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帰ってきたふたり⑤



 ひとしきり泣いたあとで、嬉しそうな顔で仕事に戻るイータとシータを見送ったあとで、アリスは葵ちゃんと陽菜ちゃんに視線を向け、話を締めくくるように告げた。


「まぁ、そんなわけでふたりとも冒険者になったとしてもなにも問題は無いってことですよ……思った以上に長くなりましたが、話は以上……うん?」


 アリスが話は以上と言いかけたタイミングで、葵ちゃんが控えめに手を挙げた。


「……あの、質問してもいいですか?」

「……ふむ。まぁ、ここまでいろいろ説明しましたし、構いませんよ」

「ありがとうございます。えっと、じゃあ質問なんですが……さっき、ジークさんやルナさんは爵位級に届いていないっておっしゃってましたが、おふたりって人族の中ではどれぐらいの強さなんですか?」


 葵ちゃんの質問は、先ほどのベルの強さに関する内容の続きのようなものだった。たしかに、言われてみればそれは気になるところだ。

 シンフォニア王国内でもトップクラスの実力者とは聞いたことがあるが、人族全体ではどうなのかは分からない。


「そうですね、トップ5となると微妙なところですが、トップ10には確実に入る実力者ですよ」

「なるほど……ということは、人族で爵位級レベルの力を持つ人はかなり少ないってことでしょうか?」

「私が把握している限りでは、人族で爵位級レベルの力を持つのは『四人』ですね」


 アリスが把握している数というのは。すなわち実際の数と考えていいだろう。となると人族で爵位級レベルの力を持つのはたった四人だけ……思った以上に少ない印象だ。

 葵ちゃんと陽菜ちゃんも同じことを思ったのか、少し不思議そうな表情を浮かべていた。


「あれ? 意外と少ない……と思ったかもしれませんが、これは仕方のない部分もあるんですよ。ここからは多くが私の推測になりますが、人界ってのは魔界や神界に比べて歴史の浅い……言ってみれば若い世界です」

「あ~それはボクもちょっと気になってたんだ。ボクも割と長く生きてるけど、人界の存在を知ったのは一万九千年ぐらい前だったかな? 神界についてはもっと早くから知ってたのに……」

「たぶんそのぐらいの時期にシャローヴァナル様が創造したんでしょうね。私もいろいろ調べてみましたが、人界には二万年以上前から存在すると思われる品は存在しません。どう長く見積もっても人界の歴史は二万年以下でしょうね」


 そこでいったん言葉を区切り、アリスは一度ぐるっと俺たちを見渡してから説明を続けていく。


「……ここからは集めた情報を元に私が推測した内容ですが……人界において一番初めに生まれた種族は、人間族である可能性が高いです。そして人間族から波形してエルフ族やマーメイド族といった種族が生まれた。だから人族は、魔族に比べて種族間の生態や外見が割と統一されている傾向にあります」

「……そうなんだ。それはボクも知らなかったよ」

「そしてこの人間族ですが、どうにも似通った特徴が多すぎることから……おそらくカイトさんたちの世界の人間を元に創造されたんだと予想しています。シャローヴァナル様とエデンさんは長い付き合いみたいですし、エデンさんの世界の人間を参考にして人間族を作り、そこからいろいろ手を加えてたんでしょう」

「それはつまり、人界はシロがかなり直接手を回して調整したってこと?」

「間違いなくそうでしょう。人間から始まって様々な種族が生まれ、それぞれがある程度の特色は持ちつつ種族として確立され、その上で人族として纏まって現在の文明を築き上げるまでに二万年なんてのは自然にはありえません。普通はもっと種族間での争いとかが起こってるはずです」

「昔の魔界みたいに? たしかに、そう考えるとシロがこまめに調整してなきゃありえないか……けど、当時のシロにしてはずいぶん熱心で、ちょっと違和感あるなぁ」

「……それに関してはシャローヴァナル様にしか、真実は分かりませんね」


 う~ん、なんだろう? なんとなくだけど、アリスはなんか知ってそうな気がするが……まぁ、あえて言わないってことは聞かない方がいい情報ってことだろう。


「……とまぁ、そんなわけでそもそも人族ってのはまだ発展途上な種族なわけです。実際人族の中で最も長く生きている存在でも、せいぜい『三千歳』ほど、爵位級高位魔族の平均年齢と比べればあまりにも若いです。これがあと五千年ぐらいたって、人族全体の平均レベルとかも上がってくれば爵位級レベルの人族も増えてくるかもしれませんが、現状はほぼ突然変異的に生まれた特殊な存在しか到達できていないわけです」

「なるほど」

「ちなみに、現在人族で爵位級レベルの力を持つのは……マーメイド族の特殊個体として生まれたハイドラ国王のラグナさん。エルフ族の歴史において最初に特殊個体に進化したエルフ族の最長老フォルスさん、アルクレシア帝国に住む有翼族の特殊個体、そして皆さんのよく知るリリアさんという四人だけなわけです。まぁ、リリアさんに関しては特殊個体っぽい特徴は無いので……単に才能が凄いだけですね」

「うん? あれ? 高密度魔力体質とかってのは?」


 リリアさん以外は各種族最強の特殊個体といった感じだったので、この流れでリリアさんも人間族の特殊個体と言われるのかと思ったが……どうもそういうわけではないらしい。


「高密度魔力体質は珍しい体質ですが、別に人間族特有ってわけじゃなく、魔族も含めていろいろな種族でたまに発生する体質なので、人間族の特殊個体としての特徴では無いですね。なので結論としては、あの人はただ才能が化け物じみてるだけで特殊個体では無いです」

「それはそれですごい気がする」

「まぁ、そうですね……ともかく、アオイさん、納得しました?」

「あ、はい! ありがとうございました!」

「……それじゃあ、改めて話は以上です。冒険者になるかどうかはまだ考え中みたいですが、経験者であるルナマリアさんとかにいろいろ聞いてみるのがいいかもしれませんね」


 葵ちゃんのお礼の言葉に頷いたあとで、アリスは話を締めくくり、姿を消そうとしたが……そこで再び待ったがかかった。

 ……というよりは、そのタイミングでクロが何気なく告げた。


「シャルティアがいろいろ教えてあげればいいんじゃないの?」

「……は? いや、なんで私が……」

「いや、ほら、シャルティアならさっきみたいにアオイちゃんやヒナちゃんが勘違いしてることとか、異世界とこっちの世界での認識の違いとかも把握してるだろうし、適任なんじゃない」


 そのクロの言葉はなるほどと思える妙案だった。たしかに、俺や後輩二人がイメージしている冒険者像と実際のところには違いがある可能性は高い。

 ただどこがどう違うかという説明をするのは難しい。それこそ、俺たちが思い描く冒険者像とこちらの世界での実際の冒険者の活動をどちらも正確に把握している人物でないと……つまり、アリスである。

 いやだって、コイツ絶対俺たちの世界のことも詳しいし、ソレを抜きにしても説明上手だから講師役としてはピッタリである。


「……葵ちゃん、陽菜ちゃん、ちょっと耳貸して」

「お~い、カイトさん? なにしようとしてるんですか? 嫌な予感がするんすけど……絶対イリスあたりからなんか妙な知識仕入れてるでしょ……」





~おまけ・本編とは全然関係ない小ネタ~


竜王マグナウェルの名前の『バスクス・ラルド・カーツバルド』という名前の由来


かつて太古の魔界にはマグナウェル以外に、竜の王たる力を持つ超古代真竜が三体存在し、覇権をかけた凄まじい戦いの末にマグナウェルが勝利して竜王となった。

マグナウェルはその偉大な好敵手たちを忘れないために、その三体の名前を自分の名前に付け加えた。



……という話が竜王配下を中心に広く信じられているが、『まったくそんな事実はない』。実際は竜王となる際に名前にも威厳があった方がいいだろうと、マグナウェルが自分で考えて付けた。

なぜそれが勘違いされたかというと……ある時配下のひとりに『苦戦した(響きのいい名前を考えるのに)』的な話をした際に勘違いされ、気付かぬうちに伝言ゲームのようにどんどん話が大きくなって他の配下に伝わっていった。


そしてそれはどこぞの『幻王』の耳にも入り、面白がった幻王がその情報力で魔界中に拡散したためマグナウェルが気付いた時にはすでに魔界に伝わる伝説的な話として広く認知されており、もはや否定も訂正も不可能と言っていい状況だった。

とはいえ、威厳という意味ではそういう伝説的な話もアリといえばアリだし、いまさら訂正しようとするのも凄まじい労力なので最終的にはマグナウェルも納得してそういうことにしておいた。


……まぁ、それはそれとして、ムカついたので幻王には全力のブレスを叩き込んだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 439話で「……うん……ハーピー族は人族……有翼族は魔族……似てるけど……少し違う」と仰っていましたが829話では有翼族は人族となっております。結構重大な設定ミスになっているので、訂正お願い…
[気になる点] 読み返して思ったことですが、ページ数忘れましたが前に(確か六王祭のアイシス編のどこか)「ハーピーが人族、有翼族が魔族」とありましたがここでは有翼族が人族になっています どちらが正しいの…
[一言] 更新お疲れ様です! アリスさんの話は納得できる内容が多いな。個人的に教師に向いてるなぁ リリアさん改めて凄い方だった! マグナさんの名前の事で伝説的な話になってるw 此処でもアリスさんが関わ…
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