リスティア・アスモデウス②
後宮の最奥、おそらく一番豪華な部屋があるのであろう場所に辿り着いた。明らかに扉の造りというか装飾というか、いかにもこの後宮で最も立場の高い人物が居ると思えるような部屋だ。
クリスさんの話ではリリムさんは実質この後宮の支配者のような立ち位置みたいなので、最も豪華な部屋に住んでいるというのは納得できる。
いったいどんな人物なのかと緊張する俺の前で、クリスさんは軽くノックをして「入りますよ」と一言だけ告げて扉を開いた。
部屋の中は扉から想像できる通り広く豪華なもので、部屋の中心にはリリムさんらしき方が居て、その姿を見た瞬間思わず息を飲んだ。
煌めくような長い金髪、クリスさんと同じエメラルド色の瞳、透き通るように美しい肌に見事なまでのプロポーション。スリットが入り胸元も大胆に開いた煽情的なドレスに身を包んだその姿は、絶世の美女といえる凄まじい美貌だった。
「母上、ミヤマ様をお連れしました」
「そう、その子が……」
だが、それだけではない。その美しさからはなんというか怪しい雰囲気というか危険な香りというか、そんな雰囲気も感じ取ることができた。
その瞳で見つめられただけで、ゾクッと背中に寒気が走ったような気がした。
表現するのならば傾国の美女という言葉がしっくりくるだろう。だが、寒気がするような妖しい雰囲気すら妖艶な魅力に昇華しており、たとえ触れれば破滅が待ち受けているとしても手を伸ばす者は後を絶たないと思えるような女性だ。
リリムさんは腕を組んだままで軽く俺の足元から頭まで視線を動かしたあとで、落ち着いた様子で口を開いた。
「……幻王配下幹部十魔のひとり、コードネームはリリムよ。まぁ、幻王配下だってことが周りに知れると記憶操作とか面倒だから、リスティアって本名で……いえ、愛称でいいわね、リスティってそう呼びなさい」
「分かりました。では、リスティさんと呼ばせていただきますね。ご存知とは思いますが宮間快人です。よろしくお願いします」
「よろしく、こっちはカイトってそう呼ぶけど、構わないかしら?」
「ええ、もちろん」
軽く自己紹介を交わすと、そのタイミングでクリスさんがなにやら首を傾げながらリスティさんに声をかけた。
「……母上、そんな口調でいいのですか? ミヤマ様は……」
「シャルティア様が己の上だって認めた、幻王配下にとっても重要な人物? ええ、そうね。でも、この子自身は『王のように扱われることを望んでない』でしょ?」
「そ、それは、その通りかもしれませんが……」
「敬意を抱くことと崇めることは違うわ。カイトは私の王であるシャルティア様の恋人で、娘であるクリスちゃんの友人でもある。困っていたら相談にくらいのるし、必要なら手助けもするわ。けど、他の視線がある公の場とかならともかく、そうじゃない時は自然体に接した方がその子としてもいいでしょう?」
「たしかに、俺としても気楽に接してもらった方がありがたいです」
リスティさんの言葉はまさにそのものズバリだった。たしかに俺の感覚としては、十魔の王はあくまでアリスであり、俺を変に崇められても反応に困ってしまう。
実際それでここまで気疲れしていた部分もあるし、リスティさんの自然体な様子はむしろありがたい。
「なるほど、母上はミヤマ様のことをよく分かっているのですね」
「いや、この程度は一目見ればわかるわよ。明らかに緊張した顔してたし、序列順にここまでで挨拶したのがグラトニー、アスタロト、モロク……見事に狂信組ばっかりだし、過剰に持ち上げられたんでしょ? 気疲れしてる感じがするわね……貴方もいろいろ大変ね」
「あはは……」
その辺りもドンピシャである。なんというか、凄い洞察力だ。思わず苦笑してしまう俺を見て、リスティさんもクスリと微笑む。
こちらの心理を的確に把握しており、かなり話しやすい方という印象だ。
「……あ、えっと、改めまして神界の件では手助けしてくださってありがとうございました。つまらないものですが、お礼の品です」
「アレは仕事みたいなもんだから、別にお礼はいいんだけど……まぁ、せっかくだし貰っておくわ。ふ~ん、なかなかいい菓子、悪くない趣味よ。そこら辺に適当に座りなさい、クリスちゃんも……お茶でも用意するわ」
「母上が、ですか?」
「いちいち事情を知ってる使用人呼ぶのも手間でしょ?」
クリスさんの言葉に軽く答えながら、リスティさんは部屋に置いてあった魔法具などを使って、お茶を淹れる準備を手際よく進めていく。
それを見ながら、クリスさんと共に近くにあったソファーに座ると、クリスさんがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、さすがにそんなことはしないと信じたいですが……母上、ミヤマ様に変に手を出したりしないでくださいよ」
その言葉はおそらくパンドラさんがしていた心配と同じものだろう。話を聞く限りでは、リスティさんは淫魔らしくかなり男遊びは派手らしい。
そんなクリスさんの言葉に、リスティさんはお茶の準備をしながら言葉を返す。
「心配しなくても『ありえない』話よ。カイトは私の好みから一番遠いところに居る……早い話が、完全に『恋愛対象外』ね」
「なっ!? は、母上? それはそれでかなり失礼ですよ!」
アッサリと俺をまったく好みではないと告げたリスティさんに、クリスさんが慌てた様子で注意するが、当のリスティさんは軽く微笑む。
「誤解しないで、別に貶してるわけじゃないわ。むしろ『かなり褒めてる』のよ? 私にしては珍しいくらいにね」
「「……え?」」
好みではない、完全に恋愛対象外と言いつつも、褒め言葉だと断言するリスティさんに、俺とクリスさんは揃って首を傾げた。
~おまけ・ゲーム風ルート分岐~
【特殊ルート解放条件】
1、リリムと快人が知り合う 『達成』
2、リリムと快人が初対面の際、クリスの紹介かつ、クリスが同行しており、他の十魔が居ない 『達成』
3、クリスと一定回数以上の手紙のやり取りを行っている 『達成』
4、リリムとの初対面時にリスティと愛称で呼ぶことを許可される。 『達成』
※『アリスの好感度』『クロムエイナの好感度』『クリスの好感度』『イルネスの好感度』が一定以上かつ『リリムがイルネスに編み物を習う』イベントが発生していることが条件
5、クリスがリリムより『????』に関するアドバイスを受ける
6、上記のアドバイスシーンに快人が同席している
上記をすべて達成した場合に解放される特殊ルート【クリスが皇帝のまま快人と恋人になる特殊ルート】
上記をひとつても取り逃した場合の通常ルート【未来のIF番外編等のクリスが皇帝を辞する通常ルート】




