フレアベル・ニーズベルト④
何度もお礼を言って男性が去るのを見届けたあと、俺とフレアさんは当初の予定通り喫茶店へと移動した。
「戦友よ、先ほどは我の都合で時間を取らせてしまったのだ。せめてここは我に持たせてくれ」
「あ、はい。それでは、お言葉に甘えてご馳走になります」
フレアさんの言葉に一瞬遠慮しようかとも考えたが、フレアさんはたぶん性格的に貸し借りというか、義理人情というか、そういうものを大切にするイメージなので断るのも逆に失礼だと思って頷いた。
ただ、仮にこれがフィーア先生とかが相手だと、どっちが払うかで少し揉めそうな気がするので、フレアさんの姉御感というか年上って感じが凄い雰囲気も素直に頷けた理由かもしれない。まぁ、フィーア先生が遥か年上とは思えないぐらい妙に親しみやすい雰囲気なのもあるけど……。
店に入って人数を告げ席に案内されると、店員がチラリとフレアさんの腰のホルダーにあるキセルを見て笑顔で告げた。
「お客様、喫煙用魔法具の貸し出しはいかがなさいますか?」
「いや、自前のものがあるので必要ない」
「かしこまりました」
なんというか、少し変わったやり取り……というか、喫煙用魔法具というものがなんなのか気になったので、注文を終えたあとでフレアさんに尋ねてみることにした。
「あのフレアさん、さっき店員が言ってた喫煙用魔法具というのは?」
「うん? ああ、そうか、戦友は異世界出身だったな。であれば、知らないのも無理はない」
そう言いながらフレアさんは懐から緑色の魔法具を取り出した。形は球体状でサイズはピンポン玉ぐらい……魔水晶の純度はそこまで高そうな感じではない。
フレアさんがその魔法具を親指で上に弾くと、魔法具はかすかに光を放った後でフレアさんの周囲をくるくると回り始めた。
「これが、喫煙用魔法具だ。簡単に言えば、煙を吸収して通常の空気に浄化する魔法具といったところだ」
「ああ、なるほど、それがあれば周囲の人は煙たくならないってことですね」
「その通りだ。我も喫煙者のマナーとして携帯している。まぁ、風系統の変換魔法が得意な者は魔法具を使わなくても同じことができるが、風系統はイマイチ苦手でな」
フレアさんの言葉を聞いて頭に思い浮かんだのはオズマさんだった。そういえば、オズマさんも俺の前で煙草を吸うときは魔法で煙が俺に届かないようにしてくれていたが、言うならばそれの魔法具バージョンということだろう。
「なるほど、それはすごく便利ですね」
「ああ、ただ欠点もある。やはり魔法具だけあってそれなりに高価だ。個人で所有しているのはそれなりに裕福な者だけだろう。だから、こういった喫煙を可能としている店には大抵貸し出し用で用意しているわけだ」
「なるほど」
「それとそれなりに高度な術式なので、この魔法具は基本的にひとり用だ」
魔法具は非常に便利なものでその性能は、俺の知る機械製品を大きく上回るものも多い。転移の魔法具などは最たるものだろう。
しかし、すべてにおいて魔法具が同じ効果の機械製品より優れているかと言われれば、必ずしもそういうわけではない。高性能の魔法具はやはりかなり値が張るので、効果に対して割高に感じることもあるだろうし、効果範囲が狭いものもそれなりに存在する。どちらかが絶対的に優れてるとはいえないのが、なかなか面白いものだ。
そんなことを考えていると、フレアさんは次になにやら小さな缶……パッと見た感じハンドクリームでも入っていそうな容器を取り出す。開くと中には木屑っぽいものが入っており、それをキセルですくう。
そしてフレアさんがキセルを咥えると、一瞬火が灯り少しして煙が出始める。その煙は先ほどまでの説明通り、フレアさんから少し離れるとスッと消えるように見えなくなった。
「とまぁ、こんな感じだな」
「なるほど……それにしても、キセル煙草って初めて見ましたけど、そんな感じなんですね」
「使い方という意味であればそうだな。だが、すまぬ……実はこれは『煙草ではない』のだ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、これは魔界に生えている香木を加工したものでな、厳密には煙草ではない」
香木か、詳しくは知らないのでアレだけど、個人的なイメージとしては神社とかお寺とか、そういう場所で使用している認識だ。
なるほど、確かに厳密には煙草ではないが傍目に見るだけでは分からない。なのでフレアさんは、普通の煙草と同じように喫煙用魔法具を……ってあれ? なんかおかしくないか?
「……えっと、フレアさん。俺の知識が足りないだけならすみません……香木って、煙を吸うものなんですか?」
「……あ、いや、その……それはだな」
そう、それが香木であるのならわざわざキセルで吸う理由はないはずだ。いや、けど葉巻とかは肺に入れずに香りを楽しむものだって聞いた覚えもあるし、ソレと同じように口内の香りを楽しんでいるのかもしれない。
とそんな風に考えて尋ねると、いままで堂々とした雰囲気だったフレアさんが、なぜか珍しく言い淀み気まずそうに視線を外した。
そしてフレアさんは俺から視線を外したまま、ほんの少し頬を染めながら告げた。
「その、この香木の煙を吸うと……その……か、『体が大きくなる』という……言い伝えがあってだな……」
「……へ?」
『活動報告にて、ラグナのキャラデザ、そして十巻の見所についての記事を投稿しています』
四大魔竜他三匹「……し、信じられねぇ、アイツ、踏み込みやがった。躊躇なく地雷原に……行けるのか? 地雷を踏みぬくことなく、会話を続けられるのか!?」
A.パーフェクトコミュニケーション不可避




