新人冒険者と伝説の義賊④
活動報告に十一巻のキャララフ公開第二弾を掲載しています。
元々ギルドに向かう途中だったということもあって、ハプティさんはある程度のところでノインさんとフィーア先生との会話を打ち切り、ふたりと別れて本来の目的である冒険者ギルドに向かうことになった。
ふたりと会った場所は冒険者ギルドにほど近い場所だったこともあり、それほど時間はかからずギルドに辿り着いた。
葵ちゃんと陽菜ちゃんは講習を受ける際に来ているが、俺は初めて訪れるのでどんな場所かといろいろ想像していたが……パッと外観を見て初めに思い浮かんだのは市役所とかそんな感じのイメージだ。
飾り気のない機能的でしっかりとした大きな建物で、掃除もしっかりと行き届いており外観はかなり綺麗だった。
いや、もちろんアリスの説明などで俺のイメージしていた荒くれ者的な感じではないのは分かっていたが、それでもこうして実際に目にすると驚きもある。
中も本当に綺麗でこちらのイメージとしてはホテルのロビーだろうか? 大きなカウンターがあって、視線を動かせばカフェテリアのようなものも併設されているみたいで、そちらで食事をしている人たちもいる。
「それじゃ、受注に行くわけだけど……その前にカイトとボクは同行者としての同意書にサインをする必要があるから、そっちを先に取りに行こう」
「同意書、ですか?」
「うん、簡単に説明すると……同行中になにかあっても自己責任で、ギルドに責任を追及したりはしないですよ~って感じのものだね。まぁ、どこにでも理不尽に文句言ってくる奴ってのは居るから、その対策みたいなもんだね。ちなみに、ギルドに申告せずに同行者を連れて行ったり、同意書にサインしてない同行者がいたりしたら、同行させた冒険者の責任になって罰則とかもあるよ」
「なるほど」
考えてみれば当然の話である。この世界の冒険者ギルドはしっかりしており、アリスの説明を聞く限りでは冒険者が大きな怪我を負った場合に治療費の一部を補填してくれたりといった……いわゆる労災みたいな制度もあるらしく、キッチリと雇う側としていろいろ責任を持ってくれているみたいだ。
ただそれはあくまでちゃんと登録した冒険者に対しての話であり、勝手に冒険者についていった同行者にまで責任を負う必要はない。
ごくごく当たり前のことではあるが、その当たり前を理解しないクレームというのも存在するのだろう。余計なトラブルを避けるためにも、そういう同意書みたいなのも必要になってくるというわけだ。
やっぱりそういう制度的な部分も含めていろいろしっかりしているんだなぁと、そんな感想を抱きながらハプティさんが持ってきてくれた書類に軽く目を通してサインをする。
「ちなみにアオイとヒナは講習で聞いただろうけど、向こうにある掲示板にも依頼は貼ってあるよ。ただ、あそこにあるのは環境調査系の依頼だけで、魔物の討伐とかは無いけどね」
「そうなんですか? 勝手なイメージですけど、ああいうところに貼ってある依頼を自分で取ってカウンターに持っていくのかと思ってました」
「いや、基本は受注カウンターで依頼を紹介してもらう形だね。冒険者ギルド側にも仕事を斡旋する上での責任があるからね。冒険者の適正に合わせて紹介する形が多いね」
俺の疑問に対してハプティさんが分かりやすく説明してくれる。基本的な流れとしては冒険者番号というそれぞれが登録時に貰った番号をカウンターで告げ、受付が実績などに合わせていくつかの依頼を提示してくれ、その中から選んで受注するらしい。
これは実力が足りないものが危険な依頼などを受注してしまわないようにするための対策らしい。なので、定期的な環境調査のような安全が確保されているが少し手間がかかるものや、ある程度長期になる依頼は掲示板に張り出しており、そちらは実績に関係なく冒険者ならだれでも受注可能とのことだ。
そんな説明を受けながらカウンターに辿り着くと、受付嬢に冒険者番号の提示を求められ、葵ちゃんと陽菜ちゃんが数字の書かれたカードを取り出した。
この冒険者番号の提示に関しては、別にカードを出す必要はなく口頭で告げても構わないみたいだが、桁数も多いので大体の人は最初の講習で貰う番号の記載されたカードを提示するらしい。
「……おふたりは初めての仕事ですね。同行者も二名いらっしゃるみたいですが、最初ですとこの辺りの依頼をお勧めしますが……」
そう言いながら受付嬢が数枚の用紙が入ったファイルのようなものを取り出したタイミングで、ハプティさんが口を開いた。
「依頼番号0021をお願い」
「……畏まりました」
ハプティさんが告げると受付嬢の表情が変わり、先ほどのファイルではなくマジックボックスを出現させ、そこから一枚の紙を取り出した。
「特殊調査依頼となります。詳細に関しては?」
「こっちで説明するから大丈夫」
「かしこまりました。ではクスノキアオイ様、ユズキヒナ様の二名で受注処理……完了しました」
なにやらよく分からないやり取りを経てハプティさんは一枚の用紙を受け取ってカウンターを離れ、俺たちも後に続く。
するとハプティさんは併設されている食堂……カフェテリアを指差して来たので、そちらに移動して四人でひとつのテーブルに座る。
「……さて、アオイとヒナはちょっと戸惑った顔してるね? でもその前にカイトに少し説明。依頼番号って言うのは言葉から想像できる通り依頼を管理するための番号だよ。日付と合わせて依頼書に記載されるね。例えば、火の月1日目1100番とか、そんな感じだね」
「なるほど」
「ほい、というわけで、アオイとヒナ、質問どうぞ」
「はい。えっと……私たちは講習で、依頼番号は1001番からって教わったんですが……」
「1000番台が通常依頼で、2000番台がギルドからの指名依頼、3000番台が依頼主からの指名依頼と教わりました」
軽く俺に説明を入れたあとでハプティさんが促すと、陽菜ちゃん、葵ちゃんの順で不思議そうな表情を浮かべながら質問をした。
「うん、その通りだよ。通常0から始まる依頼番号は存在しない……表向きはね。まぁ実際は、公になっていないだけで存在する。通称『特殊指名依頼』って呼ばれる依頼に使われる番号だね。これだけはかなり特殊で、番号も順番に関係なく0001~0999までの間でランダムに振り分けられる」
「特殊指名依頼、ですか?」
「そっ、簡単に言えば……極めて立場の高い人物からの依頼だったり、秘密裏に解決する必要がある依頼だったりって特殊な依頼に使われる番号で、この依頼に関しては冒険者個人の『過去の実績に記録されない』っていう特徴があるんだ」
要するに極秘任務的なものってことかな? なるほど、だから受付嬢の表情が突然険しくなったのか……。
「……うん? けど今回のアリスが用意してくれたんですよね? なんで、わざわざそんな依頼に?」
「ああ、それは単純な話だよ。今回はボクっていう保護者がいるから、その間にアオイとヒナのふたりには魔物との戦闘を経験してもらいたいんだけど……新人冒険者の初仕事で魔物が生息する場所の仕事なんて割り振ったら受付が責任を問われるし、記録が残っちゃうと次回以降も『なんでこいつら初依頼で魔物の生息域に?』って疑問も抱かれちゃうから、余計なトラブルを起こさないための処置だね」
言われてみればもっともな理由である。そりゃふたりにしてみても初戦闘を経験するなら、保護者が居る安全な状況が最適に違いない。
「だからそうならないように幻王様が手を回してくれたってわけ……ちなみに今回の依頼主は、シンフォニア王国冒険者ギルドのギルドマスターで、予想は付くだろうけど幻王様の配下だね。依頼内容は特殊地域の調査、必須報告事項はなし、期限も無し、受注者が必要と判断した以外の報告義務なし……まぁ、要するに地域だけ指定した形だけの依頼だね」
アッサリと告げられたが、冒険者ギルドのトップもアリスの配下なのか……本当にさすがというか、マジでどこにでも居るな。
そんなことを考えていると、依頼書を見ていたハプティさんがそれを俺の方に差し出した。
「……ほい、カイト。依頼主からカイトへのメッセージがあるみたいだよ」
「……え? なぜ?」
なぜ冒険者ギルドの長が、わざわざ依頼書に俺宛てのメッセージを書いてくるのだろうかと首を傾げつつ見てみると……。
『いただいた手袋、快適に使わせていただいております。改めて、深い感謝を』
……あ、ああ、そっか、なるほど……シンフォニア王国の冒険者ギルドのギルドマスターって……『カタストロさん』なのか!?
シリアス先輩「これは意外な再登場……いや、登場はしていないか……けど、そんな立場に居て、なおかつ幻王配下幹部の給料も貰ってて、なんで食うのにも困ってるの?」
???「あの腐れナルシストは、すぐに今日高級な服だとか宝石だとか芸術品だとかを買い漁るんですよ。美しい自分が見に纏うものは最上でなければならないって……しかも空腹は感じても、あの姿自体は変身してる姿ですから変化は無いので、食費は思いっきり後回しにしてるんですよ。つまり自業自得です」
シリアス先輩「……やっぱり十魔って、変態集団なのでは?」




