六王幹部に会おう・七姫編③
リーリエさんに神界での件のお礼を伝え、粗品を渡したあとはしばらく他愛のない雑談を行った。
リーリエさんは穏やかで優しいながら、ところどころ茶目っ気もある方で、会話は弾み時間はあっという間に過ぎていった。
特にリーリエさんの感知能力を用いた応用魔法などは、かなり参考になった……まぁ、俺が同じことができるかどうかと言われれば、クロ辺りに要相談ではある。
ちなみにリーリエさんは、戦闘の際にメインとなる魔法まで詳しく説明してくれた。なんでも『華の聖域』と『幻想の木』という魔法を用いて戦うのが主戦法らしい。
花の聖域はリーリエさんの類まれなる感知能力で攻撃を察知し、物理魔法問わず因果律を反転増幅させて『五倍の威力で反射する』という、カウンター魔法とのことだ。倍率がえげつない。
幻想の木は、なんでも『己が受けた現象を無かったことにする』という効果らしく、後出しでダメージなどを無かったことにできるらしい……本当に、伯爵級最上位クラスというのは、皆ラスボスみたいなとんでも能力を持ってるなぁ……平和な世界でよかった。
「……長居してしまってすみません。いろいろ、勉強になりました」
「いえ、私も楽しい時間でした。興味があれば感知能力を用いた魔法を指導しますので、時間があるときにでも遊びに来てください」
「ありがとうございます、その際にはぜひ」
「……ただ、ひとつだけ、実は私にできることのほとんどはリリウッド様にも可能です。でも、そうなると私が指導する機会が無くなってしまいそうなので、リリウッド様には内緒ですよ」
そう言っていたずらっぽく微笑むリーリエさんは、やはりとても話しやすい方だと感じた。なんというかこう、安心感があるというか、伝わってくる感情も穏やかでほっとする。
……いや、これが普通だよな? 半数ぐらいがずっしり肩に圧し掛かってくるような激重忠誠心を放ってたり、妙な性癖を持ってたりする十魔が特殊なだけだろう。
十魔のメンバーが濃すぎて、どうにも身構えていた部分があったが、他の七姫の方々もリーリエさんみたいな感じなら、本当に穏やかかつ平和に挨拶は終わると思う。
そんなことを考えつつ、リーリエさんにもう一度お礼を告げてから別れて、俺はユグフレシスの街へと戻っていった。
リーリエさんとの話が終わった時点で、転移魔法で帰ってもよかったのだが……クロからユグフレシスにある美味しいジャムの話を教えてもらったので、それを買って帰るつもりだ。
事前に調べておいた店の場所のメモを見ながら、歩いていると……曲がり角を曲がったタイミングで、前から勢いよく飛んできた妖精らしき少女とぶつかりかけた。
……ぎ、ぎりぎり当たってないないよな? 危なかった、メモに意識が向いてて不注意だった。
「はわわわ、いまぶつかっちゃいました? だ、大丈夫ですか? 怪我とかしてないですか?」
「当たってないので大丈夫ですよ」
「そ、そうですか……それなら、よかったですよ。少し急いでて、ちゃんと前を見てませんでした、ごめんなさいです」
「いえ、こちらこそよそ見をしていて不注意でした。申し訳ない」
頭を下げて謝罪してくる金色の髪の妖精の少女に、俺も謝罪の言葉を伝える。
「ではお互い様ですね~」
「ですね、お互い今後は気を付けましょう」
「はいです!」
「それでは」
「はい! ではでは~」
互いに被害は無いので、簡単な会話だけを交わす。妖精の少女は俺の言葉を聞いて笑顔を浮かべ、手を振って去っていこうとしたので、俺も手を軽く振る。
そして改めて店に向かおうと歩き出したタイミングで……。
「……あ、あぁぁぁぁぁぁ!?」
「ッ!?」
いきなり大きな声が聞こえて振り返ると、先ほど妖精が驚愕したような表情でこちらに戻ってきた。なんだろう? なにかあったのかな?
俺が首を傾げていると、妖精の少女はなぜか俺の周囲をくるくると飛びながら、俺を興味深そうに見ていた。
「え? あの……どうしたんですか?」
「薄い茶色の髪……黒い魔水晶のネックレス……陽だまりみたいなぽかぽか魔力……ま、間違いないですよ!!」
「間違いない? えっとなにが……」
「あ、ああ、貴方! 『カイトクンさん』ですね!?」
「……え? ええ、その通りですが……」
突然妖精の少女が口にした、その独特の呼び名は非常に覚えがある。もしかしてラズさんの知り合いだろうか?
「やっぱり! ラズ様から聞いた通りです! わ~い、ついに『ティル』もカイトクンさんに会えたです~!」
パタパタと小さな羽を動かして、満面の笑顔を浮かべる妖精の少女……いまの発言で、俺も彼女が誰かのかすぐに分かった。
たぶんというか、間違いなく……この人はラズさんの友人であり、エリアルさんも友達だと言っていた妖精……『ティルタニア』さんだ。
シリアス先輩「……吸引力の変わらないフラグ体質」
???「まぁ、いつも通りっすね」
シリアス先輩「……お前は早く、アソコでいまだに喋り続けているマキナを止めてこい」
???「……ふむ、ふと思ったんですけど……止めずに放置してたら、どのぐらい語ったら止まるんでしょうね?」
シリアス先輩「……さぁ?」




