フレアベル・ニーズベルト②
簡単な自己紹介を終えたあと、フレアさんは手に持っていたキセルを、ズボンのベルト紐に括り付けているホルダーに刺してから、俺の顔を見上げて口を開いた。
「竜の姿を見せれば分かりやすいのだろうが、さすがに街中では騒ぎになってしまうので、またの機会にさせてもらおう。説明の順が悪く、戦友にはいらぬ混乱をさせてしまったな……すまない」
「あ、いえ、お気になさらず……ところで、えと、その友というのは?」
「ああ、なに、かつて我らは神界という舞台で所や術は違えど、同じ方向を向いて戦った……故に戦友というわけだ」
「なるほど」
フレアさんが口にした神界という舞台というのは、シロさんが俺に与えた試練に関するもの。俺は後で皆から話を聞いただけなので、そこまで詳しく知っているわけではないが……俺の知り合い以外にも、六王幹部を始め多くの方があの戦いに参加してくれたらしい。
そして、フレアさんもそのひとり……偶然とはいえこうして会えたのはいい機会かもしれない。どちらにせよいずれお礼をしなければと思っていた。
「……フレアさん、遅くなりましたがあの時は力を貸してくださって、本当にありがとうございました」
俺がそう告げて頭を下げると、フレアさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべたあと、どこか優し気に微笑んでから手を伸ばして軽く俺の肩を叩いた。
「礼など不要だ……と言いたいところではあるが、せっかくの戦友からの労いの言葉だ。ここはありがたく、受け取っておこう。だが、それならば、こちらからも礼の言葉を言わせてほしい」
「……え?」
「あの戦いに参加できたこと、貴公の偉大な行いを僅かとはいえ、この目で見れたことに我は感謝したい。本当に見事だった」
「いえ、俺はあの一件では本当にいろんな人に助けてもらいました。俺がシロさんに勝利できたのは、助けてくれた皆さんのおかげです」
これは本当に心からの言葉だった。世界の創造主たるシロさんに勝利した……そう言葉にしてみれば、ソレはもの凄い偉業のように聞こえる。だけど、実際俺ひとりの力では最初の試練すら突破することはできなかっただろう。
そんな思いを込めて告げた言葉だったが、フレアさんは静かに首を横に振った。
「違う、違うのだ戦友よ。たしかに貴公の成したことは、たどり着いた結果は素晴らしい。だが、我が偉大だと戦友称したのは『勝利したから』ではないのだ」
「……え?」
「神界の件だけではない。戦友がこの世界を訪れてから、神へと挑むまで……貴公の前にはさまざまな困難が立ちふさがったはずだ。詳しくは知らぬが冥王様に関わる一件、魔王と呼ばれた者に関わる一件、それ以外にも多くの困難があったはずだ」
そこで一度言葉を区切り、フレアさんはスッと空に視線を向ける。俺もつられて空を見上げると、そこには雲ひとつない美しい青空が広がっていた。
そしてフレアさんは空を見つめたまま、穏やかな口調で告げる。
「……なぁ、戦友よ? 『妥協』する選択肢もあったはずだ。『諦める』という道もあったはずだ。無論歩む道において、決して逃げることが許されない時もある。しかし、それは本当にごく一部だ」
「……」
「ほどほどの結果で止めてもよかった。諦めて逃げたとしても誰も貴公を責めたりはしなかったはずだ。貴公の前に立ちふさがった数々の出来事は、人の身で挑むにはあまりにも高き壁だっただろう」
そう言って語るフレアさんの言葉に思い当たらないことがないと言えば嘘になる。たとえば、初めてアイシスさんと会った時、俺が恐怖に負けて逃げ帰ったとしても誰も俺を責めたりはしなかった。
逃げようと思えば逃げられた場面は多く、途中で妥協して諦めようと思えば諦められたことも沢山あった。
だけど、俺は……。
「……だが、戦友は立ち止まらなかった。最良の結果を求め、怯える心に喝を入れて立ち向かった。だからこそ、戦友は多くのものを得ることができた。だからこそ、戦友は偉大なる結果を掴みとった」
「フレアさん……」
そこでフレアさんは空から俺に視線を戻し、真っ直ぐに俺の目を見つめる。
「戦友よ、貴公は勝利したから偉大なのではない。『挑んだ』からこそ、偉大なのだ。我は貴公のその勇気を、最良を目指し手を伸ばした誇り高き心をなによりも賞賛したい。誇っていい。その挑戦は、貴公だからこそ成し得たもの……他の誰にも決して真似することはできなかった偉大なる行いだ」
ここまで交わした言葉は少なくとも、フレアさんが真っ直ぐな人柄だというのは伝わってきていた。だからこそ、この賞賛の言葉が偽りのないフレアさんの本心だと理解でき、なんだか少しくすぐったいような気分だった。
「だからこそ、そんな戦友の偉大なる挑戦……僅かでもその手助けができたというのであれば、それは我にとってなによりも誇らしいものだ。そして、戦友が勝利する様を見ることが出来たのは、何物にも代えがたい喜びだ。だからこそ、礼を言わせてほしい。本当にいい戦いに参加させてもらった」
そう言ってニッと笑うフレアさんを見て、俺も思わず笑みをこぼした。素晴らしい結果を勝ち取ったから凄いのではない。素晴らしい結果を目指して手を伸ばしたからこそ凄いのだと……そんな裏表のない、振り絞った勇気を称えてくれるフレアさんの言葉が……本当に嬉しかった。
シリアス先輩「……登場から、好感度が激烈に高すぎる」
???「終始絶賛ですからねぇ……というか、シリアス先輩なに当たり前のようにブラックコーヒー飲んでるんすか? あと、このあとがきにやたらいろんなものが増えてるんですけど……」
シリアス先輩「マキナが色々くれた。性格的な面に問題はあれど、物流は本当に神」
???「大丈夫かなぁって心配してたんですけど、意外と打ち解けてた見たいっすね……まぁ、とりあえずコーヒーに砂糖入れますね」
シリアス先輩「なんで流れるようにいやがらせしてくんの!?」




