帰ってきたふたり⑧
自分の能力の把握が大切だと伝えたあとで、アリスはいくつか簡単な自分の能力の把握方法を教えてくれ、今回の冒険者に関する授業は終了となった。
「まぁ、繰り返しになりますがこの先は冒険者になるかどうかを決めてからですね。ただ……そうですね。ひとつ安心させる要素として、おふたりが冒険者になると決めたなら、最初の数回の依頼に関しては……『同行者』を手配してあげますよ」
「……同行者?」
「ええ、護衛みたいなもんだと思えばいいです。あと、せっかくですからカイトさんも同行してみるのもいいのでは?」
「うん? えっと、俺は冒険者にはなれないんじゃなかったっけ?」
そりゃ俺も冒険者の活動に興味がないと言えば嘘になるし、ふたりの依頼に同行してみたいという気持ちもある。そう思いながら聞き返すと、アリスは軽く微笑みを浮かべながら説明をしてくれた。
「たしかにカイトさんが冒険者になるのはいろいろ問題があるので控えてもらいたいですが、ふたりの依頼に同行するというだけなら問題ありません。依頼の受注と清算に関しては冒険者として登録している者しかできませんが、冒険者ではない人が依頼に同行するのは禁止されていません」
「そうなの?」
「ええ、例えば地理に明るい現地住民を案内として雇う、友人の騎士に討伐依頼を手伝ってもらう、引退した元冒険者に指導を兼ねて同行を願うなどパターンは様々ですが、そういったことも可能です。ただその際の事故や怪我は自己責任ですがね」
「なるほど」
要するに冒険者が個人で依頼の補助のために第三者を雇用したりというパターンがあるので、禁止されていたりはしないということみたいだ。
たしかにソレができるなら戦闘が苦手な人も人を雇うことで魔物の討伐依頼もこなすことができる。ただ依頼の報酬額が増えるわけではないので、考えなしに人を雇用しても利益は出ないという感じか……。
「……そんなわけで、あんまり深く考えずにやってみるのもひとつの手ですよ。保護者付きで何回か依頼をこなしてみて、合わないと思えば辞めてもいいわけですしね。まぁ、よく話し合って決めてください」
「「ありがとうございます!」」
保護者を付けてくれるというアリスの言葉に安心したのか、葵ちゃんと陽菜ちゃんはどこかホッとしたような笑顔を浮かべながらアリスにお礼を告げる。
そしてこの場はお開きとなり、解散してそれぞれの部屋に戻ることになった。
自室に戻ってきたタイミングで、一度姿を消していたアリスが現れて口を開く。
「ああ、そうそう、カイトさん」
「うん?」
「たぶんあのふたりは冒険者になることを選ぶでしょうけど、その際に付ける保護者なんですが……カイトさんは気付くと思うので先に言っておきますが、私が姿を変えて同行します」
「……ふむ」
アリスの言葉を聞いて少し考える。たしかにソレが一番安心と言えるかもしれない。アリスならそれこそ仮に人界中の魔物が一斉に襲い掛かってきたとしても簡単に討伐してしまうだろうし、間違いなく葵ちゃんと陽菜ちゃんの安全は保障されるといっていい。
「……それって、アリス本人が同行するんじゃだめなの?」
「いや、別に駄目じゃねぇっすけど……カイトさんは良くても、あのふたりは私が付いていくと萎縮するでしょうし、別人の方がいいでしょう」
「あ~なるほど、それはたしかにそうかも」
葵ちゃんと陽菜ちゃんはやはりクロやアリスに対しても、魔界の頂点の一角という認識があるのか萎縮気味な感じはする。一朝一夕でどうこうなるものでもないし、アリスの言う通りアリス本人が付いていくよりはまったくの別人が付いていく方がいいのだろう。
もちろんそれでも緊張はするだろうが、高い地位を持つ相手というフィルターが無い分接しやすさはありそうだ。
「……で、ここからが本題なんですが……その同行者も新しく考えるのも面倒ですし、私がいくつか持ってる顔のうちのひとつを使うつもりですが……その人物として行動している間は、私はカイトさんとも初対面として振舞いますので、そこだけ注意してください」
「あっ、そっか、俺の態度でアリスだってバレる可能性があるのか……わかった。じゃあその時は俺も初対面として接するよ」
「よろしくお願いします」
なんだかんだといろいろふたりのことを考えてくれているアリスを見て、思わず笑みを零す。
「……アリス、いろいろありがとうな」
「なんすか? 急に……」
「いや、葵ちゃんと陽菜ちゃんもアリスのおかげでかなり不安は取り除かれたと思うし、なんだかんだ言いつつもいろいろ考えてくれてるみたいだからさ」
「ふふふ、惚れ直しましたか?」
「ああ」
「……あのですね、カイトさん? いい加減そこそこ長い付き合いですよ? 私がこういう時にストレートに返されると弱いってのは、知ってますよね? ワザとやってますよね?」
「あはは……まぁ、惚れ直したってのは本当だけどな」
「あぅ……」
照れ臭そうに顔を赤くしてそっぽを向くが、逃げたりはしない。そんなアリスに愛おしさを感じつつ、しばし恋人とのふたりきりの時間を楽しんだ。
マキナ「冒険者になることを決め、不安と期待を胸に初めての依頼に挑むふたりの前に、伝説の少女が姿現れた」
シリアス先輩「え? なに、急にどうしたんだ?」
マキナ「おどけながら軽やかに舞う姿は影に咲く花か、それとも闇に蠢く金の亡者か」
シリアス先輩「次回予告? これ、次回予告なの?」
マキナ「次回! 『伝説の義賊ハプティ見参!』 次回も愛しき我が子の活躍を要チェックだよ!!」
シリアス先輩「……テンション高くね? あっ、そうか……快人に葵に陽菜に変装アリスって……つまりはコイツが得するメンバーばかりの話だからか……」
 




