帰ってきたふたり①
フレアさんとリリアさんの話も滞りなく、むしろ楽しげな雰囲気で終わり、夕方と言っていい時間になったことで帰るフレアさんをリリアさんと一緒に見送ることにした。
フレアさんはリリアさんと何度か言葉を交わしたあとで、俺の方を向いて笑みを浮かべた。
「戦友よ、今日は偶然の出会いではあったが、また近いうちに訪ねてこようと思っている。戦友は酒は嗜むだろうか?」
「ええ、大酒飲みというわけではありませんが、お酒も好きですよ」
「そうか、それは僥倖。一度戦友とは酒を飲みたいと思っていたのだ。ではその機会には、我のとっておきの一品を持ってくるとしよう」
「あ、はい。楽しみにしています」
まだ知り合って間もないが、フレアさんはとても好感の持てる性格で話していて楽しいので、一緒にお酒を飲むというのは大歓迎だ。
せっかくなので、俺も好みの酒を用意しておくことにしよう。時間帯によってはイリスさんのバーに一緒に行くのも選択肢としてはありかもしれない。なんとなく、フレアさんにはバーという雰囲気はすごく似合いそうだ。
そのまま何度か言葉を交わしたあとで、フレアさんは軽く手を振って去っていった。う~ん、後ろ姿もなんかカッコいい。
「カイトさん、今日はありがとうございました!」
「え? あ、はい。いや、特に俺がなにかをしたというわけではありませんが、リリアさんに喜んでもらえたならなによりです」
フレアさんに貰ったサインを嬉しそうに抱えながら笑顔を浮かべるリリアさんの姿は、いままでいろんな人を連れてきた時とは違うもので、本当にフレアさんに会えて嬉しかったというのが伝わってきた。
まぁ、俺としては怒られなくてホッとした。ああ、そういえばリリアさんってマグナウェルさんと会ったことも無かったかな? 六王祭でジークさんが話しかけられる場面に居たとはいえ、直接会話はしていない。
というか、六王の中で唯一マグナウェルさんとだけ直接会話をしたことがないのか……う~ん、本人に聞いてからだけどリリアさんが喜んでくれるなら、俺から話を通してマグナウェルさんと会う機会を作るのもいいかもしれない。
そんなことを考えつつリリアさんとルナさんと共に屋敷の中に戻ろうとすると、不意に後方で誰かが現れるような気配と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お? リリアさんの家の庭に来るんですねぇ」
「う~ん、たぶん私たちが地球に帰った時の場所に戻るようになってるんじゃないかしら?」
「あぁ、なるほど――あっ、快人先輩! リリアさん! ルナさん!」
声に導かれるように振り返ると、そこには見覚えのあるふたりの姿があった。
「葵ちゃん! 陽菜ちゃん!」
「えへへ、お久しぶりです!」
「大会が終わったので、また遊びに来ちゃいました」
そう、そこに居たのは一緒に異世界に召喚され、一年という月日を共に過ごした葵ちゃんと陽菜ちゃんだった。ふたりはシロさんから世界間転移用の魔法具を貰っており、俺と同じように自由にふたつの世界を行き来することができる。
突然のふたりの登場に、リリアさんとルナさんも少し驚いていたがすぐに笑顔でふたりの来訪を歓迎した。
積もる話もあるだろうと、リリアさんとルナさんが気を利かせてくれ、俺と葵ちゃんと陽菜ちゃんの三人でお茶を飲むことになった。もちろん話題は、互いの近況についてである。
「へぇ、じゃあふたりとも全国まで行ったんだ。すごいな」
「あはは、私は結局全国ではパッとしない成績でしたけどね。でも、葵先輩は五位ですよ! ……まぁ、本人は微妙に納得してないみたいですけど」
「え? そうなの? 全国五位なら、相当すごい成績だと思うけど……」
「あ~いえ、自己ベストに近い記録を出せればベスト4には入れたので、ちょっと悔しくて……」
なんというか、その台詞はすごく葵ちゃんらしかった。なんだかんだで、落ち着いているようで負けず嫌いなところがあるからなぁ……。
それにしてもふたりとも魔法は一切使わずに挑んで全国大会出場は、かなり凄いことだと思う。
「そういえば、快人先輩。私たちの方からも質問いいですか?」
「え? うん、なに?」
「……リリアさんの家の横にあった屋敷、というかリリアさんの屋敷が倍ぐらいになってたのって、快人先輩が関わってます?」
「え、ああ、えっと、いちおうその増えてる部分が俺の家って感じかな」
陽菜ちゃんのその質問を切っ掛けに、今度は俺の方が近況を説明していく。こっちの世界に帰ってきて、両親が生き返ったことや、家を建てたり、ちょっと変わった感じの特例処置を受けることになったりとか、いろいろ説明をした。
するとふたりは、どこか呆れたような表情を浮かべつつ口を開く。
「……なんというか、安定の意味わからない感じですね」
「……まぁ、快人さんだから」
「ですね、快人先輩ですもんね」
とまぁ、そんな台詞と共に後輩ふたりは、いろいろ諦めたような表情を浮かべていた。うん、まぁ、俺も自分で説明してて、相変わらず短期間にいろいろあり過ぎだろうとか思ったけど……。
シリアス先輩「……解せぬ、結局リリアは気絶しないまま……この作品は胃痛にそんなに優しい作品だったか?」
???「まぁ、いろいろツッコミどころはありますけど、胃痛のことリリアさんって呼ぶのはやめましょう」
シリアス先輩「いや、逆!?」
???「……あとはアレです。嵐の前のなんとやらッてやつです」
シリアス先輩「……え? 後輩と冒険者目指す過程で、まだだれかと知り合う余地があるの?」
???「さぁ、それは後の展開に期待ですね! 『超絶美少女義賊』とか出てくるかもしれませんしね!!」
シリアス先輩「お前じゃねぇか!?」




