新年番外編・六王幹部の休暇~界王&幻王陣営編~
六王配下幹部へと与えられた一ヶ月間の休み、リリウッドが治める森林都市ユグフレシスでは、界王配下幹部七姫の一員である妖精姫ティルタニアが、満面の笑みを浮かべながら宙を飛んで移動していた。
「歓喜の表情……つまりは、ティルはとても楽しそう」
「ティルはラズ様に招待されたのです! 明日はラズ様の畑で獲れた野菜さんを一緒に食べるです」
ティルタニアは初代妖精王であるラズリア実の姉のように慕っており、口調や服装もラズリアに憧れて真似をしている。
実際ふたりは六王配下になる前からの知り合いであり、それぞれ冥王陣営と界王陣営と所属は違うものの、頻繁に会って交流している。
余談ではあるが、以前リグフォレシアの宝樹祭でラズリアが『カイトクンさんのことを自慢する』と言っていた友達とは、ティルタニアのことである。
「納得……つまりは、理由は分かった。楽しんできて」
「はいです! エリアルはお休みどうするですか?」
ティルタニアの隣を歩いていた、透き通る青空のような髪の女性……天花姫エリアルは、ティルタニアの言葉を聞いて顎に人差し指を当てて、考えるように首をかしげる。
「思案中……つまりは、まだなにをしようか迷ってる」
「長いお休みですしねぇ~。あっ、もしどこか空いてたら、一緒に買い物に行きませんか~? ティルは新しい楽器が欲しいのですよ」
「問題ない……つまりは、もちろんかまわない。日程は一任……つまりは、行くのはティルの都合のいい日で大丈夫」
「了解です! また新しい楽器を買ったら、一緒に踊るですよ」
「賛成……つまりは、よい考え」
ティルタニアとエリアルは元々仲がよい。というのも、ティルタニアは楽器の演奏が趣味であり、エリアルが踊りが趣味ということで、互いの趣味がうまい具合に噛みあっており、一緒に踊ったりしている。
ニコニコと笑顔で話すティルタニアを見て、エリアルも穏やかに微笑みを浮かべる。するとそのタイミングで、ティルタニアがなにかを思いついたようにキョロキョロと視線を動かした。
「……あれ? そういえば今日は、カミリアを見てないですよ?」
「祭典に参加……つまりは、メイドオリンピアというのがあるらしく、アイン様と一緒に出かけたよ」
「お~! ティルも知ってるです。メイドさんの大会ですね~。今日やってるですか?」
「おそらくそう……つまりは、今朝出かけていたからたぶん今日」
彼女たちと同じく七姫のひとりである草華姫カミリアは、とある誤解からアインにメイドだと認識されており、四年に一度のメイドの祭典……メイドオリンピアに、ほぼ毎回強制的に参加させられている。
本人が非常に押しに弱い性格なので否定もできないまま、結果的に何度も優勝して……アインだけではなく、数多のメイドから『バランスのスーパーメイド』だとか『メイドとしてのお手本』だとか呼ばれている。
なお、カミリアは『別にメイドではない』。あくまで家事が趣味なだけである。
「それならせっかくですし見に行きませんか? カミリアのこと応援したいです!」
「場所が不明……つまりは、応援したいのは私も同じだけど、どこでやってるか知らない」
「そういえば、ティルも知らないですね~。メイドさんにしか分からないんですかね?」
「不思議な大会……つまりは、噂は聞くけどいろいろと謎に包まれた大会。職業の違い……メイドじゃない私たちには分からないのかもしれない」
「なるほど~………‥カミリアは、メイドさんでしたっけ?」
界王配下のように幹部同士の仲がいい陣営もあれば、幹部同士の仲が悪い……というほどでは無いものの、あまり仲がいいともいえないのが幻王配下幹部の十魔だ。
各地に散らばって活動しているという性質上、王であるシャルティアの招集以外で一堂に会する機会が少なく、幹部同士の交流はほとんどない。
またメンバーも個性の強い者が多く……かつ大半のメンバーが『自分以外は変態ばかりの集団だ』と、『自分のことを棚に上げている始末』なので、こういった長期休暇でも集まるようなことは無く、各員思い思いに過ごしている。
ただ、全員が集まったりすることは少ないものの、気の合う二人ないし三人程度が集まることはあるし、仲の良いメンバーも存在しないわけではない。
「……私は正直、シャルティア様の手足として働いている方がいいのだが、休めという命令では……待てよ? これはもしかして、シャルティア様が私に与えてくださった『放置プレイ』なのでは!?」
「そうかもしれないねぇ」
「やはりそうか! 流石シャルティア様! 素晴らしいご褒美、このパンドラは感激しました!」
「よかったねぇ。紅茶でぇ、よかったぁ?」
恍惚とした表情でここにいないシャルティアに感謝を伝えるパンドラを横目に見つつ、イルネスはテーブルの上に紅茶とクッキーを置く。
「ああ……突然訪ねてすまなかったな、パンデモニウム。メイドとしての仕事は大丈夫か?」
「大丈夫だよぉ。十魔の方のぉ、仕事がないからぁ、むしろ~手持無沙汰だよぉ」
「そうか、それならばよかった。しかし、それにしても、いままでも何度も言ったが、ミヤマ様のメイドという立場が羨ましい。あんなことやこんなことも、され放題ではないか、たとえば夜に――」
そのまま隠すことなく狂気じみた妄想を垂れ流すパンドラに対し、イルネスは穏やかな微笑みを浮かべつつ編み物をしていた。
意外なことにこのふたりは長い付き合いであり、仲がいい……というよりは、イルネスのスルースキルが極めて高く、パンドラの狂気に染まった発言を穏やかにスルー出来るため、比較的相性がいいと言えた。
現在も常人であれば頭を抱えそうな狂った性癖全開のパンドラの発言を、一切気にすることなくスルーしているあたり、もう慣れたものである。
「――といった具合に是非いたぶってもらいたいものだ」
「なるほどぉ」
ひとしきり話して満足そうなパンドラに、イルネスは視線は編み物に向けたままで頷く。
「しかし、改めて一月も休みとなると、なにをしていいかわからんな。まさか、一月パンデモニウムと話し続けるわけにもいかないし……どうしたものか」
「なにかぁ、趣味でも作ったらぁ?」
「たしかに、それもひとつの手ではあるか……しかしいまさら趣味と言われても……いや、まてよ」
そこでふとパンドラはなにかに気付いたようにニヤリと……『完全に発情した顔』を浮かべた。
「せっかくの機会だ。この一月は『ミヤマ様のペットとして飼っていただく』というのは――」
「それは駄目」
「――どうだ……う、うん?」
名案とばかりに口を開いたパンドラだったが、その途中でイルネスが普段とは違う鋭い声で遮ったことで、やや戸惑った表情を浮かべた。
「それはぁ、カイト様の~迷惑になるからぁ、駄目だよぉ」
「むっ、そ、そうか……たしかに、ミヤマ様に迷惑をかけてしまっては本末転倒か……」
若干イルネスの雰囲気に気圧されたというのもあるが、それ以上に快人に迷惑をかけることはパンドラにとっても本意ではない。
そもそも彼女の狂気じみた性癖は、元を辿れば強大すぎる忠誠心が故であり、実のところそこを上手く付けばある程度パンドラを大人しくさせることはできる。
「それにぃ」
「うん?」
「放置プレイ中じゃ~なかったのぉ?」
「はっ!? そうだった!?」
……なおそれ以上に、彼女の性癖を利用して大人しくさせるのが有効なのは言うまでもない。
界王配下
幹部同士の仲が良いため、誘い合って買い物に行ったり楽しく休暇を過ごす。なお、カミリアは今年のメイドオリンピアでは優勝したらしい。
幻王配下
そもそも性質的に、六王幹部以外の肩書を持っている者が多い。というか、こいつらはある程度普段から好き勝手に休んでいるので、アリスちゃん的には『別にあの変態どもに特別休暇とか必要なくないですか?』と、割と真面目に考えてた。




