魔界の都市で③
転移魔法の魔法具は、数ある魔法具の中でもトップクラスに高価な品であり、売り場には専門の店員も居る。
売り場自体もかなり高級感を感じる雰囲気であり、大型の魔水晶を使った品を展示しているので警備らしい人も数人立っている。
その雰囲気に若干気圧されつつも、ジークさんと共に店員の案内を受ける。
「人界から魔界への転移を可能とする魔法具となりますと、やはりどうあってもオーダーメイドによる制作になります。あと、魔法具による人界から魔界の転移につきましては、転移許可証が必要になりますが?」
「えっと、まだ申請等はしていません。今回は取りあえずどの程度の値段になるかを確認に来たので……」
「左様ですか……使用には許可が必要ですが、所持自体は許可がなくとも可能ですよ。なお、発注を受けての制作となりますので、完成までは15日ほど見ていただくようになります」
「なるほど……」
店員の言葉を聞いてジークさんはやや緊張しながら言葉を返す。
人界から魔界への転移に関しては、ゲートを使わない場合には特殊な許可証が必要になる。まぁ、コレに関しては本当に申請さえすれば特にコレといった審査とかはなく、数日で許可が下りる。
というか、そもそもその許可証に関しても、発行元を辿るとアリス……もとい幻王配下が情報管理をしやすいように発行しているものなので、それこそアリスに頼めば即日でも発行可能である。
その後もジークさんと店員のやり取りを聞いていたが、やはりさすがにそのレベルの魔法具は高額であり、機能を絞って安めに作ったとしても白金貨数百枚……日本円にして数十億はかかるみたいだ。
金額に一瞬尻込みしている風に見えたジークさんだが、今後定期的にフュンフさんの元に通うなら、やはり持っておきたい品ではある。
俺が居る時なら今回のように連れてくることも可能だが……ジークさんが所持しておけるなら、それにこしたことはない。
それにそのレベルの魔法具なら転移個所が一ヶ所しか登録できないなんてことも無いはずなので、リグフォレシアへの里帰りとかもやりやすくなるだろうし、あって損はない。
実際にジークさんも購入する方向で話を進めるみたいで、かなり細かく質問したりデザインの要望を出したりしていた。
現在のジークさんであれば手が届く金額であること、買うならやはり信頼と実績のあるセーディッチ魔法具商会製がいいこと、せっかくの本部直営店舗で購入できる機会ということで、発注することに決めたみたいだった。
そのまましばらく話し合い、頭金を支払ったあとで引き渡し証などを受け取ってから、ジークさんはこちらに戻ってきた。
「……すみません、かなりお待たせしてしまって」
「気にしないでください。結局今日買うことにしたんですね?」
「ええ、買うこと自体は決めていましたし、完成まで日数がかかるみたいなので注文は早い方がいいかと」
「なるほど」
「……これまでの生きてきた中で経験が無かった金額の買い物で、ちょっと疲れてしまいました」
そう言ってジークさんは軽く甘えるように俺にもたれかかってきた。ジークさんの気持ちはよく分かる、俺も最近はかなり感覚がマヒしてきたが、高額な買い物というのは結構気疲れする。
実際数十億円なんて規模の買い物は、普通に生きていればまず経験しないであろう規模の買い物だ。
「ちょうどお昼時ですし、なにか食べに行きましょうか……ジークさん、なに食べたいですか?」
「う~ん……魚料理がいいですね。以前の海水浴で食べて、気に入ったので」
ジークさんの要望に頷いてから、俺はマジックボックスからクロの丸ごと食べ歩きガイドを取り出した。
貰った時はあまりの冊数に唖然としたが……コレ、滅茶苦茶便利である。ちなみにこの街に関しては『家の近く編』に載っている。
その中から魚料理を扱う店で、クロの評価が高い店かつここからある程度近い店を探す。するとこの店から100mほどの場所に、海鮮料理を扱うレストランがあるみたいで、クロの評価も10段階中8と高めだったので、その店に行くことに決めた。
たどり着いてみるとかなりお洒落な外観ではあったが、ドレスコードや予約が必要なわけでは無いらしく、すぐに中に入ることができた。
店員に案内されながら、店内も広くお洒落ないい雰囲気だと視線を動かしていると……ふと、あるテーブルで食事をしていた女性と目が合い……互いに驚愕した。
紫ポニテの長身女性……そう、さっきの店で最初に会ったトーレさんと疑わしき人物だった。まさか、こんなところで見かけるとは……さっき見当たらなかったのも、丁度昼休憩に入るタイミングとかだったのかもしれない。
そんなことを考えていると、女性は俺を見て驚愕したあとでなにやら慌てて視線を動かし始める。
「なんてこった!? もう二度目の遭遇しちゃった……ま、まだ、パンの用意ができてないんだけど……」
そんなことを言いながらキョロキョロと視線を動かしたあとで、女性は自分が食べていた皿に視線を落とす。
「……『カルパッチョ』で、いけるかな? いけるよね? こういうのは気持ちが大事だっていうし、気持ちさえしっかり持ってれば、カルパッチョだってパンってことでいいよね!!」
「いや、駄目だと思います」
「駄目か~咥えるの難しそうだもんね」
思わず口を出たツッコミを聞いて、がっくり肩を落とす女性……なんというか、面白い人である。
シリアス先輩「ちくしょう! 要所要所でちょこちょこイチャつきやがって! デート回は一話完結で行くんじゃないのかよ!!」
???「いや、別にそんな話は無かったような……」




