六王幹部に会おう・七姫編⑤
楽し気なティルさんに案内されてたどり着いた畑は、これはまた見事なものだった。クロの家の裏手にあるラズさんの畑には、何度か足を運んだことがある。ラズさんひとりで管理しているとはとても思えないほどの大農園みたいな感じで、とにかく広大で圧倒されたが、ティルさんの畑もそれに勝るとも劣らない。
ラズさんと同じようにティルさんもひとりで管理しているのだろう。ティルさんが六王幹部という凄い存在であるというのは頭では理解しているつもりだったが、どうしてもこういうのを見ると己の常識で図ってしまいそうになる。
「すごく立派な畑ですね」
「ラズ様には敵いませんけど、ティル自慢の畑です。あっちの方には最近エリアルに買ってきてもらったお野菜さんが植えてあるですよ。あっ、そう言えば、エリアルもカイトクンさんと会ったって言ってました!」
「街中で偶然会いました。ティルさんはエリアルさんと仲が良いみたいですね」
「はいです! 仲良しです!」
「楽器の演奏が得意だと聞きました」
「ですです! ティルはいろんな楽器を演奏できるですよ。そうです! まだラズ様が来るまで時間もあるですし、よかったら聞いてほしいですよ」
「いいですか? それなら、是非」
思わぬ流れになったが、ティルさんが楽器の演奏を聞かせてくれることになった。ティルさんが用意してくれた木造りの椅子に腰かけると、ティルさんはリュートのような楽器を取り出した。
リュートもちっさくて可愛らしいが、それを構える姿は流石に慣れているだけあってかなり様になっているように思えた。なんとなく風格があるというのか、演奏が上手そうな雰囲気だ。
そしてその予想は正解であり、ティルさんの演奏はそれはもう見事の一言だった。リュートの優しい音色で奏でられる、どことなく民謡っぽい雰囲気の曲は、自然の中という雰囲気にとてもマッチしており心地よく響く。
俺はそこまで音楽に詳しいわけでは無いが、思わず浸ってしまうような音色は凄い演奏だと思う。
そのまましばらくティルさんによるコンサートを楽しんでいると、いつの間にか結構な時間が経過しており、何曲目かの演奏を終えたティルさんが小さくお辞儀をしたことで、演奏の終了を察することができた。
反射的に拍手をしながら、演奏を終えたティルさんに声をかける。
「凄かったですよ。聞き入ってしまって、あっという間に時間が過ぎた感じです」
「えへへ、そんなに褒められると照れちゃうです。でもでも、カイトクンさんが喜んでくれて、ティルも嬉しいですよ」
「本当に素敵でした。また機会があれば、聞かせてくださいね」
「喜んで~とと、そろそろラズ様が来るはずですよ」
俺の賞賛の言葉にはにかむように笑ったあとで、ティルさんはキョロキョロと周囲を見渡し始める。
「ここに来るんですか?」
「はいです。畑で待ち合わせの約束です」
ティルさんがそう答えた直後、遠方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ティル~来たですよ~」
「ラズ様ぁ!!」
遠くから手を振りながら飛んでくるラズさんを見て、ティルさんは嬉しそうな笑顔を浮かべたあと、勢いよくラズさんの方へ飛んでいった。
「待ってたですよ、ラズ様!」
「お待たせしました~ティルが元気そうでよかったですよ」
「はいです! ティルはいつも元気です。ラズ様も元気で安心です!」
「お揃いですね~」
「ですです!」
そのままふたりははしゃいだ様子で両掌をくっつけ合って、空中でくるくると回る。なんとも愛くるしい光景である。ふたりを中心に癒しの波動が放たれているように錯覚するほどだ。
しばしくるくると回っていたふたりだったが、その動きが止まったあとでラズさんの視線がこちらに向き、驚いたような表情に変わる。
「あや!? カイトクンさんです!」
「こんにちは、ラズさん」
「こんにちはですよ~こんなところで会うなんて偶然ですけど、カイトクンさんと会えて嬉しいですよ!」
こちらに飛んできて嬉しそうな笑顔を浮かべるラズさんは、さすがの可愛らしさである。
「でもでも、どうしてここに?」
「偶然ティルさんと知り合って、招待を受けたんですよ」
「はいです! ティルが招待しました!」
「そうなんですね~それじゃあ、カイトクンさんとも一緒に遊べますね~」
そういえば、畑で待ち合わせしてふたりはなにをする予定だったのだろうか? 普通に考えれば、畑について話し合うんだろうけど、いまのラズさんの発言を考えるに、単にわかりやすいところで待ち合わせしていただけで普通にふたりで遊ぶ約束だったのかもしれない。
まぁ、なんにせよ、いまからいろいろ楽しみではある。
「はいです。カイトクンさんも一緒に遊べますし、後でお野菜さんも一緒に食べるですよ! 最近『ピーマン』がすっごく美味しくできたですから、是非食べて欲しいですよ~」
「……」
さて、さっそく今年最大と言っていい危機が訪れたので、即刻帰りたくなってきたわけだが……どうしよう。
シリアス先輩「私さ、ずっと思ってたんだよ。この作品で一番ヤベェ奴は、マキナかパンドラの二択だって……違ったわ。一択だった。アレと一緒にしたら、むしろパンドラが可哀そうなレベルだ」
???「なにが凄いって、あんだけ話しときながら話がループしたりせずに、全部一応は違うこと言ってるんですよね……いや、話は二転三転してましたけど……」
シリアス先輩「……お前の親友だろ、早くなんとかしろ」
???「私にだってね……出来ないことぐらい……あるんすよ」




