天空を舞う花②
ふらりと立ち寄った通りから外れた公園で踊っていた女性。ラズさんの友達の友達という女性に対し自己紹介をして名前を尋ねたと思ったら、なぜかプロポーズと言われた。
……まるで意味が分からない。ここまでの俺の行動におかしな部分は無いはずだ。ちゃんと自分から名乗って、その上で名前を聞いた。本当にただそれだけだ。
……いや、待てよ。
たしかに『俺の常識』では名前を聞くことがイコールプロポーズとは結び付かない。だがそれがすべてのものに共通するかと言われればそうではない。
ラズさんの友達の友達という言葉や、最近ようやく少しわかるようになってきた魔力の特徴から、女性は高確率で魔族だと思う。
魔族はとても多種多様で、種族が違えば文化も違う……つまり、女性の種族独自の風習としてそういったものが存在してもおかしくはない!
「不勉強ですみません。こちらの感覚で名前を尋ねてしまいましたが、それがプロポーズに当たる風習がある種族の方なんですね」
「衝撃の事実……つまりは、そんな変な風習のある種族があるんだ。世界は広い……つまりは、長く生きてきたつもりだったけど、初めて聞いた」
「……」
違うんかい!? え? でもそうなると、もう本当に誤解されている理由で思いつくのが……目の前の女性の思考がちょっとおかしい以外に無くなってしまうんだけど……。
いよいよどうすればいいんだこれ……もうとりあえず、名前は聞かない方向にしようと、そんな風に考えている俺の前で女性がクスリと小さく笑った。
「謝罪……つまりは、軽いジョークのつもりだったけど、混乱させてごめんなさい。センスの欠如……つまりは、どうにも私はジョークのセンスが無いみたい。過去にも数度あり……つまりは、いままでも何度かジョークに気付かれなかったことがある」
「へ? じょ、冗談だったんですか……」
やけに楽し気な感情が伝わってくると思ったら、単に冗談を言っていただけか……センス云々というよりは、表情がクールな感じなのが気付きにくい原因だと思う。
しかし、なぜいきなり冗談を? とそんな疑問が頭に浮かんだ直後、女性がスッと不意打ち気味に手を動かし、人差し指で軽く俺のこめかみに触れる。
「眉間に小さな皴……つまりは、少しのストレスを発見。リラックスが大事……つまりは、疲労が見えたから少し和んでもらえたらと思った。残念ながら失敗……つまりは、己のジョークセンスのなさだけは失念してた」
どうやら女性が突然冗談を言ったのは、少し疲れがあるように見えた俺の肩の力を抜こうとしてのことだったらしい。
そう言われれば、十魔の面々と次々初対面して、少し疲れていたのかもしれない。
「改めて自己紹介……つまりは、私の名前は『エリアル』、よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします。えっと、エリアルさんとお呼びしても?」
「愛称も可……つまりは、エッちゃんとかでもいいよ? 実績は無し……つまりは、いままでそういう風に呼ばれたことは無いけど」
「……エリアルさんとお呼びしますね」
なんというか、本当に独特な方というか……天然とは少し違う感じだが、雲のように掴みどころのない印象を受ける。
「質問……つまりは、自己紹介してすぐで悪いけど、カイトに質問をしてもいいかな?」
「ええ、構いませんよ」
「感謝……つまりは、ありがとう。おつかい……つまりは、友人に買い物を頼まれてシンフォニア王都に来た。現在迷子中……つまりは、だけど地理に明るくなくて、目的の店がどこにあるのかよく分からない。救援を要請……つまりは、地図はあるので、知っていたら教えて欲しい」
そう言ってエリアルさんが一枚のメモのようなものを取り出してきたので、それを確認する。
「……ここからは少し離れた場所ですね。俺もあまり行ったことは無いですが、大き目の通りにあるみたいなのでなんとなくは分かります。よければ、案内しましょうか?」
「とても助かる……つまりは、そうしてくれるとありがたい」
少し距離があるので口頭で説明するのは難しいし、特に用事もないので案内を買って出た。
そして公園から出て道を歩きながら、エリアルさんと軽く雑談を交わす。
「……そういえば、エリアルさんはなぜあそこで踊ってたんですか?」
エリアルさんの踊りは見事なものだったが、道に迷っているという状況と踊りが繋がらずに尋ねてみると、エリアルさんはなにやら一度頷いてから説明をしてくれた。
「道に迷った……つまりは、迷子になってどうしようかと悩んでいた。現状打破の手段が乏しい……つまりは、この辺りの地理に詳しい知り合いもいないので、打つ手が無かった。残された手段は踊ること……つまりは、とりあえずだいたいのことは踊れば解決するので、踊ってた」
「……いやいや!? 話の前後が全然繋がってないんですけど!? それじゃなにも解決しないでしょ……」
なんかとんでも理論が展開されたぞ……道に迷った、打つ手がなくて困ったまではよくわかる。慣れない場所だと不安だし、どこで道を尋ねていいかも分からなかったりするもんだ。
しかしその後になんで「よし、じゃあ踊ろう」となるのか、まったくの意味不明である。あとついでに公園に結界貼っていたんだし、現状を打破するなにかが起こる可能性もほぼ無しである。
「結果が証明……つまりは、だけどほら、こうしてちゃんと『なんとかなってる』よ」
「うっ……そ、そう言われてしまうと……確かに」
たしかに言われてみれば、俺がこうして案内をしているというのも元を辿ればエリアルさんの踊りに見惚れたからで……確かに、踊ったことによってなんとかなってしまってる。
なんとなく釈然としない気持ちを抱いていると、エリアルさんは心底楽し気な様子で微笑む。
「深く考えすぎない……つまりは、時には考えすぎず適当で行き当たりばったりなのもいいものだよ。日々を楽しむ秘訣……つまりは、年長者からのアドバイス」
「なんというか……楽しそうですね」
「いい出会いがあった……つまりは、偶然でもカイトと知り合えて私は嬉しいよ」
「そ、そうですか……」
やっぱりなんというか……思わず照れてしまうようなことも平然と口にしたりと、本当に掴みどころのない方である。
ただ、うん……いい人か悪い人かと問われれば、いい人であることは、間違いないと思う。
シリアス先輩「なんとなく、ゆるふわ系お姉さんキャラってイメージがする」
マキナ「……大変だよ、私とキャラが被っちゃう」
シリアス先輩「……なに言ってんのコイツ? 突っ込みどころが多すぎるけど、まずはひとつ……単独でお腹いっぱい過ぎて破裂しそうなほどなのに、お前みたいな狂人と被ってるキャラが出てきてたまるか!!」




