新人冒険者と伝説の義賊⑪
ハプティさんによる葵ちゃんと陽菜ちゃんへの指導も終了し、シロさんが追加してくれた機能で一度家の前に戻ったあと、冒険者ギルドで報告を行った。
今回は練習用の形だけの依頼であり、報告事項も指定が一切ないのでそれほど時間はかからず終了した。
ハプティさんは最後にもう一度ふたりに装備を整えることを勧め、これで自分の仕事は終わりだと去っていった。
こうしてふたりの初仕事という名目の現地研修も無事……ワイバーンが二匹ほど悲惨極まりない目にあった以外は平和に終了した。
葵ちゃんと陽菜ちゃんにとってはとてもいい経験になったみたいで、リリアさんの屋敷に戻ったあとも今日一日で見えてきた課題などをふたりとも真剣な表情で話し合っていた。
その過程で話題に上がったのが、ハプティさんが整えるようにと言っていた装備に関してだ。
「葵先輩、さっそく明日にでも見に行ってみます?」
「たしかに早い方がいいとは思うけど、そもそも武器や防具を売ってる店を調べないと……どうせなら質のいい品がある店がいいですし、ルナさんとかに聞くのがよさそうね」
たしかに武器屋とか普段いかない店に関しては、どこにあるかよく分からない。ふたりにとっては今後冒険者として活動していくうえでとても重要なものだし、いい店を……うん?
「……ふたりとも」
「快人さん?」
「どうしました?」
なるほど、そういうことか……ハプティさんが、なんか妙に装備を整えるべきって何度も繰り返していた意味がいまハッキリと分かった。
「……武器屋、あったわ……すぐ近くに」
「「え?」」
リリアさんの屋敷から俺の家に移動して、ふたりと一緒に地下に向かう。そう、目的の場所はアリスが悪ふざけで地下に作った武器屋である。まさか、ここを利用することになるとは夢にも思わなかった。
「……地下に武器屋。なんかだ、隠しショップみたいですね!」
「家の地下に武器屋って、意味ないんじゃ……」
どことなくテンション高めな葵ちゃんとは対称的に、陽菜ちゃんは心底不思議そうな顔をしている。
「陽菜ちゃん、それはね……」
「葵ちゃん……たぶんだけど、これは説明しても理解してもらえない話だと思う」
「……そ、そうかもしれませんが、一応」
葵ちゃんはネットゲームのプレイヤーでもあり、それ以外にも俺ほどではないがライトノベルなんかも読んだことがあるみたいで、いわゆるお約束のようなものにもかなり理解がある。
なんというか、ロマン的なこともよく分かってくれるというか、一緒にテンションを上げてくれるタイプだ。
今回も家の地下に隠しショップみたいなものがあって、ソレが世界最高峰の技術を持つアリスの店ということもあり、ロマンを感じていてテンションが高いのだろう。
対して陽菜ちゃんは「私もこう見えて結構ゲーマーなんですよ」とは本人の弁だが、彼女がプレイした経験があるのは複数人で遊ぶようなパーティゲームばかりだ。陽菜ちゃんにとってはゲームとはひとりで遊ぶものではなく、皆でワイワイと楽しむものという認識だろう。
いや、もちろんそれもゲームの楽しみ方だし、一緒にゲームができる友人が多いというのも素晴らしい話だ。ただ、悲しいかな……俺や葵ちゃんとはプレイするジャンルが違うため、話が通じないことが度々ある。
実際いまも葵ちゃんは隠しショップの魅力やロマンについて、少し熱く語っているが陽菜ちゃんの方は頭にハテナマークが増えている気がする。
「……えっと、でも隠れてたら売上とかあがらないんじゃ」
「いや、そうじゃなくて……」
それでも頑張って説明しようとする葵ちゃんと、完全に混乱している陽菜ちゃんのやり取りをどこか微笑ましく感じていると、目的の扉の前に辿り着いたのでそこで一度話を中断する。
中に入ると綺麗に並べられた武器と、前と同じライオンの着ぐるみが出迎えてくれた。
「ようこそ、皆さん。アリスちゃんショップへ……やっと売り上げが出そうで、嬉しいです」
「店主はともかく、品質は本当にすごいからな……」
「あはは、まぁ展示してる装備の横に簡単な説明や、付与されている効果を書いた紙を張っておいたのでいろいろ見てください」
アリスの言葉を聞いて、葵ちゃんと陽菜ちゃんは目を輝かせながら武器と防具を見始める。それに釣られるように俺も視線を動かして、ふと違和感に気付いた。
「……あれ? 値段がかなり変わってない?」
「あ~ソレは調整しました。別に元の価格でもよかったんですが、あんまり安くても達成感が無いでしょう? お金を稼いで徐々にグレードアップしていけるような価格設定に変更しておきました」
「……その方がいろいろ売れそうだな」
「まぁ、その狙いもありますね」
アリスはなんか雑貨屋以外だと、やけに商売上手な気がする。まぁ、元々品質に対して値段が安すぎたわけだし、そう考えるといま表示されている価格の方が適正なのだろう。
しかもよく見ると、武器に比べて防具のほうが全体的に低価格に設定されており、防具は性能の高いものを買いやすいようになってるみたいだ。
そんなことを考えていると、アリスが商品を見ている葵ちゃんと陽菜ちゃんを眺めながら、ポツリと呟いた。
「……まぁ、最低限『条件は満たせる』程度には、私からの印象も上がったわけですし……もう少しお節介を焼くことにしますかね」
???「さてふたりの冒険者デビューの話も次で終わりの予定ですね」
シリアス先輩「次はなに? 神界のお祭り?」
???「いえ、その前に六王幹部編ですね」
シリアス先輩「……ついに変態集団の詳細が明かされるのか(戦慄」
???「……マジでなんとか、うちの幹部だけ飛ばせないですかね」




