海水浴中編⑨
アリスに料理を教わっているアニマをただ何もせずに見ているというのも気が引けたので、俺も準備を手伝うことにした。とはいえ、ふたりが準備している食材とかを見る限り、お昼はバーベキューっぽい感じなので、そこまで準備に手間はかからないだろう。
アリスが火周りの準備をして、アニマは食材の下処理、俺はアニマが切った食材を適当な組み合わせで串に刺していく。
「……というかこれ、いい肉だよな。パッと見るだけで分かるというか……」
「肉もそうですが、野菜類や魚貝類も見事なものです。自分もこれほどの食材は初めて目にしました。これは、すべてアリス殿が?」
食材はアリスが用意したという話だったが、ちょっとこれはアニマの言う通りいままで見たことがないレベルですごい食材だと思う。なにせ、目利きとかにまったく自信がない俺が見ても一目で高級品だと理解できるぐらいだし、光の加減かもしれないがほのかに煌めいているようにさえ見えてしまう。
俺もこの世界に来てからは、結構いいものというか高級品も食べてきたと思うが、この食材はそれらすら遥かに上回っている気がする。
いったいアリスは、この食材をどこから持ってきたんだろうか? もし仮にこれをシロさんが用意したとなれば、「またとんでもないものを創造したんだなぁ」という感想ですんだが、ちょっと前のやり取りを見る限りこの食材にシロさんは関わっていないと思う。
「おふたりの言う通り、間違いなく最上級品ですよ。なにせ作った人が作った人ですしね」
「……作った人?」
「あ~まぁ、別に隠すことでもないので言いますが、実はこの食材……エデンさんに貰ってきたんですよ」
「え? エデンさんに?」
「えぇ、『カイトさんのために』って『進んで用意してくれた』みたいです」
「……な、なるほど」
確かにエデンさんが用意したというのであれば、この凄まじい食材も納得できる。けど、う~ん、少し珍しいというか……俺に渡すのではなくアリスに渡しているのは少し意外だ。
まぁエデンさんは以前からアリスのことは評価してるみたいなことを言っていたし、シロさんや俺以外だと預けやすい相手はアリスなのかもしれない。
「エデン殿というと、ご主人様の世界の神でしたね。自分は直接話したことはありませんので、勝手な想像になるのですが……個人的には、食材を預けるより食材を持ってこの場にやってきそうなイメージの方ですが……」
首をかしげながら告げるアニマの言葉に、思わず俺も頷く。俺も似たようなイメージというか、こういう回りくどい贈り物みたいなのをしてくるというのが、どうもエデンさんのイメージに合わない。
「エデンさんの日頃の行い的におふたりの誤解はもっともです。けど、実はああ見えてあの人、割と配慮してる部分もあるんですよね。特にカイトさんが恋人と過ごしてたりとか、そういう時に邪魔することはほぼ無いですしね」
「……言われてみれば、たしかに」
「あの暴走が問題なだけであって、それ以外だとわりとマトモ……マトモ……と、言えなくもない方なので」
アリスに言われて思い返してみると、たしかにエデンさんは俺の都合が悪い時に現れることは皆無と言っていい。それこそ週6ペースで会いに来るエデンさんだが、タイミングが悪いなぁという訪問は覚えている限り無い。
だいたいいつも、俺が手持無沙汰だったりやるべきことがひと段落したタイミングで現れる。
暴走さえしていなければ穏やかな性格だし、そう考えると少し印象が変わってくる感じだ。まぁ、あの暴走のインパクトが強すぎて、大抵のことは上書きされてしまうのだが……。
「……というか、アリスってエデンさんと仲良かったっけ?」
「え? なんでです?」
「いや、険悪ってほどじゃないけど、エデンさん側はアリスのこと評価してるけど、アリス側はエデンさんのこと嫌ってるみたいなイメージがあったから、自然とフォロー入れたのが少し意外で」
俺の記憶が確かなら、「私コイツ嫌い」とかそんな風に言ってたし、俺の誕生日パーティの時もややキツめに対応していた覚えがある。
けどいまは、俺とアニマの誤解を解こうとしたり、フォローみたいな発言もしていた。というか、気のせいかさっきエデンさんのことを話している時のアリスの顔が、やけに優し気だったような気がした。
「う~ん、なんだかんだで神界での一件の時には……本人がカイトさん寄りだったからってのもありますが、問題のない範囲で助言とかもしれくれましたしね。以前に比べて多少は、見直してますよ」
「そっか……それで思い出したけど、神界の件って自分の関わってた以外の部分はあんまり詳しく聞いてなかったよな。あのあと、すぐに勇者祭の本祭だったり元の世界に帰ったりしてたし……」
「あ~そういえば触りだけしか話してなかったですね。ここにはアニマさんも居ますし、せっかくなんでちょっと詳しく話しますか」
「……あ、いえ、自分はその、大した活躍もしていませんので、省いていただければ……」
「ではまず、アニマさんがカッコよく商売神を撃破した話から!」
「アリス殿!?」
マキナ「……不思議だね。私の記憶が確かなら、ほとんど詐欺みたいな方法で作らされたんだけど……あとこれね、前の新築パーティの一件があるから、シャローヴァナルも私が我が子可愛さにやったって誤解してるパターンだよね? 確実にこれあとで……」
『食材自体はこちらの世界にも存在するものなので、契約違反とまで咎めるつもりはありません。しかし、こういったことを行うなら事前に一言連絡をいただきたいものです』
マキナ「……とかって遠回しの苦情が来るパターンだよ」
シリアス先輩「日頃の行い(暴走)のせいでは?」
マキナ「それをね、言われちゃうとね。私としても弱いんだけどさ……せめてシャローヴァナルの誤解だけでも解いといてくれないかなぁ、アリス……せっかく前回シャローヴァナルから『契約外のことも配慮する』って言質取ったから、我が子を愛でようといろいろ考えてたのに……言い出し辛くなっちゃうよ」
シリアス先輩「……(それが分かってたから、快人に厄介な事態が起こらないように、無理な要求が通りにくいようにしたんじゃね?)」




