魔界の都市で⑨
快人を探して改めて挨拶と謝罪を行おうとするチェントとシエンは、どう探すかについての打ち合わせを行っていた。
「闇雲に探すには、この街は広いけど……」
「大丈夫、広域探知魔法で探せばいい」
「広域探知? けど、ミヤマカイト様は確か、シャローヴァナル様の祝福で大抵の魔法は無効化するって聞いたけど……」
探知魔法で探すというシエンにチェントは首を傾げながら聞き返す。
「だから、一緒に居るエルフの方を探知すればいい」
「なるほど! それじゃあ、頼むぞシエン」
「うん、任せて」
チェントとシエンはそれぞれ得意な魔法系統が違い、広域を探知する魔法に関してはシエンの方が上である。広域探知を任せるというチェントの言葉に微笑みながら頷いたあと、シエンは足元に魔法陣を浮かべ広域探知を試みて――『直後に膝から頽れた』。
「シエン!? どうした、大丈夫?」
「……うぐっ……はぁ……」
膝をついたシエンは顔を真っ青にして大量の汗を流しており、その尋常でない様子にチェントが慌てて駆け寄る。
「そ、そうだった……ミヤマカイト様にはあのお方が……」
「シエン? いったいなにが……」
「探知魔法を発動させた瞬間、こっちが情報を得るより先に『術式に干渉して強制解除』された上に、『逆探知までされた』……ぎ、技術の格が違い過ぎて、気付いたら首元にナイフ突き付けられてたような感覚……怖っ……」
「え? そ、それって……」
シエンは伯爵級でも上位レベルの世界でも有数の実力者であり、そんな彼女が格が違うと称する相手が誰か、そして現在の状況を考えればなにがあったかはチェントもすぐに察することができた。
そしてそれを肯定するように、ふたりの背後から甲高い声が聞こえてきた。
「いや、失礼。貴女たちだというのは分かってたんですが、つい反射的に対処しちゃいました。うっかりでしたね」
「「ッ!?」」
思わずビクッと背筋を伸ばすふたり……伯爵級上位のふたりでもまったく接近に気付けず、アッサリと背後をとられるような相手が誰かは、ローブに付いた鎖の音を聞かずとも理解できた。
「……げ、幻王様」
「あ、あの、わ、私たちは決して……」
「ええ、分かってますよ。別にカイトさんに危害を加えようとしたとか、そういうことではないのはちゃんと理解しています。それで、なんの御用ですか?」
幻王としての姿で現れたアリスに怯えるふたりだが、別にアリスもふたりが快人に危害を加えようとしたわけでないことは分かっていた。
というより、広域探知を解除したのも膨大な戦闘経験を持つアリスの体が、快人たちを探ろうとして放たれた魔法に反射的に動いて対処した結果だ。
ハッキリ言ってしまえばアリスはふたりがなんの目的で快人を探しているか、ほぼ正確に予想は完了していたが……とりあえず本人たちの口から聞こうとこうしてふたりの元にやってきた。
チェントとシエンは一度顔を見合わせたあと、快人に気付かなかったことへの謝罪と改めて挨拶と……トーレが駆けた迷惑について詫びたい旨を伝える。
それを聞いてアリスは少し沈黙したあとで、ふたりに告げる。
「……話は分かりました。それ自体は構いません。ですが、う~ん……いますぐというのは遠慮してもらいたいですね」
「ミヤマカイト様の都合が悪いということでしょうか?」
「というか、元々カイトさんはデート中ですしね。事情を話せば会うと言ってくれるでしょうし、ジークさんもそれを了承するでしょうが……今日はすでにいろいろ時間をとられてますしね」
実際にアリスの言う通り、事情を伝えれば快人はふたりと会うだろうし、なんならジークリンデもそうすることを快人に勧める。
しかし、フュンフへの挨拶、その後にトーレとの連続遭遇や二人への連絡でたびたびデートが中断しているような状態なので、この先はふたりでゆっくり過ごさせたいというのがアリスの気持ちだった。
「……そうですね。後日カイトさんと話す場を用意しましょう。謝罪やら挨拶やらはその時にしてもらえますか」
「あ、はい。そこまで気が回らず申し訳ありません」
「我々もミヤマカイト様にご迷惑をおかけするのは本意ではありませんので」
「では決まりですね。また後ほど連絡します……あぁ、それと、トーレさんのことに関してはカイトさんは気にしてませので、謝罪は不要ですよ。むしろ謝罪したら首を傾げると思います」
アリスが告げた言葉を聞いて、チェントとシエンは少々驚いたような表情で顔を見合わせた。
「……そ、そうなのですか?」
「し、しかし、トーレ姉様はあの性格でして…‥」
「いや、マジで大丈夫です。あのレベルじゃ、カイトさんにとって『変な人』って認識するレベルじゃないです。あの人の知り合いには、もっと酷いのいっぱい居ますし……」
「「……」」
それはそれで大丈夫なのだろうかと思うチェントとシエンであったが、それを口にすることはできずなんとも言えない表情を浮かべていた。
シリアス先輩「……これは、私にとってはむしろ地獄の展開なのでは?」




