六王幹部に会おう・十魔編④
最初にグラトニーさんの元を訪ねることに決まり、身支度を終えるとアリスは姿を消して、パンドラさんも少しの間姿を消したあとで戻ってきた。
「お待たせいたしましたミヤマ様。一時的にこの屋敷の転移阻害結界を解除してもらいましたので、まもなく『入り口』が開きます」
「入り口?」
俺が聞き返すのと同時に、突然部屋の空間に縦に光の筋が現れソレが輝く門のような形へと変わった。
「どうやらミヤマ様をお迎えするにあたり、入り口の形にも凝ったようですね。こちらには来ず拠点で待機しているよう伝えてありますので、参りましょう」
「は、はい」
そういえばグラトニーさんは時空間魔法の達人と言っていたが、この光る門をくぐればグラトニーさんのいる場所に辿り着くということだろう。
パンドラさんに続いて光る門をくぐると……そこにはとてつもなく神秘的な光景が広がっていた。金色に輝く橋のような足場が伸び、周囲には色鮮やかに輝く塔のような建物が並んで絶景を作り出していた。
「……ここは、いったい?」
「ここはグラトニーが作り出した亜空間です。本来はもう少し閑散とした空間なのですが……おそらくミヤマ様を歓迎するために調整したのでしょうね」
どうやらグラトニーさんは俺のために、先ほどパンドラさんから連絡を貰ってすぐ亜空間の景色を調整してくれたらしい。なんとも驚きではあるが、少なくともこちらの来訪を歓迎してくれているということは伝わってきた。
そのまま煌びやかな光景を見ながら少し歩くと、開けた空間がとその中心に佇む人物が見えてきた。
白い生地に黒い薔薇の飾りがいくつも付いたゴシックロリータ風のドレスに身を包んだ黒髪の少女。130cmに届かない程度の小柄な体、琥珀色の瞳、そして目を引くのが胸元に抱えた大きな兎のぬいぐるみだ。
可愛らしくもどこか不思議な雰囲気の少女……彼女がグラトニーさんだろうか?
「……ようこそ、足を運んでいただく形となり恐縮です。ミヤマカイト様、お会いできて光栄です」
「あ、はい。初めまし――「ミヤマ様、お待ちを」――え?」
近づくとペコリを頭を下げて小さな声で挨拶をしてきたグラトニーさんに、俺も挨拶を返そうとしたのだが、なぜかその言葉は途中でパンドラさんによって止められた。
不思議に思いながらパンドラさんの方を向くと、パンドラさんは真剣な表情でグラトニーさんを見つめて口を開く。
「…‥グラトニー、お前に悪意が無いのは理解している。だが、ミヤマ様はシャルティア様が主と認められた、我らの上に立つ尊きお方だ。そのミヤマ様との初対面……『お前自身』が話すのが筋ではないか?」
「へ?」
『……返す言葉もない。確かに、その通りだ』
「え、えぇ!?」
パンドラさんが告げた直後、先ほどまでとが違う声が聞こえてきた……『少女の抱える兎のぬいぐるみから』。そして同時に、ぬいぐるみからも魔力を感じた。
これはつまり、そういうことだろう。本物のグラトニーさんは、黒い髪の少女ではなく……。
『降ろせ、ナターシャ』
「……はい。グラトニー様」
俺の予想を肯定するようにナターシャと呼ばれた黒髪の少女がぬいぐるみ……グラトニーさんを下ろすと、グラトニーさんは俺の前まで歩いてきて片膝をついて頭を下げた。
『大変失礼いたしました、ミヤマカイト様。お分かりかとは思いますが、私が本物のグラトニーです。ついいつもの癖で、図らずも貴方様を欺くようなことをしてしまったこと、深く謝罪いたします』
「あ、いえ、頭を上げてください。少し驚いただけで、まったく気にしてませんので」
『寛大なお心に感謝します』
これは、なんというか、凄いな……グラトニーさんからはそれはもう凄まじい敬意だとか敬愛の感情が津波のように押し寄せてきており、思わずのけぞりかけた。
うん、もうすぐに分かった。間違いない、グラトニーさんはアリスが言っていた忠誠心がバグってる方のひとりで間違いないだろう。
『改めまして、私が十魔の一席を預かっておりますグラトニーです。こちらは普段私と偽って行動させている者で、名をナターシャといいます』
「……よろしくお願いします」
「グラトニーは用心深い性格でして、普段はぬいぐるみに擬態しており正体を知る者は十魔の中でも少数です」
なるほど、最初に会った時はナターシャさんの方の魔力しか感応魔法では感じられなかったので、グラトニーさんはツヴァイさんと同じく魔力を外に一切漏らさないようにしていたのだろう。それだけでも、その高い実力が伝わってきた。
「えっと、こちらも改めまして、宮間快人です。グラトニーさん、以前は神界との戦いで助けてくださって、本当にありがとうございました」
『もったいないお言葉です』
事前にパンドラさんが連絡しておいてくれたおかげだろうか、グラトニーさんはまるで叙勲する騎士のように恭しく俺のお礼の言葉を受け取って、一度深く頭を下げたあとで立ち上がった。
『今回、ミヤマカイト様が訪れるということで、ささやかではありますが歓迎の席を設けさせていただきました』
「……待て、グラトニー、お前まさか……」
『三界でも選りすぐりの美味な食べ物を用意しましたので、よろしければ召し上がってください』
そうグラトニーさんが告げると、ナターシャさんが巨大なカートを押しながらやってきた。
そのカートの上に乗ってるのが選りすぐりの美味な食べ物? ……『グロテスクな怪獣』にしか見えないんだけど……それちゃんと、種族人間が食べても問題ないやつなのかな……。
シリアス先輩「さすがのフラグ回収力……」
 




