海水浴中編⑪
のんびりと雑談をしながら昼食の準備を終えると、アリスが切り替えるように少し大きめな声で告げた。
「さて、準備はこんなところですね。まだ昼食までは時間が少々ありますし、三人で軽く泳ぎにでも行きますか?」
「おっ、いいな。そういえば、俺まだ泳いでは無かったし、運動してお腹空かせた方が昼も美味しいだろうしな」
海自体にはシロさんとリリアさんペアの時と、クロとジークさんペアの時に行ってはいるが……シロさんとリリアさんの時は海底散策? クロとジークさんの時はバナナボートであり、なんだかんだで泳いではいなかった。
「……ふたりは、さっき海で一度泳いでたんだっけ?」
「まぁ、泳いでいたというよりは、泳ぎ方を教えていたってのが正しいですけどね」
「はい。自分が泳いだ経験が無かったので、アリス殿に指導を賜っておりました。おかげで最低限の泳ぎはできるようになりました」
たぶんだけど、この場合における最低限というのは、俺が実行可能な限界を遥かに越えたものなのだろうが……そこに突っ込むのは野暮なので、苦笑しながら頷いておく。なにせ、基礎的な身体能力が違い過ぎる。
まぁ、別に競争とかをするわけでもないし、軽く泳ぐだけならそこまで身体能力の差は関係ないだろう。唯一アリスの悪ふざけだけが若干心配だが……空気は読む奴だし、たぶん大丈夫だろう。
「じゃあ、さっそく海へ行こうか?」
「あっと、少しだけ待ってください。ちょこっとやることが……」
そう呟きながらアリスは下ごしらえを終えた食材をいくつか手に取った。そして、アリスの手元が一瞬光ったかと思うと、その手の上には焼きそばらしきものが作られていた。
……なんで焼きそば? あと、その明らかにプラスチックっぽい容器に関しては、もう突っ込まないぞ。イメージ的には祭りの屋台とかで買う焼きそばそのものだが、なぜこのタイミングでソレを作ったのか分からない。
「えっと、アリス……それは?」
「いや、ほら、一応食材を用意してくれた礼はしておこうと思いましてね」
「……それはつまり、エデン殿にということですか?」
アリスの言葉を聞いて、アニマもなにやら戸惑ったような表情を浮かべる。それも無理はないだろう、というか俺もなんといっていいか分からない心境だ。
いや、食材を用意してくれたエデンさんにお礼をというのが分からないわけじゃない。作ったのが焼きそばであるという点が謎だった。
だって、エデンさんと焼きそばって、もう絵面からして致命的に噛み合ってないよ? 見た目は完全に神話の天使みたいなエデンさんが焼きそば食べてる姿とか、まったく想像もできないし……したくもない。
「……あの、アリス殿? 失礼ですが、本当にそれで大丈夫なんでしょうか? かなり気難しい方と聞きますし、もう少し高級感のある品の方がよいのでは?」
どうやらアニマも俺と同じようなことを考えているみたいで、戸惑いながらも心配そうにアリスに尋ねている。気持ちは分かる。ものすごく分かる。例えばそれが仮に、エデンさんが我が子と呼ぶ……エデンさんの世界出身の人からの贈り物であれば、エデンさんは笑顔でソレを受け取ってくれると思う。
しかし、あの人は他の世界の住人に対しては辛辣だし、いくらアリスを評価しているからって、怒るんじゃないかな?
「いや、別になんでも食べるでしょ。だいたい、海に行くって事前に言ってるわけですし、海で用意できるレベルの料理で問題ないですよ。わざわざ雰囲気に合わない高級料理なんて作る必要ねぇすよ」
「……えっと、エデンさん怒ったりしない?」
「いいんすよ適当で、大体なに食べても美味いって言うんですから……」
「うん?」
「あっ、いや! 神様がいちいち食べ物にケチなんて付けないでしょうって、ことですよ」
そう言いながらアリスは手の上に魔法陣を浮かべ、焼きそばの入ったパックを消した。収納したという感じでは無かったので、たぶんエデンさんに送ったのだろう。
う、う~ん、大丈夫なのかな? いや、でも、そういえば……前にハンバーガーが好きだとか言ってたし、意外と味覚は庶民的だったりするのかもしれない。
「う~ん、というか……やっぱりアリス、エデンさんへの態度が変わってない?」
「そうっすかね?」
「うん、なんというか前よりぞんざいに扱っているというか……」
「あ~まぁ、ほら、前まではいちおうひとつの世界の神ってことで、敬意的なものも僅かに抱いていたんですよ」
「……いまは?」
「あの暴走神に敬意とか必要ねぇでしょ……」
やっぱりだ。なんか、やっぱりアリスのエデンさんに対する態度が大きく変化している。辛辣なことを言ってるみたいだけど、表情とか声がどこか優し気っていうか……まるで、友達のことを呆れながら話しているように感じられた。
やっぱり、エデンさんの仲良くなったように思えるけど、ソレを認めないというか隠しているようにも思える。う~ん、アリスのことだから照れているのかもしれない。イリスさんの時もそうだったけど、そういう友達への好意を表に出すことを恥ずかしがることが多いみたいだし……あまり深く追求しない方がいいだろう。
しかし、う~ん……焼きそばとエデンさん……やっぱり何度考えても変な組み合わせである。
マキナ「焼きそば美味しいっ!」
シリアス先輩「……うん、まぁ、そうだよね。こっち(マキナ)を知らないとそういう感想になるよな。こっちを知ってると、変な組み合わせどころか……焼きそば好きそうだなぁって感想になる不思議」
マキナ「シリアス先輩も一緒に食べよう! 飲み物はお茶でいい?」
シリアス先輩「……なんか、もうすっかりここに馴染んでるよな」
マキナ「なにが?」
シリアス先輩「特定の話題に対する地雷要素はあるし、こっちが踏まなくても暴走することもある。その上天然のボケ殺しっていうデメリットはあるけど、それ以外はマトモだし……なにより居ると、このあとがきの内の物流が神になる……???と違って、メリットとデメリットがハッキリしてるタイプだなぁ」
マキナ「う、うん?」
シリアス先輩「いや、なんでも……紅ショウガも欲しいな」
マキナ「はい、どうぞ。シリアス先輩は紅ショウガ入れる派なんだね? 私は紅ショウガなしの、青のりたっぷり派だね!」




