六王幹部に会おう・十魔編⑦
若干今後のことが不安になる部分もありつつも、グラトニーさんへの挨拶とお礼は滞りなく終了した。余談ではあるが、お茶の途中で上機嫌なグラトニーさんがナターシャさんにも同席するか? と尋ねる場面があった。
しかし、ナターシャさんは「立場的に自分が同席するわけにはいかない」と丁重に断っていたが、微かに顔が青ざめているように見えたので……たぶん彼女の味覚はグラトニーさんと違って普通なのだと思う。
「ミヤマ様、この後の予定はいかがなさいますか? 次の幹部の元にご案内しても大丈夫でしょうか?」
一度家に戻ってくると、パンドラさんがそう尋ねてきた。若干目はドロッとしているが、それでも未だにちゃんと仕事モードである。
というか初っ端のグラトニーさんも結構濃い人だったが……たしか最初に『比較的マトモな方』って言ってたよね? ここからは、アレより濃い面々なのか……すげぇな幻王配下。
「まだ昼過ぎですし、時間的には余裕がありますが……次のえっと、アスタロトさんでしたっけ? その方の都合は大丈夫なんですか?」
「問題ありません。ミヤマ様の都合のいいタイミングであるなら、他はすべて後回しにして予定を空けるのが幻王兵団の一員としてあるべき姿です。幹部でありながらそんな至極当たり前のことすらできない者が存在するなら、不要とみなして私が始末します」
「……そ、そうですか……」
……忠誠心おっもっ……貴女たちの王は俺じゃなくて、アリスですよ。いや、本当に……。
「……え、えっと、それじゃあ、次の方のところに案内してもらっても大丈夫ですか?」
「もちろんです。ただ、少々お待ちください。出発前に一度連絡を……『着ぐるみ』を脱いでおくように伝えておきますので」
「……は、はぁ……よろしくお願いします」
いま、着ぐるみって言ったよね? うん、確実に言った。脱いでおくようにってことは……アスタロトさんという方は、普段は着ぐるみを着ているってことなのだろうか?
パッと思い浮かぶのは、アリスがよく身に着けている絶妙にウザい着ぐるみだけど……。
そんな風に疑問を抱いていると、ソレを察したのかパンドラさんが俺の方を向いて口を開いた。
「アスタロトは高い忠誠心を持つ幹部でして、昔シャルティア様に下賜された牛の着ぐるみを愛用しています。それ自体は問題ないのですが、ミヤマ様との初対面で顔が見えない着ぐるみ姿なのは不敬なため、事前に脱いでおくように伝達しました」
「……なるほど」
もう今の情報を聞くだけで、結構濃い方だというのは伝わってきたし……まず間違いなく忠誠心バグ枠のひとりだろう。
忠誠心バグが続けてふたり……パンドラさんも激重の忠誠心なので、なんというか……物理的な重さは無いはずなのに、肩が凝るような気がする。
そんなことを考えながら、魔法具で連絡を取っているパンドラさんを横目にチラリとなんの気なしに窓から部屋の外を見て、ふと違和感を覚えた。
あれ? 庭の世界樹って……『あんなに大きかったっけ?』。
なんか、ちょっと前に比べて大きくなってる気がするけど……う、う~ん、さすがに気のせいかな? 部屋から庭に植え替えたばかりだし、周囲の景色が変わって大きく見えただけだろう。
ここまでの成長を見る限り世界樹だからって特別に成長が早いとか無かったし、誰かが成長させたという線もないだろう……というか、そんなことをする理由がわからない。
「……ミヤマ様、お待たせしました。それではアスタロトの元へご案内します」
「あ、はい」
考え事をしている間に、パンドラさんの準備が整ったようだ。
……あれ? さっきまで『なに考えてたんだっけ?』。なんか疑問を抱いてたような気がするけど……内容はど忘れしちゃったな。
まぁ、忘れるぐらいなら大したことじゃないのだろうけど……。
「……問題はなさそうですね。馴染んで顕現できるようになるまでは気付かれない方がサプライズになりますし、『違和感を覚えない』『仮に違和感を覚えてもすぐ忘れる』という効果を強めておきますか……」
「シロ? なにしてるの?」
神界の神域でポツリと呟いたシャローヴァナルの声を聞き、共にお茶を飲んでいたクロムエイナが首を傾げて尋ねる。
「番犬を作ってました」
「ふ~ん、番犬を……『作る?』」
「詳細はまだ秘密です」
「……変なことしてないよね?」
「私としては変なことをしているつもりはありませんが?」
「う、う~ん……そこはかとない不安を感じるけど、最近のシロはそんなに変な行動もしてないし、大丈夫かな?」
「以前も別にへんな行動をとった覚えはありませんが?」
「……やっぱ……なんか不安だなぁ」
シャローヴァナルの謎めいた言動に不安を感じつつも、クロムエイナはそれ以上追求はしなかった。というのも、かつての神界の一件以降シャローヴァナルはそれほど大きな奇行は犯しておらず、むしろ精神的に成長したこともあって落ち着いているように見えた。
……なお、『気のせい』である。たしかにシャローヴァナルは精神的に劇的に成長を遂げているが、彼女の本質が変わったわけでは無く、その天然さが薄れたわけでもない。
思い付きで突拍子もないことを実行するのは相変わらずであり、最近大人しく見えていたのは『単に妙なこと思いついて無かっただけ』である。
おまけ~まずさ比較(快人調べ)~
1、宮間明里の手料理 不味さレベル『2』
快人の母の料理、快人曰く不味いというよりは微妙に美味しくない感じであり、不味さレベルは低め。例えるなら100点満点中15~35点くらいの味。
子供のころから食べていたため、現在の快人の味覚の許容範囲の基礎を作ったと言ってもいい。なおハンバーグとアップルパイだけは美味しいらしい。
2、グラトニーの好む食べ物 不味さレベル『5』
不味いことは不味いし、店で出てきたら返金を求めるレベルではあるが……それでも快人にしてみれば、単にとても不味いだけ。
普通ならこれがトップクラスでもいいはずだが、さらなる魔境があるため中堅レベルになった。
3、クロのベビーカステラ(失敗作) 不味さレベル『1』~『9』
快人のトラウマ製造機。ただ、失敗作ばかりがフューチャーされるのでクロがダークマター製造機のように見えるが、実際は成功と失敗の確率は半々ぐらいであり、普通に美味しいベビーカステラや絶品の品も多い。
ただし、ベビーカステラのことになるとクロはブレーキが壊れる上に、無限の可能とか口にして、そのスペックの高さから普通ではありえない組み合わせも実現してしまう。例に挙げると複数の『食材を融合』させ『まったく新しい味』を作り出すなども実現可能であり、過去に快人が食べたなかでは最多で『49種類の食材を融合させた食材』を用いて作られたベビーカステラがあった。
(快人の感想としては『分からない。この味をなんて表現すればいいのか……美味しいとも不味いとも言えず、意味不明以外の感想が不可能』)
ともかく当たりと外れのふり幅が激烈に大きい。
4、五つの絶望(大失敗ベビーカステラ) 不味さレベル『10』
快人がいままで食べた膨大なベビーカステラの中でもワースト5に輝く桁外れの不味さを持つ品々。アリスに固定ダメージを与えたのはこのうちのひとつであり、シロの祝福を受けている快人を気絶させるわアリスにダメージ与えるわで、とてつもない危険物。
あくまで現時点では5つというだけであり、今後さらに増えていく可能性は高い。
 




