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新年番外編・六王幹部の休暇~冥王&死王陣営編~



 六王配下幹部に与えられた一ヶ月間の長期休暇。しかし、普段とさほど変化のない陣営もいた。

 まずは冥王クロムエイナの家族たち……冥王陣営と呼ばれる者たちに関しては、そもそも幹部といった括りが存在せず、全員家族という扱いである。

 そしてトップであるクロムエイナが定期的に休みを取るように言っていることもあり、ほんの少しとはいえアインでさえちゃんと休みは日頃からとっている。

 強いて冥王陣営で忙しい立場といえば、広大な土地をクロムエイナに代わって収めているツヴァイか、セーディッチ魔法具商会の相談役的なポジションを務めているゼクスぐらいだろう。


 そんなわけで冥王陣営は特に今回の件で変化は無く、例年通りの新年を過ごしていた。


「フィーア、貴女はクロム様に新年のあいさつは?」

「あっ、ツヴァイお姉ちゃん。私はもう終わったし、お年玉も貰ったよ?」

「そうですか、ではほかに挨拶が終わっていないのは……」


 冥王クロムエイナの居城では、毎年大規模な新年会が開かれており、この日は城を出て他の場所に住んでいる家族たちの多くが戻ってきて賑やかに過ごす。クロムエイナが家族にお年玉を配るのも毎年恒例である。

 さすがに家族の数が多いため全員集合とはいかないが、それでも皆できる限りこの新年会には参加しようとする辺り、クロムエイナの人望が伺える。


 ツヴァイの質問に答えたあとで、立食形式のパーティを楽しみつつ普段はあまり会わない家族たちと楽し気に会話をしていたフィーアは、ふとある人物を見つけて駆け寄る。


「……トーレお姉ちゃん! 久し振り! もう来てたんだね」

「久しぶりね、フィーア。私は去年は魔法具商会の仕事で参加できなかったし、今回は早めに来たのよ。私は移動するのにも時間がかかるからね」


 トーレは自力で転移魔法を使えるほどの魔力は持ち合わせていないため、帰ってくるのにも時間がかかってしまうと苦笑しながら告げる。

 するとフィーアはなにかに気付いた様子で周囲を見渡してから、首を傾げた。


「え? トーレお姉ちゃん、ひとりで帰ってきたの? ……チェントとシエンは?」

「ああ、ふたりは忙しそうだったから、こっそりと……」

「駄目じゃない!? 護衛のふたりを置いて来ちゃ……今頃血眼で探してるよ!?」

「あっ、でもちゃんと書置き残してきたから……」


 いたずらがバレた子供のような笑顔を浮かべるトーレを見て、フィーアはガックリと肩を落として頭を抱える。


「はぁ、相変わらずトーレお姉ちゃんは、戦闘力は皆無なのに……抜け出すのだけは上手いんだから、ふたりの苦労がうかがえるよ」

「えっと、ありがとう?」

「褒めてないよ……なにかあったらどうするのさ」

「あ~……でもほら、ちょっと帰ってくるだけだし……」


 トーレはフィーアより年上ではあるが、戦闘力や魔法の才能は皆無と言ってよく、爵位級はおろか高位魔族レベルの力もない。

 ただし、極めて希少かつ有益な特殊能力を所持しており、普段は安全のためにチェントとシエンというふたりの伯爵級高位魔族が護衛を務めている。

 しかし、どうにも彼女は隙を突いて抜け出すのが上手く、なおかつ本人が割と楽観的な性格のため、たびたびこうして護衛を置き去りにして抜け出してきてしまうことがある。

 フィーアはしばし頭痛を抑えるように頭を抑えたあと、すうっと大きく息を吸い込んで叫んだ。


「……ツヴァイお姉ちゃぁぁぁぁん! またトーレお姉ちゃんがひとりで抜け出してきてるよ!」

「ちょっ!? フィーア!?」

「トーレ……貴女は……」

「あわわわ、ツ、ツヴァ姉……こ、これはその……」


 トーレが慌てた表情に変わった直後、額に青筋を浮かべたツヴァイが目を前に現れる。もちろんこのあとに、厳しいお説教が待ち受けていたのは言うまでもない。










 ところ変わって魔界の北部に位置する死の大地……そこにある死王アイシスの居城では、幹部たる六連星の面々がなにやら神妙な表情を浮かべていた。


「……ラサル、これで合っているのか?」

「わからなイ。一応言われた通りに作ったつもりだガ、私も実物を見たことがないんだヨ」


 腕を組んで首をかしげるシリウスに、ラサルが軽く首を横に振りながら答える。


「たしかになんというか、我々には少し馴染みのない形状だね。ここはやはり言い出しっぺに聞いてみるのがいいだろう。どうだい、ウル? これで合っているのかな?」


 ふたりのやり取りを見ていたポラリスが苦笑と共に、今回の件の提案者であるウルペクラに問いかけると……ウルペクラは十本の尻尾を揺らしたあと、自信満々といった表情で答えた。


「……分からねぇっす!」

「おイ」

「いや、アタシもカイト様に聞いただけで、実物は見たことねぇんすよ。たぶん、合ってると思うんすけど……」

「けどウル? この……『コタツ』やったっけ? これは~結局なんなん? テーブルにしては、ちょお低い気がするんやけど?」


 言い出しっぺでありながらよく分かっていないウルペクラに苦笑しつつ、どこかのんびりした様子でスピカが尋ねる。

 そう、彼女たちの前にあるのは異世界の品ともいえるコタツであり、ウルペクラが快人から聞いた話を元にラサルが作り上げた代物だった。


「なんか、異世界の防寒器具らしいっすよ? カイト様が言うには、このコタツに入りながら鍋を食べると、最高なんだそうっすよ。カイト様が言うんだから、間違いねぇっす。それで、今回はその実験すね。一度試してみて、いい感じだったらカイト様を招待するんすよ」

「なるほどな~」

「まぁ、とりあえず試してみるのがよさそうだね。料理は筆頭殿が指揮を執ってるんだし、そちらは安心だろう。このコタツに関しては、試してみて不満点があればあとで修正すればいいさ」


 ポラリスがある程度結論付けたあとで、他の死王配下に指示を出して会場をセッティングしていく。死王陣営ではこういった突発的な思い付きによる催しは珍しいことではないので、皆慣れたものでテキパキと準備は進んでいった。

 しばらくすると、ピクッとウルペクラの耳が動き、十本の尻尾が嬉しそうに揺れる。ほかの者もそれで誰が来たのか察したようで、部屋の入口に視線を動かすと、彼女たちの王であるアイシスが姿を現した。


「……皆……ただいま」

「「「「「おかえりなさい、アイシス様!」」」」」


 アイシスの帰還に皆が笑顔を浮かべておかえりと告げ、配下を代表してポラリスがアイシスに話しかける。


「アイシス様、六王様の集まりはいかがでしたか?」

「……うん……楽しかった……あと……クロムエイナの提案で……六王幹部の皆に……一ヶ月の長期休暇を与えるって……話になった」

「長期休暇……ですか?」

「……うん……うちだと……六連星の皆……かな?」


 アイシスの言葉を聞き、ここにいないイリスを除いた六連星の面々は顔を見合わせて首をかしげる。アイシスがことの経緯を詳しく説明すると、それぞれどこか微妙そうな顔で口を開いた。


「……なるほど、お話は分かりました。が……あまり、我々には関係がないような気がしますね」

「私たちハ、基本的に好き勝手に休んでますシ」


 ポラリスとラサルがそう告げると、他の三人も頷きながらそれぞれの考えを口にする。


「いまは仕事のようなものも抱えてませんしね」

「結局いつも通りになりそうな気がするっすね」

「そやね~それに、ウチらは一応~対面的には幹部やけど、そんなんあってないようなもんですしねぇ」


 シリウス、ウルペクラ、スピカもまったく同じ考え……というよりは死王陣営はやや特殊だった。現在死王配下は総数48名……数自体は六王の陣営の中で最少ではあるが、その全員が爵位級高位魔族という特殊な陣営で、アイシスが勧誘を行ったわけではなく全員自ら志願して配下となっている。

 そして共通の特徴として、アイシスの人柄に惹かれて配下となった者ばかりで非常に仲が良く、なおかつ皆名声や地位といったものにサッパリ興味がない。


 いちおう筆頭であるイリスが対外的な見栄えを気にするタイプであり、対外的に六連星という幹部を設けてはいるが、ほぼ形式だけであり上下は無いと言っていい。

 性質的には冥王陣営に近く、配下というよりは家族や仲のいい友達という感覚である。その上、そもそも死王陣営自体がそれほど多くの仕事は抱えていない。

 なのでわざわざ長期休みが必要かと言われれば……別に必要なかった。


 それはアイシスも理解しているのか、どこか楽しそうに苦笑を浮かべたあとで頷く。


「……そうだね……私たちには……あまり関係ないかな? ……じゃあ……うちはいつも通りで」

「「「「「はい!」」」」」

「……そういえば……今回は……なにをしてるの?」


 満足そうに頷いたあとで、アイシスが周囲を見渡してセッティングが進んでいる会場に首をかしげる。


「今回はカイト様の世界のコタツというものを再現して、鍋パーティを開く予定ですが……お恥ずかしながら我々はコタツを見たことがなく、これでいいのかと相談していたところです」


 基本的に死王配下の面々は全員仲が良く、ついでにノリも良いため、こういった突発的な催しでも当たり前のように全員参加する。今回も料理が得意な面々はイリスを手伝っており、それ以外は会場の準備をと……わざわざ役目を割り振らなくても、自主的に分かれて作業をしていた。


「……大丈夫……合ってると思う……たしか普通の形以外にも……ホリゴタツ? ……とか種類もあったはず」

「さすがアイシス様、ご存じなのですカ?」

「……少しだけ……たしか……異世界の道具について書かれた本が……」


 そう呟いたあとでアイシスが軽く手を振ると、居城内にある書庫……大図書館と言っていいほどの蔵書量があるそこから一冊の本が転移してくる。


「……これの……ここに記述がある」

「なるほド、ふむ……かなり詳しく乗っていますネ。普段の我々の生活を考えるト、ホリゴタツの方が馴染みやすさはありそうですネ。次回があるなラ、そちらも作ってみることにしまス」


 凄まじい数の本の内容をほぼ完全に記憶しているアイシスに、ラサルが感心したような表情を浮かべたタイミングで、料理をしていたイリスと他の配下が部屋に入ってきた。


「こちらは用意できたぞ」

「ああ、筆頭殿。こちらもある程度はセッティングも終わっているよ。物も問題がないみたいだ。我らが王も帰還されたところだし、タイミングもばっちりだ」


 ポラリスの言葉を聞いてイリスは一度頷いたあとで、軽くアイシスに頭を下げてから他の死王配下に指示を出して複数用意されたコタツの上にコンロのような魔法具と鍋を置いていく。

 そしてそれぞれが席に着き、突発的な鍋パーティが始まった。


「う~ん……このハシってのは、難しいなぁ。ウチはスプーン使うことにするわ」

「そうっすか? 慣れればそうでもねぇっすよ」

「ウルは器用やねぇ」


 慣れない箸に苦戦するスピカとは対照的に、ウルペクラは初めてでもアッサリと箸を使いこなして、器用に具材を自分の容器に取り分ける。


「ああ、シリウス。そこの薬味を使うときは気をつけよ。それは少々辛味が強い」

「うん? そうなのか……多少なら問題ないが……」


 イリスの言葉を聞いて、シリウスは考えるような表情を浮かべる。彼女は虫人という特性上なのか甘党であり、辛味の強い味はやや苦手としていた。

 ただそこまで極端でもないので、ある程度の辛さであれば十分味のアクセントとして楽しめるが……。


「少し味見をしてみるカ? 私の容器にはその薬味を少し入れてあル」

「ああ、悪いな……ふむ、コレぐらいなら問題ない。私もいれるとしよう」


 ラサルとシリウスは普段よく喧嘩をしているが、別に仲が悪いというわけではない。というより、喧嘩するほど仲がいいという言葉がしっくりくる間柄であり、こういった些細なやり取りからもその仲の良さは伝わってくる。

 まぁ、というよりは……死王配下はこうしてワイワイ鍋パーティをするほど全員仲はいい。


「う~ん、不思議な感覚だが、このコタツというのは中々悪くないね」

「ああ、アリスの話ではみかん……オレンジのような果実を食べるのもいいそうだ。今度試してみるとしよう」


 誰もかれもが楽し気に、一応はテーブルを分けてはいるが、それぞれ容器片手に自由に移動して会話を楽しんでいる。もちろん一番人気なのはアイシスがいる席であり、代わる代わるアイシスの元には配下たちが集まっており、アイシスも心から楽しそうに微笑んでいた。


 その王の気質故か、配下の仲の良さでは六王陣営の中でも屈指と言っていい死王陣営。極寒の死の大地に建つ居城には、今日も温かな笑い声が満ちていた。





冥王陣営


基本例年と変わらず、皆で新年会。さすがに数が多いので全員集まれるわけではない。


【トーレ】

クロムエイナの家族の中では古参でありながら、戦闘力は皆無。快人くんとどっこいどっこいレベル……しかし、『自身の魔力を注ぐことで魔水晶の純度を変化させる』という極めて希少な能力を持っている。

セーディッチ魔法具商会が、天然ではめったに見つからない純度90%以上の魔水晶を必要とする魔法具を作れるのは、彼女のおかげと言っていい。

名前の由来はイタリア数字の『3』(アインやツヴァイのようにドイツ数字でないのは、アリスがドライをダサい名前といったせい)


【チェントとシエン】

トーレの護衛だが、よくトーレに抜け出されて大慌てしてる。それぞれ伯爵級の実力者。名前の由来はイタリア数字とスペイン数字の『100』



死王陣営


こいつらは基本ただのアイシス大好きな仲良し集団である。いつも誰かが突発的に思いついた企画に、わざわざ呼ばなくても次々集まってきて、あっという間に全員参加状態になってワイワイ騒いでるイメージ。

笑いの絶えない居城に、アイシスもニッコリ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 優しい世界
[良い点] 毎回登場人物の人柄がよくわかる描写ですね [気になる点] 甘さがちょっと足りないかな? [一言] 何気なく手に取ったコミックスからここにたどり着きました。誰も死なない、素敵な物語をありがと…
[良い点] 冥王配下と死王配下が仲むつまじい そして、冥王配下に新キャラ!スキルで戦闘に関係なく日常で重要なキャラって好きです [気になる点] 両陣営の何もたわいない日常も見てみたい(未来の話だけど、…
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