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天空を舞う花⑥



 休憩しながら雑談をしたあとで、またもう少しだけ踊ったあとでそろそろ解散しようという話になった。エリアルさんも友達のお使いできており、買った種を早く届けてあげたいとのことだ。


「あらためて感謝……つまりは、今日はカイトのおかげで助かった。ありがとう。楽しいひと時……つまりは、一緒に踊るのもとても楽しかったよ、機会があればまた踊ろう」

「こちらこそ、楽しい時間でした」

「感謝のしるし……つまりは、そんなに大したものじゃないけど、感謝の気持ち」

「これは――」


 穏やかに微笑みながらお礼の品を手渡したあとで、エリアルさんは小さく手を振りながら去っていった。独特な雰囲気の人ではあったが、今回の件はいい出会いだったといって間違いない。

 踊った疲労感もあるはずなのに、不思議と体は軽くなっているような、少し癒されたような気持ちがある。縁があれば、エリアルさんが言っていたように、また一緒に踊れると楽しいと思う。






 家に戻ってきた俺は、渡り廊下を通ってリリアさんの屋敷の食堂に移動しながら、マジックボックスからエリアルさんに貰ったお礼を取り出した。

 それは『空色のぶどう』という奇妙なものであり、珍しい色合いなので料理長にこれがなんなのか尋ねてみようと思ったからだ。

 見た目はぶどうでも特殊な下処理をしないと美味しく食べられないとか、そう言うのもあるかもしれないし……。


「おや? ミヤマ様ではありませんか」

「ルナさんと、リリアさん……お出かけですか?」


 声が聞こえて振り返ると、リリアさんとその後方にいくつかの鞄らしきものを持ったルナさんの姿が見えた。なんとなくどこかに出かけるような雰囲気だったので尋ねてみると、リリアさんが頷きながら説明してくれる。


「ええ、私が経営している店の視察に向かうところです」

「そうなんですね、お疲れ様です」


 リリアさんは飛竜便の他にもいくつか店を持っており、領地を持たないアルベルト公爵家の収入源のひとつになっている。最近ではアイシスさんから大量の宝石を仕入れたので、宝石を取り扱う店も作ったとのことだ。


「ミヤマ様は帰ってきたところですか……おや? その手にあるのは『天空ぶどう』ですか、また随分と珍しいものを……」

「このぶどうですか、貰いものなんですが、貴重なものなんですか?」


 ルナさんの言葉に首を傾げて聞き返す。もしかしてまたとんでもないものだったりするのではと、一瞬考えたが……リリアさんとルナさんの様子を見る限り、そこまでという感じではなさそうだ。


「シンフォニア王国ではあまり見かけませんね。天空ぶどうはかなり標高の高い山でしか採れないので、人界だとアルクレシア帝国の一部の地域でしか栽培はされていません」

「ルナの言う通り、栽培している地域が少ないのと、天空ぶどうはそのまま食べても爽やかな味わいで美味しいのですが、天空ぶどうで作ったワインの方が人気があるので、あまり天空ぶどう自体を目にする機会は少ないんですよ」


 なるほど、一部の地域でしか栽培されていない珍しいものではあるが、別に伝説の食材とかではなく一般的に流通している品みたいだ。

 そのまま食べてもOKみたいなので、あとで食べることにしよう。爽やかな味わいという話だし、食べるのが楽しみだ。


「ところでミヤマ様、貰いものとのことでしたが……誰に貰ったんですか?」

「え? ああ、今日知り合ったエリアルさんって方に……」

「「……」」


 あれ? なんだろうこれ、なんか空気が凍ったぞ……そして、突如リリアさんが膝から頽れた。


「お嬢様!?」

「……この人は……本当に少しでも目を離すとこんなことに……今回は順番通りに会うっていうから……安心してた私が……馬鹿でした!!」


 両手を床についてガックリと項垂れているリリアさんを見て、これまでの経験からその反応が意味するものを察した。


「……あの、ルナさん、もしかして……」

「ええ、天空ぶどうと同じように標高の高い山にだけ生える花があります。天空花と呼ばれているその花の精霊で大変有名な方がいらっしゃいます。界王配下幹部七姫のひとり『天花姫エリアル』様です」

「……そ……そうでしたか……」


 なんてこった。まさかエリアルさんが六王幹部だったとは……普通に踊り子だと思ってた。名前が同じだけの別人という可能性は……無いよなぁ、いままでの経験から考えてあり得ないよなぁ。


「さすがミヤマ様でございます。今回は予め知り合う相手を予告しておいて、お嬢様に油断させたうえで不意打ちの一撃。なにがなんでもお嬢様の胃を痛めつけるという、熱い意思、不肖ルナマリア感服しました」

「そんな意思無いですから!? 完全に不可抗力です! お願いだから、変な煽り方しないでください!!」

「カ~イ~ト~さ~ん〜」

「ひゃいっ!?」


 ゆらりと地の底から響くような声と共に立ち上がるリリアさんを見て、思わず背筋が伸びる。怖い、めっちゃ怖い……。


「お話があります。とても大事なお話です」

「……い、いや、あの、リリアさんは視察があるのでは……」

「ルナ、先方に遅れると伝えておいてください。私はカイトさんにしっかり話しておかなければならないんです。知り合った相手の身分をちゃんと確認するようにと、きつく言い聞かせないといけないんです!」

「畏まりました」


 俺はこの世界に来ていろいろなものに立ち向かってきた。凄まじい恐怖を感じることもあった……その思い出をランキング形式にするなら、リリアさんの怒りはトップ3には確実に入ってくる。

 ツヴァイさんの説教を恐れるフィーア先生の気持ちが分かるような気がする。なんというか……出来るだけ早めに終わるといいなぁ、説教。





【天花姫エリアル】

標高の高い山の山頂付近にのみ咲く天空花の精霊であり、界王配下幹部七姫のひとり。自由と踊りをこよなく愛しており、掴みどころのない雲のような性格をしている。

彼女を含め界王配下は情報隠蔽の魔法を使用していないので、街中で見かけても普通に気付けるが、そもそもあまり人の多い町などには姿を見せない。

(エリアルがシンフォニア王都に来たのは百年ぶりぐらいである)

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― 新着の感想 ―
[一言] 説教を回避するために不意打ちのイチャコラとかないかな…|*・ω・)チラッ
[気になる点] ネタ切れかなぁ、会う系じゃあ驚きがもう無いよ。 クマと全力戦闘してた頃が懐かしいですね。 感情を揺らさないと熱く
[一言] 順番に会う(エンカウントしないとは言ってない
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