魔界の都市で⑥
三度トーレさんとの遭遇、俺がチラリとジークさんに視線を向けると、ジークさんは意図を察してくれたみたいで軽く頷く。
それを確認してから、俺はトーレさんに話しかけた。
「……なにをしてたんですか?」
「あ~このアトラクションで遊ぼうと思ってね」
「これは?」
トーレさんの言葉を聞いて、その前方にあるアトラクションに目を向ける。パッと見た印象では……バッティングセンターっぽい感じに見える。
「すごく簡単に言っちゃうと、飛んでくるボールをラケットで打ち返して、あそこの青いゾーンに当てれば1点、中心付近の赤いゾーンなら2点……合計10球で何点取れるかって感じだね」
「なるほど」
アトラクション内に備え付けられているラケットの形状を見る限り、テニスっぽい感じだ。バッティングセンターのテニス版みたいなものと考えるのがよさそうだ。
「見せた方が早いかな……」
そう告げると、トーレさんはアトラクションのエリア内に移動しラケットを手に持つ。そして、近くにあった魔水晶らしきものに触れると、魔法陣が広がり……ボールが外に出ないように透明な結界が展開される。
そして、数十メートルほど離れた場所にボールが浮遊するのが見えると、トーレさんは慣れた様子で構える。
高身長なことも相まって、すごく堂に入った構えであり、余裕を感じる雰囲気からはこのアトラクションに対する自信のほどが感じられた。
空中に数字のカウントが現れたあと、想像よりかなり速いスピードでボールが放たれると、トーレさんは流れるような動きでラケットを振るった。
10球が終わり、結界魔法が消えるのを確認したあとで、トーレさんはラケットを返却して俺たちの方を見てウインクをする。
「まぁ、こんな感じかな!」
「いやいや!? 『0点』じゃないですか! なんですかその自信満々な感じ……立派だったのは構えだけで、後は滅茶苦茶へっぴり腰だったじゃないですか!?」
「……思ったより早かった」
そう、自信満々な様子とは裏腹に、トーレさんはまったくダメダメだった。というか10球中5球は空振りで、残る5球も明後日の方向にボールが飛んだりで、結構広い青ゾーンにすら一度も当たっていなかった。
ふざけてるのかとも一瞬思ったが、結構必死にボールに食らいついてる感じだったので、たぶん真剣にやってアレなのだろう。
「けど、なるほど……結構面白そうな感じでしたね」
「うん、これはかなり最新技術を使ったもので、まだ試験的に導入してるだけだから、遊べるのはここだけだよ」
ここでしか遊べないと聞くと、ついやりたくなってしまうのは限定に弱い日本人の性かもしれない。興味を持った俺は、せっかくの機会ということで一度プレイしていることにした。
球の早さを見る限り、俺でも問題なく反応できそうだし……あとはコントロールかな? そんなことを考えつつ、手に持ったラケットを強く握って放たれるボールに向かっていった。
10球を終え、軽く息を吐く。毎日行っているジョギングとは違う、短時間で激しく動いたあと止まってから一気に汗が噴き出てくるような独特の疲労感だ。
実際、ジョギング以外であんまり運動する機会が無かったし、こういう疲労感も悪くはないものだ。
「……ふぅ」
「いや、やり遂げた顔してるけど『君も0点』じゃん!? よくもまぁそのザマで、私をボロクソに言えたよね!!」
「……いや、思ったより難しくて……」
テニスって初めてやったけど……ラケットでボール打つのって、こんなに難しいのか……。
なんというか、まずちゃんと真ん中に当たらないし、全然思った方向に飛ばないし、タイミング合わせたつもりでも振り遅れたりするしで、コレは慣れが必要だとそう思った。
「ジークさんもやってみます?」
「そうですね……では、せっかくなので」
次はジークさんの番ということで、交代すると……ジークさんは最初の1球こそ大きく打ち過ぎてしまったが、その後はコントロールを掴んだようで全て指定のゾーンにボールを返し、内5球は狭い赤ゾーンに見事に当てて、14点という高得点をアッサリたたき出した。
こ、これはどうなんだろうか……ジークさんが上手いのか、俺とトーレさんがへっぽこ過ぎるのか……。
「す、凄いですね、ジークさん。もしかして、六王祭とかでやった経験が?」
「いえ、初めてです。力加減が少し難しかったですが、そこそこの点数は取れましたね」
「……いや、そこそこというか、滅茶苦茶上手かったですよ?」
「そうですか?」
凄い得点を出したジークさんだが、別に謙遜とかではなく本気であまり凄くないと思っている様子だった。
「リリなら、簡単に20点出すと思いますが」
「いや……リリアさんは比較対象にしたら駄目な人です」
ああ、そうか、身近に平然と初見で満点だしそうな人がいるせいか……まぁ、正直俺もリリアさんがプレイしたら初回で満点出すと思ってる。
なにせ、普段の雰囲気からは想像し辛いが、リリアさんは本当にとんでもない天才である。
例えば、俺の誕生日にクロからプレゼントされた六王祭で遊んだVRゲームをリリアさんの屋敷のメンバーと、葵ちゃんと陽菜ちゃんで、交代制で遊んだことがあるのだが……当然車の運転どころか、車見るのも初めてのはずの面々。
ジークさんやルナさんが運転に苦戦する中、リリアさんはコーナーひとつ曲がっただけで、アリスみたいなとんでもドリフト技術を獲得しておりぶっちぎりで一位だった。
……天才っているんだなぁとしみじみ思った瞬間だった。
そんなことを考えつつ苦笑を浮かべ、再挑戦だとラケットを握るトーレさんを見る。さっきジークさんが『連絡』してくれているはずなので、もう少しすれば着くだろう。
逃げたりするような気配はまったく無いので、問題ないとは思うが、チェントさん曰く少し目を離すと居なくなることもあるらしいので、出来るだけ注意しておこう。
シリアス先輩「……何気に現地住人で快人とどっこいどっこいな身体能力の奴って、何気に初めてなのでは?」
???「魔力量はトーレさんの方が多いので、比べると戦闘力ではややトーレさんが上かもしれませんが……本当に貴重な、カイトさんと同レベルの戦闘力の人ですね」




