新人冒険者と伝説の義賊⑩
ワイバーンに極めて悲惨な出来事こそ起きたものの、それ以外はこれといった問題もなくハプティさんの指導は進み、現在は野営の片付け……火の始末などを教わっている様子を見る限り、これが終わったら終了となりそうな雰囲気がある。
そして予想通り片づけが終わると、ハプティさんは一通りのことは教え終わったと告げ、そろそろ終了しようかと提案してきた。
ただ俺は個人的に少し気になっていたことがあるので、せっかくなのでこのタイミングで尋ねてみることにした。
「ハプティさん、ちょっと質問してもいいですか?」
「うん? なにかな?」
「いえ、大したことではないんですが、今日はずっと葵ちゃんと陽菜ちゃんが戦ってたので、ハプティさんはどんな戦い方をするのかなぁって……」
ハプティさんは初代勇者の旅を描いた物語では万能な盗賊と書かれており、状況に応じて様々な武器を使いこなすとあった。
ただ一点、ハプティさんが腰に付けている特殊な円形のポーチは、形状が特殊なのでおそらく武器を入れていると予想している。そして、おそらくそれがハプティさんのメインウェポンだろう。
うん、訂正しよう。ぶっちゃけあの形状のポーチにどんな武器が入っているか……実はある程度想像できている。想像できているからこそ、見てみたいという気持ちがあった。
「ボクは遊撃……投擲武器を使って戦うのが得意だね。メインで使うのはこれ」
「……『チャクラム』ですね」
ハプティさんがポーチから取り出したのは刃の付いたリング……そうチャクラムである。正直扱いにくそうとも感じられるが、個人的には結構好きというか……チャクラム使って戦うのは、なんかカッコいい気がする。
「なんだか、扱いが難しそうですね」
「まぁ、慣れは必要だね」
俺と同じような感想を抱いたであろう葵ちゃんが尋ねると、ハプティさんは苦笑を浮かべたあとで人差し指立てた……あれ? さっきまで持ってたチャクラムどこ行った?
そんな疑問が頭に浮かぶのと同時にハプティさんが少し離れた場所にある木を指差し、それにつられて視線を動かすと……風切り音と共に飛来したチャクラムが一本の枝を切り落とし、その枝が地面に落下するまでの間にさらに五つのチャクラムが枝を細かく切り裂いた。
チャクラムはそのまま大きく弧を描くように飛んだあとで戻ってきて、六つすべてハプティさんの手に収まった。
「……まぁ、慣れればこんな感じに細かいこともできるけどね」
「すごっ……」
これは凄い。いや、もちろんアリスならあの技術自体はできても驚かないが、今回はおそらくワザとチャクラムのスピードを抑えてくれたんだろう。
いまはハプティさんという姿を演じているとはいえ、それでも世界に語られる強者が魔力を込めて投げたチャクラムの動きを俺が視認できるはずがない。
軌道が見えたということは、見える速度に調整してくれたと考えるべきだろう。そして、そのおかげで芸術的な神業を見ることができた。
「すごいですけど、コレって例えば、強い魔物にもダメージが入ったりするんですか?」
「なかなかいい質問だね、ヒナ。結論から言えば、魔力込めて投げてるからオリハルコンでも真っ二つだね。ただその辺に疑問を抱くのもわかる。そうだね、ふたりは優秀で早めに終わったから……追加で少し武器についても教えてあげよう」
そう言いながらハプティさんはマジックボックスから二本の剣を取り出す。
「さて、問題だよ。ボクがこの鉄の剣とオリハルコンの剣を同じように振ったら、どちらの方が切れ味が上だと思う?」
「……それは、オリハルコンなのでは?」
「そう思うよね。けど、そうじゃないんだ。答えは、魔力で強化して切るんだから『どちらでも変わらない』が正解だよ。なんなら、木の枝でも同じぐらいの切れ味は出せるね」
その言葉を聞いて思い出したのは、以前アリスが紙を巻いて葵ちゃんのゴーレムを真っ二つにした一件だ。
「じゃあ、木の枝でいいんじゃない? って思うかもしれないけど、そうじゃないんだよ。切れ味は変わらなくても、武器の耐久力には差がある。正しくは、魔力に耐えられる限界値に差があるって感じかな……木の枝に魔力を込めて振れば、たしかにオリハルコンの剣と変わらない切れ味は出せるけど、よくても一回振れるかどうかだね。大半は魔力込めた時点で粉々になっちゃうよ」
「……なるほど」
「ただ、これはあくまでボクの話ね。たとえばアオイやヒナが使うなら、ふたりはまだオリハルコンの武器じゃないと耐えられないような魔力を注ぐ量も技術も無い。鉄の剣でも壊さずに振れるだろうね……なのにオリハルコンの武器を買っても、高いだけで宝の持ち腐れってわけだから、武器は強さに合わせて選ぶ必要があるんだよ」
ハプティさんはそこで一度言葉を区切り、剣をしまってから説明を続ける。
「まぁ、防具に関してはそう言うのとは関係なく一番いいものを買うのがいいけどね。ついでに補足でももうひとつ、ここまで説明すれば三人もなんで世界トップクラスの実力者たちのほとんどが武器を持ち歩いてないか分かるよね」
「……注ぐ魔力に耐えられないから」
「その通り。それなら自分の魔力を武器化した方が魔力消費は大きくても、安定してるからね。ただ、一部例外は存在するよ……数自体が少なくて希少だけど、伝説の名工と言われるクラフティが特殊な製法で作り出した武器、その中でも聖剣だとか魔剣だとかの冠が付いた傑作と呼ばれる剣は、伯爵級最上位の魔力にも耐えられるから、ソレを使っている高位魔族もいるね」
聖剣……どこかで聞いたような……あぁ、六王祭の記念品としてアリスからリリアさんに贈られた剣が確か、聖剣エクスカリバーだった気がする。
「……そしてそれ以上の例外が、六王様の中で唯一武器を持っている幻王様だね。幻王様の持つ短剣は、いったいどんな素材でできてるかもサッパリだけど……少なくともこの世界に存在する武器の中ではぶっちぎりの最強だと思うよ。なにせ、六王の魔力に耐えられるんだからね」
その言葉を聞いた時に、ふと少しだけ違和感を覚えた。いや、違和感というよりは……少し珍しいなと、そんな風に感じた。
というのもハプティさん……アリスがなんだか少し誇らしげというか、自分の武器を『最強』と断言するのは、少しだけ珍しい気がした。
もしかしたら、アリスにとっては思い入れのある短剣なのかもしれない。
~おまけ・アリスの短剣~
1、『トリックジェスター』
黒と白の短剣であり、始まりの来訪者等でアリスが使用していた短剣。アリスの父親の心具であり、強制転移の能力がある。
更に心具の性質上、アリスの心が折れない限り耐久力は無限……ただし、心具使って防御とかすると精神ダメージを受けるので疲労しやすく、能力が必要な際にしか使わない。
2、『星の短剣』
アリスが腰のホルダーに入れて常用している短剣。
星そのものが生み出したと言える怪物こと七星魔獣、そのコアを全て使った短剣であり、その特徴に応じた七つの能力を持つ。
扱いやすく強度も凄まじいので愛用していたが……それでも神界決戦後の成長したアリスの魔力には耐えられなくなってきた。
3、『機神の短剣』
現在アリスが使用している短剣で、アリスは素材だけを要求したが「手間は変わらない」ということで、マキナが作ってプレゼントしてくれた短剣。
アリス大好きなマキナが作ったため……ハッキリ言ってチートである。
『所持者が武器の能力として想像しうる全ての能力を有する』
アリスが武器の能力として思う浮かべることができることならなんでもできるし、どんな形状にも自在に変化出来るし、耐久力も全知全能クラスでなければ傷ひとつ付けられないレベル。他の武器なぞ絶対に使わせてたまるかという、ヤンデレ感のある武器である。
まぁ、アリスも親友がプレゼントしてくれた短剣なので、なんだかんだ気に入っており、今回『最強の武器』と断言したのもそのせいである。




