?」
「そうですね~木の妖精とか土の妖精とかいろいろ居るです!」
ふたりが仲いいのも、同じ花の妖精という共通点があるからなのかもしれないな。まぁ、なんにせよいろいろ知れたのは勉強に……あれ?
でも待てよ、先ほどの精霊と妖精の括りで言うと……少しおかしく感じる方がいる。
「……ティルさん、もうひとつ聞いていいですか?」
「なんですか?」
「たしかに俺の知ってる精霊の人たちは、ほぼ全員元となった特定の植物があるわけなんですが……カミリアさんだけは『草の精霊』って言ってて、なんの草の精霊とかってのは聞いた覚えがないんですけど……」
「あ~カミリアはちょっと特殊らしいです。本来は精霊が宿るほどの魔力なんて無いはずなのに、突然変異で強い魔力を持った草が生まれて、それがカミリアになったらしいです。名前のある草とかじゃなくて、普通の雑草だってカミリアはいってました」
「へぇ、そういうパターンもあるんですね」
特殊なパターンもあるのか、なんかいろいろ面白いな。そう言えば、ふと思ったけど……俺にとっても思い入れの深い植物といえるブルークリスタルフラワーの精霊とかも、どこかに存在したりするんだろうか?
シリアス先輩「……ふむ、これでティルタニアは終了っぽい雰囲気だけど、次は誰だろう? あと会ってないのは、薔薇姫、大樹姫、桜花姫……直接会ってはいないとはいえ、閑話で登場済みのブロッサムが有力候補かな?」




