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帰ってきたふたり⑥



 結論から言おう、狙い通りアリスは折れてくれた。別にふたりに特別なことをしたわけではない。ただイリスさんから、アリスはなんだかんだで面倒見がいいという話を聞いていたので、何度か拒否されても諦めず真摯に頼み込んでみるといいとアドバイスをした。

 すると、予想通りアリスは最初は付き返すように拒否をしたが、それでも諦めずに頼んでくるふたりの様子を見てすべて察したのか、恨めしそうに俺の方を一瞥してからふたりにいろいろ教えることを了承してくれた。


 まぁ、この手がアッサリ上手くいったのは、アリスが葵ちゃんや陽菜ちゃんのことを悪く思っていなかったのと俺が居る手前気を使ってくれたというのもあるだろう。

 アリスなら俺が二人を呼んだ時点でこの展開を読み切っていてもおかしくないし、だからこそどこか諦めたような表情を浮かべていたのだろう。


「……というかクロさん、余計な振りだけして自分は会議があるからとか言って先に帰るって……」


 ブツブツと文句を言いつつ、アリスは俺たちの前に何冊かの本と封筒を置く。ちなみに、さすがにずっと庭で説明するというのもアレだったので、俺の家の中の一室に移動している。

 俺は特に冒険者になりたいというわけではないが、興味はあったのでこうして一緒にアリスの授業に参加している。


「……はい。それでは、青色の表紙の本……『教科書』の3ページを開いてください。とりあえず基礎的なところから行きましょう」

「えっと、青い本……あっ、これですね! って……あれ?」

「なるほど最初は異世界人が誤解しやすい部分の説明で……え?」

「えっと、3ページっと……うん?」


 陽菜ちゃん、葵ちゃん、俺の順で呟き……三人ほぼ同時に首を傾げた。いやだって……

 

 な ん で 教 科 書 が あ る ん だ ?


 おかしいよね? なんでクロの思い付きの発言から始まったこの授業で必要な教科書が存在しているのだろうか? ああ、もしかしてあれかな? 他の冒険者もこういう教科書を見て基礎を学ぶのかな?

 えっと、教科書のタイトルは『異世界人への冒険者教育・基礎編』……おかしいよね? 完全にピンポイントで俺たちが対象だよね?


 ……さてはアリスのやつ、もっとずっと前からこの展開になるのを読んで準備してたんじゃないだろうか? アリスなら……ありえそうだ。

 というかこの教科書だいぶ詳しく書いてあるし、挿絵もあって読みやすそうだ。ひとりでこれ読むだけでも、ある程度の知識はつけられそうな気がする。


「さて、まずは冒険者に対する認識の違いから……皆さんのような異世界人が冒険者に対して抱いているイメージで多いのは、国内にあっても独立した組織で、無法者などでも腕さえあれば稼げて、実力によってランク分けされて~とか、そんな当たりの認識が多いですね」


 たしかに創作とかの影響で、冒険者にはそういう感じのイメージを抱いている。ただ、アリスの口ぶりを聞く限り、実際はそうではないみたいだ。


「一つ目、冒険者は国営ではありませんが、ほぼそれに準じた組織。騎士団の下請け、あるいは委託先みたいな想像をしてください。で、次に他の職種に比べればある程度の緩さはありますが、素性不問とかそんなことは一切ないです。国民証明書類や技能申告書……皆さんの世界でいうところの履歴書みたいなものが必要ですし、採用段階で面談もあります」

「……なんか、普通の会社みたいですね」

「後ついでにAランクだとかSランクだとか、英語文化ないと意味ねぇだろ的なランク制度もありません。まぁ、少し似た制度はあるので、それは後ほど説明します。あと、ここまで話したところでもしかしたら気付いたかもしれませんが、例によって歩く治外法権的な存在であるカイトさんは冒険者にはなれませんので悪しからず」


 ……そっか、俺冒険者になるのも無理か。いや、俺はふたりと違って戦闘はサッパリなので、そもそもなりたいとも思っていないわけではあるが……。


「皆さんにも分かりやすいようにそちらの世界の言葉で説明するなら、冒険者というのは……そうですね、『派遣アルバイト』が近いかもしれません。国や貴族、あるいは商会なんかが出した依頼が冒険者組合に集まり、アルバイトである冒険者たちが、時間や能力に応じてそれを受注するといった感じですね」


 なるほど、確かにそう言われるとイメージがしやすいかもしれない。俺が納得したように頷いていると、そのタイミングで、質問があるのか葵ちゃんが片手をあげた。


「はい、アオイさん、なんですか?」

「ものすごく初歩的な質問で申し訳ないですが、なぜ国が冒険者に依頼を出すんでしょうか?」

「騎士団がいるのにってことですか?」

「はい」

「まず先に断っておきますが、基本的にこと戦闘能力という点においては冒険者より騎士の方が上です。まぁこれはある意味当たり前のことですね。騎士は言わばプロで、冒険者は腕自慢の素人って感じですから、平均値は騎士団の方が圧倒的に上です」


 そこまで話したところで一度言葉を止め、アリスは黒板にルナさんとノアさんの絵を描く。


「もちろん一部例外……ルナマリアさんやその母親のノアさんのように、『通り名持ち』と呼ばれる最上位冒険者は騎士よりも強い一部と言えますね。ただ、全体的にはやはり騎士団の方が高い能力を有していると言っていいでしょう……ではなにもかも騎士の方が冒険者より優れているのかと言われれば、そんなことはありません」


 続いてアリスは黒板に鎧を着た騎士らしき集団と、軽装の冒険者っぽい集団を描きながら説明を続けていく。


「まず騎士はプロではありますが特化しており、戦闘要員なら戦闘といった感じに得意分野には強いですが、それ以外には弱い傾向があります。対して冒険者は『優れた冒険者ほど万能である』という言葉があるように、ひとりで様々なことができる悪く言えば器用貧乏、よく言えば万能な者が高く評価されます。これは冒険者が単独や少人数で活動することが多いからですね」

「……なるほど」

「そしてなにより冒険者が騎士団より優れているのは、その『即応性』と『コスト』ですね。騎士団というのは、たしかに強力な存在ですが……基本的に部隊規模で動かすので、コストがかかりますし、動かすにあたって必要な承認も多く、それなりに手間もかかります」


 そのままアリスは絵などを交えながら細かく説明をしてくれた。


「要するになんでもかんでも騎士団を動かしてたら、コストがかかり過ぎるんですよ。例えば被害は無いですが、村の近くで魔物の足跡と思わしきものを発見したとかだと、村が近くにある以上放置はできないですが、それで一部隊を調査に派遣なんてしてたら人手なんていくらあっても足りません。逆にすでに被害が出てて即動く必要がある事態でも、遠方だと騎士団を派遣するには時間がかかります」

「そこで、冒険者をってことか?」

「ええ、単独ないし少数で動くのが基本な冒険者はとにかく身軽です。依頼を受けて即出発なんてことも可能なわけですし、その即応力は騎士団にない強みです。そして少数で動くってことはコストも低いんです。いや、別に冒険者の稼ぎが安いとかでは無いですよ。数十人規模で騎士を動かして、その間の警備等のシフトも調整したり~といったことにかかるコストに比べればずっと安くて、国や領地を持つ貴族にも重宝される存在ってことです」


 なるほど、領地を持つ貴族にとっても私兵を動かすよりも冒険者に依頼した方が安く済むパターンも多いってことか……。


「もちろん規模の大きいものだったり、強力な魔物が出現した際などは騎士団が動きますが……その際にも即応性の高い冒険者が先行したりといった騎士団と冒険者が協力して対応するパターンもあります。まぁ、この手の合同任務ってのはある程度実績がある冒険者にしか声はかからないので、ふたりが冒険者になったとしてもすぐには当たることはないですね。といった感じで、アオイさんの質問への答えと基礎的なお話はこれで終わりです。続けて、冒険者になるにはどうしたらいいかと、実際の活動について触れていきましょうか……教科書は13ページ、あと小さめの『冒険者規約』と書かれた冊子も用意してください」


 なんというか、本当に学校の授業みたいである……というか、やっぱり準備がよすぎるし、コイツ完全に最初っから読んでやがったな。





~おまけ・名前は出つつもまだ登場してないキャラの紹介~


草華姫・カミリア


界王配下幹部七姫のひとりにして、界王配下最強でもある存在。基本的に地味な服に見た目にも特徴は少なく、パッと見は完全に村娘といった感じで、認識阻害魔法なしで街中を歩いていてもほぼ気付かれない地味さである。


性格は大人しめで押しに弱い。家事全般が趣味であり、暇な時などには職場の清掃や洗濯などをしており、そのせいでアインにメイドであると誤解されているが、いまだに否定できていないどころか、四人しかいないスーパーメイドのひとりとして、カミリアという名前より、バランスのスーパーメイドとしての呼び名の方がメイド界を中心に広く認識されている始末。メイド界からの認識としては彼女は完全にメイドである。


戦闘においては精霊族らしく、非常に堅牢な防御能力を有しており、界王配下幹部の名に恥じない鉄壁の防御だが、彼女を界王配下最強たらしめているのは防御力ではなくその『攻撃力』である。

彼女が戦闘において行う攻撃は基本的に『右のストレートパンチのみ』であるが、それこそが彼女の代名詞でもある。


小細工は無い真っ直ぐの一撃でありながら、対策術式が無ければ魔界の大地を粉々にする程の……対策術式を施してなお大地を揺らす凄まじい踏み込みから放たれる一撃はまさに規格外であり、特に一部の戦闘狂ども(戦王五将)に絶賛されている。

そのとてつもない踏み込みからの一撃はまるで大地の怒りのようだと称されたことで、彼女は草華姫以外に『大地の剛拳』という通り名で呼ばれている。



シリアス先輩「……右のストレート一本?」

???「ですね。基本的にその凄まじい防御能力で相手の攻撃を防ぎ、返しの刃で一撃必殺ともいえる拳を叩き込むスタイルですね」

シリアス先輩「性格は控えめなのに、戦闘がストロングスタイル過ぎる……あと、気になったんだけど『基本的』には右ストレート一本……ってことは?」

???「過去に使ったことはほぼありませんが……カミリアさんは『左利き』です」

シリアス先輩「……まだ通常の上に、『幻の左』があるのか……」

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― 新着の感想 ―
真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす! 右ストレートでぶっ飛ばす!
[良い点] 何故か欄外に目が行くぜw マグナムとファントムみたいな感じですかw
[一言] 更新お疲れ様です!アリスさんの話分かりやすかった! 超絶教師美少女とかの名前が付いてそうw そして快人さんはやっぱり無理だった もし冒険者になろうとしたら止められるか、やば過ぎるメンツになっ…
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