新人冒険者と伝説の義賊①
コミカライズ第四巻の発売日は4月24日!
書籍版十一巻の発売日は5月19日です!
公式HPなどは活動報告にてご確認ください。
葵ちゃんと陽菜ちゃんは冒険者になるかどうかを相談した結果、アリスの予想通りではあるが最終的には冒険者になることを決めた。
そしてルナさんに教えてもらいながら冒険者ギルドに出す書類を作成して提出、数日間の基礎講習も問題なく終了した。
ふたりの戸籍がどうなっているのか疑問ではあったが、そこはリリアさんからライズさんに話を通してくれたみたいで、すぐにふたりにはシンフォニア王国の国民としての証明が届いた。
なんとなくアリス辺りが根回ししてくれてたような気がするが、ともあれこれですべての準備が終わりふたりははれて冒険者となった。
そして、アリスの手配してくれる……もといアリスが変装した保護者付きでの初依頼の日がやってきた。
依頼はアリスの方で適切なものを用意してくれるということなので、同行する俺も含めて準備だけをして屋敷の前で保護者を待ってる。
興味があるのかリリアさん、ルナさん、ジークさんの三人も来ており、リリアさんはアリスが手配したという保護者に若干の不安を感じているみたいだった。
「しかし、おふたりも冒険者ですか、なにか分からないことがあればいつでも聞いてくださいね。今回は幻王様が保護者を手配するとのことなので問題ないでしょうが、必要であれば言ってくだされば私が同行者として付いていきます。まぁ、多少ブランクはありますが……」
「ルナは元最上位冒険者ですからね」
ルナさんはかつては黒百合の冒険者という二つ名で呼ばれた最上位冒険者であり、当然ながら冒険者としての経験も豊富である。いろいろな豆知識も知ってそうだし、身近に相談できる相手がいるというのはふたりにとっても非常に安心できる要因だと思う。
ルナさんとジークさんが穏やかに話す中、リリアさんは少し不安げな表情で周囲を見渡しながら呟いた。
「……そろそろ時間のはずですが、保護者の方は来ませんね?」
「あっ、そうですね。来るならそろそろ門のあたりに見えてもいいころだと思いますが……」
リリアさんの言葉に俺が答えると、そのまま話は保護者についてに切り替わっていく。
「しかし、どなたなんでしょうか? やはり最上位冒険者の誰かですかね?」
「う~ん、どうでしょう? たしかに冒険者としての指導も兼ねるのであれば、戦闘力が高ければそれでいいというわけでもありませんし、幻王様なら最上位冒険者を手配できてもおかしくは無いですが……普通の最上位冒険者を同行させるぐらいなら、私でいいのでは?」
「……そうですね。幻王様がルナではなく別に手配するということは、なにかしらの理由があるのでしょう」
ジークさん、ルナさん、リリアさんが言葉を交わし、葵ちゃんと陽菜ちゃんは少し緊張したような表情を浮かべていた。
まぁ、同行者はアリス本人なわけだし、ルナさんじゃなく自分でというのは……なんだかんだで面倒見のいいアイツらしいともいえる選択ではある。
ただ、その変装してくる顔が誰なのかというのは、俺もまだ知らない。「これならルナさんでよかったじゃないか……」とならない程度に、リリアさん達を含め納得するような相手となると、それなりに有名な存在ということだろうか?
「う~ん、俺もアリスからはなにも聞いてないので……誰なんでしょうね?」
「お答えしよう! それは、ボクさ!!」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
俺の呟きに反応するように突然声が聞こえてきた……上の方から。驚きながら俺たちが上を向くと、屋敷の屋根の上に人影が見えるが……逆光で姿はよく見えない。
「一つ、人の世の生き血をすすり。二つ、不埒な悪行三昧。三つ、『今回それはまったく関係ない!』 とぅっ!」
なんだろうこの馬鹿丸出しの口上は……思わず力が抜けそうな口上に微妙な気分になっていると、人影は屋根の上から太陽を背に跳躍し、俺たちの前に降り立つ。
「しゅた!」
着地音……口で言うのか、なんだろうこの気分。どうにもそうとう濃いキャラクターで来たみたいだ。
まるでカスタードプリンのような配色の茶と黒のツートンカラーの髪は、右のモミアゲだけが長く三つ編みにされている。後ろ髪はかなり長いが細く一本に括られていて、軽快な動きも相まって尻尾のようにも見える。
動きやすそうな軽装と、両腰に付いた少し独特な円形状のポーチ、そして上半身だけを覆うサイズのマントを身に着けた150㎝ほどの女性は、こちらを振り返りポーズをとりながら告げる。
「三界を股にかける愛と正義の大義賊! ハプティ、見参!!」
大きな声で告げられた名前には聞き覚えがあった。というか、俺の覚えが確かなら、かなりのビックネームな気が……。
そして視界の端で、リリアさんがガックリと膝から頽れるのが見えた。
「お嬢様!?」
「……ルナ……あの人ハプティって言った……」
「……言いましたね」
「……『千年前に行方不明』になった勇者パーティのひとりと同じ名前……」
「ど、同名の別人という可能性も……」
「……カイトさん関連の事態ですよ?」
「本物ですね。間違いなく」
おかしい。なんかナチュラルに俺も原因のひとつみたいに言われてる……いや、まぁ、アリス関連ということは俺にも関係すると言えばするのだが……。
と、ともかく現れたのはまさかの初代勇者パーティの最後のひとりである自称大義賊のハプティさんだった。
……ちなみに、俺が以前読んだ本には彼女のことは万能な『盗賊』と書かれていたし、ノインさん曰く金の亡者のようなトラブルメーカーらしいので……義賊というのはたぶん自称だと思う。




