恋人たちとの海水浴⑩
お待たせしました。ついにスランプは抜けた……気がするので明日も更新できそうです。
どうしてこういう状況になったのだろうか? そんなことを考えながら、俺は現在顔を真っ赤にしたリリアさんと向かい合っていた。
というのも、シロさんの要求したハグが終わり、これで海底から地上に戻れると思ったのもつかの間、シロさんが口にしたのは、次はリリアさんの番だという一言。
それがなにを意味するかと言えば、当然リリアさんともハグをするということだ。いまだ俺たちが海底に居ることから考えても、シロさんは俺とリリアさんのハグが終わるまで地上に戻してくれるつもりはないみたいだ。
まぁ、正直なところまったく予想していなかったと言えば嘘になるし、もちろん嫌なわけではない。しかし、ひとつ意外だったのは……この提案に思ったよりリリアさんが乗り気だったという点だった。
リリアさんは筋金入りの恥ずかしがり屋だし、もしリリアさんが嫌がるようなら俺がシロさんを説得しようとそう思っていたが、そんな様子はない。
いや、もちろん恥ずかしがって顔を赤くしてはいるのだが、慌てたりテンパったりしている感じではなく、むしろ感応魔法で伝わってくる感情は……期待しているような感じが強かった。
予想とは少し違うリリアさんの反応に疑問を感じつつも、俺はゆっくりと手を伸ばす。肩に微かに俺の手が触れると、リリアさんは一瞬ビクッと体を動かしたが、本当に一瞬だけですぐに赤い顔を上げて真っ直ぐに俺を見つめてきた。
その目には、「そのまま続けてください」とそんな意思が籠っているように感じられた。
今日のリリアさんはなんだかいつもより積極的な気がすると、そんな風に考えながらその体を引き寄せる。リリアさんは低身長というわけではないが、シロさんよりも少し背は低い。それが影響しているのか、それとも耳まで真っ赤にしながら身を寄せてくる初々しい反応のせいか、なんとなく見た目以上に華奢な印象を覚えた。
背中に手を回せば、リリアさんもどこか恐る恐るといった感じで同じように俺の背に手を回してくる。そんな反応が可愛らしく、つい抱きしめる手に力が籠る。
すると不意にリリアさんが顔を上げ、ジッと俺の顔を見つめたかと思うと……スッと、自然な動きで目を細め、ほんの少しだけ口をすぼめた。
さすがに俺も、それがなんのサインか分からないほど鈍感ではない。片手をリリアさんの背中に残したままもう片方の手を離し、その手をそっとリリアさんの頬に当てる。それに反応して、リリアさんが少し背伸びをしたのか、顔が近づいてきた。
そういえば、以前ルナさんが聞いてもいないのに教えてくれたリリアさんの身長は157㎝……それに対して俺は169㎝……身長差は12㎝。たしか、キスをするのに一番最適な身長差が12㎝だったような気がする。
一瞬そんな考えが頭に過るとともに、リリアさんと俺の唇が重なった。
どのぐらいそうしていただろうか? 数秒か、それとも数分か……とても長いようにも、ほんの一瞬のようにも感じられたキスを終えどちらともなく顔を離す。
リリアさんの顔はリンゴのように真っ赤になっているし、目も潤んでいるが、それでもどこか幸せそうな表情でこちら見ており、何故かそれが少し新鮮な気がした。
……って、あぁ、そうか。リリアさんとキスをすること自体はこれが初めてというわけではない。なんだかんだで一度行動を起こすと決めたら積極的な所もあるリリアさんは、六王祭の時にもキスをしてくれた。が、そのあと余韻もなにもなく、即座に恥ずかしさから気絶してしまった。
「……シロ様に、感謝ですね」
しかし、いまのリリアさんはシロさんによって気絶が封じられている。だからこうして、恥ずかしさでリリアさんが気絶してしまわずに済んでいる。
自惚れでなければ、リリアさんもこうして俺と恋人らしいことをしたいと思ってくれていた。ただ、普段はどうしても恥ずかしさが勝ってしまい、なかなか機会がなかったんじゃないかと思う。
だからこそ、こうした機会を得たいまは、いつも以上に積極的になっていたのだろう。
「……ま、まぁ……いまにも顔が破裂しそうなぐらい、恥ずかしくはあるのですが……」
とはいえ、やはりリリアさんらしいというかなんというか、いっぱいいっぱいではあるみたいだった。まぁ、そんなところもリリアさんの魅力だとは思うが……。
もしかしたら、いや、きっとこの展開はシロさんの読み通りのものだろう。シロさんは恥ずかしがり屋のリリアさんが積極的になれるよう、こうしてわざわざ他に誰もいない海底に連れてきた上で、リリアさんの気絶を封じてハグを交換条件にしてきたのだと思う。
それは間違いなくリリアさんを気遣った上での行動であり、本当に最近のシロさんは凄いとつくづく……。
「おおむね正解ですね……しかし、キスまでするのは不公平なのでは?」
せっかく綺麗に纏めようとしているのだから、そこに天然気味な発言はやめてほしい。
シロさんの力によって地上……砂浜に戻ってきた。するとそのタイミングで、リリアさんがシロさんに対し深く頭を下げながらお礼の言葉を口にした。
「……シロ様、ありがとうございました」
「なんのことでしょう? 私はただ快人さんといちゃつきたかっただけですが?」
「ふふふ、そうですか……それでも、おかげで私にもとても幸せな出来事がありました。なので、ありがとうございます」
「ふむ、でしたら一応礼の言葉は受け取っておきます」
「はい!」
う~ん、最初に感じた不安とは裏腹に、思ったよりもこのペアは問題なさそうである。やはりなによりも、立場的に上なシロさんが友好的なことが大きいだろう。
改めてシロさんの急成長っぷりを感じるというか、本当にすごい方だと……何度目か分からないが見直した気分だ。
「もっと褒めていいのですよ? 褒めると私が喜びます」
「……あ、あはは……って、うん?」
そんなことを考えていると、いつもの……俺以外には分からないであろうドヤ顔を浮かべるシロさん。そして突如背後の海が波打ち、大きな波……『ドヤァ』という立体文字によって構成された波が現れた。
やめろ……ドヤァウェーブやめろ、たまたま誰も泳いでなかったからいいものの、誰か泳いでいたらドヤァの波に飲まれてたところじゃないか……う、うん、こういうところは相変わらずである。
シリアス先輩「……」
マキナ「う~ん、羨ましいなぁ。私も我が子をハグしたいなぁ~……ってあれ? シリアス先輩? コーヒー飲まないの?」
シリアス先輩「え? い、いや、飲むけど……ちょっと待って、少し冷静にならせて」
マキナ「うん?」
シリアス先輩「……あ~そうだ。辛いお菓子も欲しいなぁ」
マキナ「辛いお菓子? はい」
シリアス先輩「………‥あ、あ~えっと……イチャラブ展開続きだし、早くシリアス来てくれないかなぁ!」
マキナ「いまの流れだと難しいと思うけど、可能性はゼロってわけじゃないよね。シリアスな展開もメリハリになるし、いつか来たらいいね」
シリアス先輩「……………‥いや、いい子か!? そうじゃないだろぉぉぉぉぉ!!」
マキナ「え?」
シリアス先輩「???、マジで早く戻ってきてくれ!! 最悪中の最悪だ! コイツ、無自覚なボケ殺しだ!?」
マキナ「え? え?」




