六王幹部に会おう・十魔編Ⅱ②
今現在、俺の前ではフェニックスさんが器用に翼を手のようにして土下座していた。
『大変、大変っ、申し訳ありませんでした!』
「あ、い、いえ、俺は気にしてないので顔を上げてください」
『いえ、そういうわけにもいきません! 御威光を目の当たりにする前とはいえ《我が神》に対して、あまりにも無礼な態度でした!!』
……その我が神ってのは誰のこと? もしかしなくても俺のことだよね? とんでもない呼び方はやめていただきたいのだが、なんか圧力が凄くて言うに言えない。
おかしいな、感応魔法は切ったはずなのに……凄まじい湿気が周囲に満ちてるようなそんな感じがする。
『不敬極まる私には、やはり罰が必要だと思うのです! ここは、そのハンマーであと数発……いえ、数十発ほど打つというのはいかがでしょうか!?』
「……」
それ、ただフェニックスさんがやってほしいだけでは?
『あっ、姿を変えましょうか? どのような姿にもなれます! 我が神のお望みの姿になりますので、思う存分折檻を……』
「そ、それは、またの機会に……」
『そうですか……残念ですが、我が神の御威光を容易く乞うのもまた不敬ですね。かしこまりました、またの機会を心待ちにいたします』
なんというか己の欲望一直線というか、とんでもない濃さである。話してるだけでも精神的な疲労感が凄まじい。リスティさんが、ティアマトさんとはそれぞれ別の日にしたほうがいいといった意味がよく分かった。
あと、さっきから俺は一切パンドラさんの方を向いていない。顔がとんでも無いことになってるから、ただでさえ削られている精神が更に消耗しそうだ。
ただ、それでも一応ちゃんと自制はしてるので、仕事モードであったことに心から感謝したい気持ちでいっぱいだが……今後なんかあると、ピコピコハンマーを強請られそうで怖い。
そんなことを考えながらも、まだ訪ねた本来の用事が終わっていないので、俺はフェニックスさんにお礼の言葉を伝えることにした。
「……話は変わりますが、フェニックスさん。神界との戦いでは、手助けをしてくださってありがとうございます」
『もったいないお言葉です。我が神のためとあれば、このフェニックス、いかなる場所にも即座にはせ参じる所存です。今後も私の力が必要であれば、いつでもお申し付けください』
「……は、はい」
ほんの数分前まで『欠片も興味が無いです』みたいな態度だったのに、いつの間にか忠誠心の塊みたいなのに変貌してる。掌返しってレベルじゃねぇぞ……。
「えっと、お礼の品も持ってきたんですが……フェニックスさんって飲食はできるんでしょうか?」
『我が神からの下賜とは、畏れ多くもありますが、受け取らぬのも不敬ですね。食事は基本行いませんが、食べたり飲んだりは可能です』
「あ~なるほど、いちおう食べ物以外のものも用意してますが……」
『それは、気を使わせてしまったようで申し訳ありません』
見た目的に飲食とかしそうな感じではなかったので不安だったが、飲食自体は可能みたいだ。ただやはり普段は飲食しないみたいだし、他に用意してるものでいいのがあれば……。
『私は《鋭い痛み》も《鈍い痛み》も大好物ですので、どのような《拷問器具》でもありがたく頂戴します』
「……」
困ったな……さすがに、相手が拷問器具を望むような超級の変態である可能性は考慮してなかった。なんだこれ、どうすればいいんだ。
普通の相手であれば無難なものを渡せばいいが、フェニックスさんは確実にドM……むしろ普通の人が嫌がるようなものの方が喜んだりする可能性もある。
でも、さすがにそんなものは……失敗作のベビーカステラ? いやいや、そんな筈はないよね。さすがにあんな劇物貰って喜ぶわけが……。
「……フェニックスさん、ものすごく不味いんですが、これを食べてみますか?」
『毒物のようなものということでしょうか? 普通の毒は私には効きませんが、我が神の用意した品とあれば……』
以前アリスが固定ダメージを受けたと言っていたベビーカステラを取り出して渡してみると、フェニックスさんは両翼で抱えるように受け取った。
駄目だったら全力で謝ろうと、そう思いながら見守っていると、フェニックスさんは俺の前で一口でベビーカステラを食べ……倒れた。
「フェ、フェニックスさん!? 大丈夫で……」
『……はぁん……なにこれしゅごい……味覚によって引き起こされる新感覚の痛み、衝撃……こんな痛みもあったのですね! 我が神しゅごすぎる……もう私、我が神なしじゃダメになる』
……ヤベェなコイツ。本当にヤバい方だ。猛烈な不味さによるダメージでもOKなのか……。
一瞬魔のベビーカステラの引き取り先が見つかってよかったと感じたが……すぐに思い留まる。いや、駄目だ、たぶんこれ与えれば与えるほど既に異常な好感度がヤバいことになる気がする。
『我が神!? こ、これほどの褒美! 心より感謝いたします』
「……あ、はい」
『再びこの褒美をいただけるよう、今後も我が神のために全霊で働く所存です!』
……もっと強請られるかと思ったが、フェニックスさんにとっては本当に凄いご褒美みたいで、一つ貰えただけで十分みたいな感じだった。
いや、なんか次に手柄たてたらまたくれみたいなこと言ってるけど……あと気のせいかな? なんか炎のはずなのに、目が血走ってる気がする。
『しかし、これほどの品をいただくばかりというのも……そうです! 歓迎の意を込めて我が神に奉仕を!』
「は? いや、え?」
『大丈夫です! 問題ありません! 私は人族の姿にもなれます! どうぞ私を召し上が――ッ!?』
なんかスイッチが入ったのか恐ろしいことを言いかけていたフェニックスさんが、直後に『踏みつぶされた』。誰が踏みつぶしたかは言うまでもなく。
「……いい加減にしろよ貴様、すでにこちらが血涙するほどの褒美をもらっておきながら、さらに欲張る気か」
なんか最初とはまた違った理由でキレているパンドラさんが、吐き捨てるように告げながら足を退けると、突如虚空から現れた鎖がフェニックスさんに突き刺さり、ぐるぐる巻きにして球状の形になる。
それをパンドラさんは美しいともいえるフォームで蹴り飛ばし、フェニックスさんを包んだ鎖のボールは空の彼方に消えていった。
「……それでは戻りましょうか、ミヤマ様」
「え? いや、いま……」
「問題ありません、数日すれば封印から抜け出してくるでしょう」
「……そうですか」
……俺は十魔とは変態集団なのではないかと疑いを持っていたが、考えを改める必要がありそうだ。パンドラさんやフェニックスさんに比べれば、他のメンバーはマシなレベルだ。
というか、最後に残るティアマトさんもフェニックスさんと並び称されるほどなんだよな……不安しかない。
【フェニックス】
アリスが『不死身という概念』を元に作り上げた特殊な術式と素材によって生み出された魔法生物。クロムエイナが作ったツヴァイが優秀なので、そんな感じの部下が欲しいなぁという動機で作った。
いかなる方法で殺害したとしても、存在自体が不死身であるため復活する。復活に魔力の消費なども無いので、しぶとさという意味では伯爵級でもトップといえるが……半面封印にはめっぽう弱い。
極まったドMであり、死に至る痛みこそ至上の快楽という変態。任務に行くととりあえず一回死んでくるので時間がかかるため、序列は低め。
無抵抗で防御も全て解いた己を殺すことができない相手には心底冷徹で、己にとって価値は無いと見下しているので、フェニックスと会話が成立する最低条件は無防備なフェニックスを殺せる戦闘力。
快人と出会って価値観に革命が起きたため、快人を我が神と言って全力で信仰し始めた……なんなら生みの親かつ王であるアリスよりも快人の言うことをよく聞くレベル。
ちなみに余談ではあるが、アリスちゃんはフェニックスを作って以降……『己の作った魔法生物を配下』にという案はすべて破棄した。




