魔界の都市で④
思いがけずの再会で、おかしな言動についツッコミを入れてしまったが、考えようによっては丁度いい。
俺は案内の店員さんに軽く謝罪したあとで、紫髪の女性に尋ねる。
「……あの、ぶしつけな質問で申し訳ないのですが、トーレさんというお名前だったりします?」
「へ?」
俺が尋ねると女性はキョトンとした表情を浮かべたあとで、なにやら慌て始める。
「あ、あれ? ごめん、どこかで会ったような気がするなぁっての……本当のやつだった!? ほ、本当に、申し訳ない……私、君のこと全然覚えてなくて……」
「あ、いえ、俺たちは間違いなく先ほどが初対面ですよ」
「だよね! よかったぁ……あれ? でも、そうなると、なんで私の名前を? 私って別に有名人とかじゃないんだけど……」
不思議そうに首を傾げるトーレさんは、見た目よりもどこか子供っぽい印象があった。180㎝を越えているであろう高身長に、深紫のポニーテール、金色の瞳、スラッとスレンダーな体形はまるでモデルのようで、整った顔立ちからは大人っぽさも感じるのだが……性格はけっこう明るい印象だ。
「偶然なんですが、チェントさんとシエンさんという双子の女性が探している場面を目撃しまして、聞こえてきた特徴が合うのでもしかしてと……」
「チェントとシエンが私を探してた? あれ? ちゃんと書置きは残してきたんだけど……ふたりともうっかりさんだなぁ。了解だよ、わざわざ教えてくれてありがとう」
「いえ、どういたしまして」
ニッコリと人懐っこい笑みでお礼を言ったあと、トーレさんは満足げに頷いてからビシッとサムズアップをした。
「それにしても短時間でこんなに会うなんてやっぱり運命だよね! ひと恋しとく?」
「遠慮しておきます」
「短時間で二回も振られた、泣きそう」
そういうわりには悲壮感がさっぱりなく、冗談っぽい口調なのでどこまで本気かはよく分からない。
「……ふ、これで終わったとは思わないことだね。今度は転校生とかそういう感じのシチュエーションで、第二第三の私が蘇ってくるからね」
またなんかいろいろ混ざってるがそれ以上に……どこに転校するつもりなんだこの人……。
軽く呆れつつ苦笑していると、トーレさんは席から立ち上がって、俺に「教えてくれてありがと~」と告げて、会計へ向かっていった。
たぶんチェントさんとシエンさんを探しに行ったのだろう、無事に合流できるといいが……。
そんなことを考えつつ、改めてジークさんと共に席に案内してもらって、食事を楽しんだ。
しかし、驚いたのは会計時……支払いをしようすると店員が……。
「トーレと名乗る女性から、すでに代金は頂いています」
と、俺たちの食事代が支払い済みであるということを聞かされた。おそらくチェントさんとシエンさんのことを教えたお礼なのだろうが、なんとも粋なお礼で……ちょっとカッコいいと思ってしまった。
セーディッチ魔法具商会本部に隣接する直営店舗に、豪華な衣装を着たリッチ……ゼクスが訪れる。
「……これは、特別顧問。どうされたのですか?」
「ああ、本部である会議に参加するためにきたのですが、まだ少々時間がありましてな。店舗の方も久しぶりに覗いてみようかと、そう思っただけですよ……おや? それは注文票ですかな?」
「ええ、大型転移魔法具の発注が入りまして……さすがに最新型ではありませんが、個人での購入は本当に久しぶりなので不備が無いか再確認していたところです」
「なんと、個人で……しかもわざわざこの店に来ての発注とは、本当に珍しいですな」
大型転移魔法具はやはり金額が金額だけあり個人の注文は少なく、大抵は商会などからの注文が多い。直営店であるこの店には転移魔法具のエリアこそ存在しているが、さすがにそうそう売れるようなものではない。小型のものが度々売れる程度だ。
人界から魔界への転移を可能とする……いわゆる大型転移魔法具となればさらに稀だ。なにせ個人でその金額を支払える者であれば、転移魔法を使用できる者も多い。なので、今回の発注は本当に珍しいケースといえた。
「どれ、少し拝見……おや? なんと、購入者とは、ジークリンデ殿だったのですか」
「ご存じなのですか? 貴族といった感じではありませんでしたが……」
「……ふむ」
ゼクスは購入者がジークリンデであると知り、なにかを考えるように顎に手を当てる。そのまま少し沈黙したあとで、改めて口を開いた。
「……こちらの発注、本部の方に上げてもらえますかな」
「本部に、ですか?」
「ええ、個人的に縁もありますし、なにより商会にとっても大事なお客様なので……いちおうクロム様に報告しておいた方がいいでしょうね」
ジークリンデは快人の恋人であり、クロムエイナにとっても最近は指導を行っていたりと関わりの深い相手といえる。
しかしそうすると……なんとなくではあるが、クロムエイナが自分で作ると言い出しそうな気がして、ゼクスは軽く苦笑を浮かべた。
シリアス先輩「なんだ、もう少しこじれるかと思ったらアッサリと解決したのか」
???「ヒントです。『二人を探しに行くなんて一言も言ってない』」
シリアス先輩「……あっ(察し」
 




