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魔界の都市で②



 気を取り直してジークさんと一緒に店に入ると、すぐに制服っぽい服を着た店員らしき女性が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ、本日はなにをお探しで……む? むむ?」

「え?」

「……ふむふむ、ほうほう……」

「あの……」


 店員は言葉の途中でなにかに気付いたような表情を浮かべたあと、なぜか俺の周囲をグルグルと回りながら品定めするような目で俺を見てきた。

 そのよく分からない行動に戸惑っていると、店員は一度大きく頷いてから口を開く。


「私たちって初対面だよね?」

「え? ええ、そうですね」

「だけど、私はなんとなく君とどこかで会ったような気がする……これはアレだね! 運命の人ってやつだよね! だって、この前読んだ本にそう書いてあったし!!」

「…………はい?」

「私の尊敬する人も言ってたんだ、特別な相手は見た瞬間ビビッとくるって……来たねこれは、生れ落ちて数万年、ついに私にも運命が巡ってきたわけだね!」


 どうしよう、なんか突然訳の分からないこと言い始めたぞ。話があまりに飛躍し過ぎてて、ツッコミを挟む以前に思考が追い付かない。

 そんな混乱している俺の前で、店員はとびっきりの笑顔を浮かべながらサムズアップした。


「よし、それじゃあ、とりあえず私と恋してみる?」

「いえ、遠慮しておきます」

「……出会って即座に振られた、とても辛い」


 俺の言葉を聞いてオーバーなリアクションで肩を落とす店員、なんというかすごいテンションの乱高下だ。しかし肩を落としていたのも束の間、店員は即座に顔を上げる。


「これはアレだね、出会い方が悪かったね……とりあえず、今度『パン咥えてぶつかりに行く』から、せいぜい『月の出てない曲がり角』には気を付けることだね!」


 いや、いろいろ混ざった挙句、闇討ち宣言みたいになってるんだけど!?


「さて、じゃあ気を取り直して……なにをお探しですか?」


 嘘だろ、この人……あのテンションから即座に接客に戻るのか? あまりの切り替えの早さにポカンとしていると、先に混乱から立ち直ったジークさんが口を開く。


「……えっと、転移魔法の魔法具を見に来たんですが」

「なるほど、それでしたら二階に転移魔法の魔法具のコーナーがありますので、そちらへどうぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 本当に先ほどまでのはなんだったのかと思うほど普通に接客をした店員に呆れつつ、これ以上相手をしても疲れそうな感じがしたので、お礼を口にしてジークさんと共に早足で二階に向かうことにした。

 そして二階について階段を上がってすぐの場所にあったフロアマップのようなものを確認して、転移魔法の魔法具のコーナーへ移動する。


「……なんか、凄い店員でしたね」

「ええ、思わず唖然としてしまいました」


 苦笑しながら話しかけると、ジークさんも同じように苦笑する。そこでふと、俺はあることを思い出した。


「……ジークさん」

「なんですか?」

「さっきの店員……かなり背が高かったですよね?」

「そうですね。私より明らかに高かったので、180㎝ぐらいはあるかと……」

「……深い紫色の髪で、ポニーテールでしたよね?」

「……そうですね。あそこまで深い紫色は少し珍しいかもしれませんね」


 先ほどの異様なテンションの店員の特徴が、どうにも少し前に聞いたばかりの話の内容にピッタリ合致している気がした。


「……もしかして、あのふたりが探してたのって……」

「う、う~ん、さすがに別人では? あのふたりは、明らかにこの店から出てきていましたし、店の入り口にいた方を見逃すとも思えませんし」


 先ほどあったチェントとシエンという双子が探していた人物かと思ったが、ジークさんの言う通りさすがにそれはないだろう。

 さすがにあの店員がその人物であれば、あまりにもコントみたいな展開である。


「たしかに……けどやっぱり少し気になるので、ちょっと戻ってみても大丈夫ですか?」

「急ぐわけでもありませんし、私も気になるので戻りましょう」


 ジークさんの了承を得て、先ほどの店員に確認するために一階へ戻る。確か、あのふたりは『トーレ姉様』という人物を探してるみたいだったので、名前を聞いてみればすぐに分かる。

 と、そんな風に考えて一階に戻ったのだが……。


「……あれ?」

「……居ませんね」


  ほんの少ししか時間が経っていないはずなのに、先ほどの店員は居なくなっていた。視線を動かして探してみるが、かなり開けた見通しのいいフロアなのだが、あの特徴的な高身長の店員は見当たらない。


「裏手に行ったのかもしれませんね。気にはなりますが、知り合いでもない相手をわざわざ他の店員に言って呼んでもらうのも気が引けますし……気にせず魔法具を見に行きますか」

「そうですね、そうしましょう」


 なんとなく狐につままれたような気分を味わいつつ、ジークさんと共に二階へと移動した。

 けど、そういえば……前に一度この店には魔水晶を買いに来たけど、入り口に案内の店員なんて居たっけ? 二階と同じくフロアマップが入ってすぐの場所にあって、それを確認したような……。





シリアス先輩「姿を消した謎の店員とそれを探すふたりの少女……って書くとミステリーっぽいのに、内容はコメディである」

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― 新着の感想 ―
[一言] イータシータ以来の双子
[一言] 幻王の隠蔽を何となくで気づくカイトくんに効くとおもうたか ヅヴァイさぁぁぁん!ここにいるよぉぉぉ!
[一言] チェントとシエンって何処かで見た気がしますが、高純度の魔水晶を作成できるクロムの家族だった筈。webか書籍か閑話か、何処で登場したか忘れた。
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