表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
827/2406

帰ってきたふたり③



 思っていたのとは違う話の流れになってきたことに首をかしげていると、アリスはどこか呆れたような様子で溜息を吐いたあとで口を開く。


「……まぁ、その認識の違いにはいくつか理由はありますが、まずそこのふたりとカイトさんはあることを忘れてるんですよ」

「忘れてる?」


 アリスの言葉を聞いて俺が聞き返すと、アリスは人差し指を立てながら告げた。


「根本的な部分から言いましょう。いいですか、人界はそもそも『魔法を使える人はそれほど多くないです』」

「「「……あっ」」」


 アリスの言葉を聞いて、俺も葵ちゃんも陽菜ちゃんも思わずといった感じで声を出した。そういえば、そうだった。人界では魔法は割と専門的なものであり、全員が全員使用できるわけではない。

 俺もそうだが、葵ちゃんも陽菜ちゃんも身の回りに魔法を使える人が多くて完全に失念していた。


「戦闘力が必要になる冒険者に関しては、一般と比べれば使える人は多いですが……それでも、魔法を使えない人はそこそこいます。基本的に下位冒険者として活動をしながらお金を貯めて魔法学校に通い、魔法を習得して中位冒険者以上に進むというステップアップが定番ですね。ちなみに騎士団は魔法が使えることが入隊条件のひとつなので、全員使えますね」

「……つまり、魔法が使える時点で冒険者としては中位クラスの戦闘力があるってことですか?」

「ええ、アオイさん。その認識で間違いないですよ。まぁ、そりゃ戦闘経験の差はあるので実際には少し劣るでしょうが、それでもふたりとも下位の冒険者よりは強いでしょうね」


 なるほど……たしかに魔法が使えるというのは大きな強みだ。特に魔法としては基礎中の基礎ではあるのだが、『魔力による身体強化』がとても大きいと思う。

 なぜなら、ハッキリと才能ないと自覚できるレベルで身体強化が苦手な俺でさえ、身体強化の魔法を使えば普段の1.3倍ほどの身体能力を発揮することができる。

 その基礎スペック上昇は戦闘面では非常に大きな影響をもたらす。特にこの身体強化というのは、得手不得手こそあれど筋力だけではなく動体視力や思考速度も強化されるので、使えるのと使えないのとでは大きな差がある。


「そしてもうひとつの原因が……」


 そう言いながらアリスが視線を動かし、少し離れた場所でのんびりと寝転がっていたベルの方を向き、軽く手招きをする。

 するとベルはスッと起き上がり、大きく尻尾を振りながらアリスに向かって駆けていく。ベルは名付け親であるアリスに非常に懐いており、なおかつ身体能力的に加減なしで思いっきり甘えても大丈夫な相手だと分かっているので、アリスが遊んでくれると非常に喜ぶ。

 嬉しそうに飛びかかってきたベルの巨体を、アリスはひょいっと片手で受け止めて持ち上げる。高い高いでもしてもらってると思っているのか、ベルは楽しそうな感じだった。


「この子、ベルフリードですね」

「……あぁ、そういうことなんだ」


 アリスの言葉を聞いて、クロもなにやら理解した様子で頷いた。


「三人にとって魔物の基準ってのは、この子なんですよ。そりゃ三人ともこの子が伝説の魔獣と呼ばれるベヒモスで、魔物の中でもトップクラスというのは理解しているんでしょうが……それでも『ベルフリードには及ばないものの強い魔物もいる』って認識なわけです」

「なるほど、そっか、それ以外で皆が見たことある魔物は……白竜のリンちゃんだとか、ブラックベアーだとか、人界に生息する中でも最高クラスの魔物ばっかりだから、そういう誤解をしてたんだね」


 クロと話しながらアリスはベルを下ろし、軽く手を動かすとベルはそれに従って伏せの姿勢になり、アリスはベルにもたれかかりながら俺たちの方に視線を動かして説明を続けていく。


「いいですか、そもそもベヒモスってのは魔物の中でも強さという一点では桁外れなんですよ。知能が低めなので魔族とは呼ばれてませんが、実力的には高位竜種に匹敵します。例をあげるなら、人界に存在する魔物の中で最強格と言っていいワイバーン……そのワイバーンが、その鱗が返り血で深紅に染まるほど膨大な戦闘を潜り抜けた果てに進化する特殊個体、ニーズヘッグ……で、ようやく互角とみなされるレベルです」

「……フレアさんの種族か」

「あっ、いや、カイトさん、その方は例外中の例外です。彼女は生まれついての竜種じゃないのに、マグナウェルさん除いて竜種最強とかっていうレベルまで上り詰めた方なので、除外して考えてください。それ以外の普通のニーズヘッグです……特殊個体なのに普通って言い回しに違和感を覚えなくも無いですが……」


 フレアさんって、そんな滅茶苦茶強いのか……いや、確かに強者のオーラ満載だったけど、マグナウェルさん除いて竜種最強っていうほどだとは……ってことは、マグナウェルさんの配下で一番強いのはフレアさんなのかな?


「まぁ、話を戻しますが……ベヒモスってのは本来それぐらいとんでもない強さの魔物なんです。それこそもし仮に人界に出現したのなら、即『国家緊急事態特別勅令』が行使されるほどですね」

「国家緊急事態特別勅令?」

「簡単に説明すると早急に対応しなければ国が傾くレベルの災害なんかに対して、いろいろな手続きをすっ飛ばして国王とかが直接出す命令みたいなもんです。例に挙げた自体であれば、騎士団長のレイチェルさんだとか、皆さんのよく知るリリアさんだとか、単独で討伐可能な国家最強クラスに緊急出動の要請を出して対応してもらう感じですね。人界全体でも過去に数えるほどしか発令されたことは無いですね」

「そういえば、シンフォニア王国も前に出してたよね。アレは……ブラックベアーの特殊個体が出現した時だっけ?」


 クロが告げた言葉を聞き、俺の脳裏に過ったのはリグフォレシアでの一件。あの時俺は気絶していて見たわけではないのだが、ブラックベアーの特殊個体が出現したと聞いた。


「あ~いや、カイトさんたちが思い浮かべてるのとは別件ですよ。200年ぐらい前に同様にブラックベアーの特殊個体が出現した時があって、ちょうどシンフォニア王国の建国祭の時期でリグフォレシアに人が少なかったこともあって、結構な被害が出たんですよ。その時は国家緊急事態特別勅令によって騎士団長のレイチェルさん率いる精鋭たちが現地に向かい、特殊個体を討伐しました」

「なるほど……」

「また少し脱線しちゃいましたね。まぁ、そんなわけで成体のベヒモスはものすごく強いってのは伝わってと思うんですが……このベル、なんとすでに『成体のベヒモスよりだいぶ強い』です」

「……え? そうなの!?」

「ええ、純粋な強さだけなら爵位級には届かないまでも高位魔族レベルですね」


 一瞬いつの間にそんなに強く……と思ったが、どう考えても原因は餌に混ぜてるマグナウェルさんの鱗の粉末だろう。つまり完全に俺が原因である。

 そんなことを考えていると、アリスは少し呆れたような表情を浮かべつつ告げた。


「……いちおう言っておきますけど、カイトさんが飼ってるから国の上層部も見て見ぬふりしてるんですよ。そっちの明らかに『通常とは異なる新種』に進化しつつある白竜に関しても……」

「……安定の快人先輩ですね」

「やっぱり快人さんは、魔物使いなのでは?」


 鋭いツッコミに、俺は苦笑を浮かべつつ首をかしげているリンの頭を撫でた。とりあえず、リンやベルにおかしな変化があったら、真っ先にリリアさんに報告しよう。でないと、また怒られる。





~おまけ・実は超強い能力を持つ存在たち4選~


①リリム『魅了』

最強の淫魔であり、凄まじく強力な『魅了』の使い手であり、格下相手にはほぼ無敵な格下キラー。伯爵級最上位未満の相手ではリリムの魅了には抗えない。


・リリムの身体の一部でも視界にいれる

・リリムの声を微かにでも聞く

・リリムの香り(香水も可)を少しでも嗅ぐ

・リリムに髪の毛一本でも触れる


のいずれかを満たせば魅了されて言いなりになってしまう。それこそ神界決戦において神族が全員疑似的にシロの祝福状態とかいう反則シチュでなかったのなら、『下級神全てと上級神の9割』はリリム単騎で封殺できた。


格下にはほぼ無敵な反面、同格や格上相手には決定力が無く不利という得手不得手のハッキリしたタイプ。



②宮間快人『創造神の本祝福』

快人の纏うシロの本祝福には、悪意ある魔法を無効化する能力があるが……実は『相手の魔力防御も無効化する』。リグフォレシアにおいて、打ち付けた壁の方が壊れる強度のリリアにゲンコツして、多少なりともリリアが痛がっていたのはこれが原因。

なお、戦闘面で言えば本人の攻撃力が低すぎるので魔法防御無視したところで大して意味は無い。



③ノイン『不滅の英雄』

本人も知らない能力ではあるが、実は転移した際にシャローヴァナルより『本人の心が折れない限り不死身』という特性が付け加えられている。簡単に言えば『MPがある限り何度でも発動する根性スキル』、彼女の一度も倒れなかったという逸話はこれが大きな要因。


なお、なぜこんな能力を付与したかというと……初の勇者召喚だったので、うっかりノインが死んだりすると、『異世界のモンスタークレーマー(神)』がなに言ってくるか分からなかったので、その保険。


④ウルペクラ『感応魔法』

六連星ウルペクラの代名詞にして、凄まじく強力な能力。


・凄まじい察知能力に相手の表層意識を読み取る感知力

・相手の魔力と感応することで一部の魔法の無効化

・相手の魔力と感応することにより、一度見た魔法や武術をコピー

・十本の尻尾それぞれが『オートカウンター』(※本人は自由に動ける)

・相手に強制的に感情叩きつけて行動阻害

・味方と感応することでノータイムでの完璧な連携

・六連星の力を繋ぎひとりに集中させることでその一人を一時的に六王クラスに引き上げることもできる


彼女の存在があるため、六連星は六王配下の中でも『チーム戦最強』と言われている。ウルペクラは言ってみれば、『戦闘の才能MAX状態の快人』みたいなものである。

快人くんが戦闘面に才能無さ過ぎなだけで、感応魔法自体は極めて強力なチート能力である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 胃痛は既に手遅れでわ…?
[一言] ずっと前に気になってた胃痛公爵がなんで痛がったのかが数年越しにわかって助かりました。 下手にカイトクンさんが戦闘能力持ってなくてよかったってお話に聞こえるのは何でだろう 戦闘能力あったら感…
[気になる点] 快斗って自分では気づいてないだけで創造神の祝福以外にもリトルエピローグって言う名前からしてヤバそうなのも覚えてませんでしたっけ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ