恋人たちとの海水浴⑥
活動報告にて、書籍版第九巻のキャララフを公開しております。
無事に全員合流したあとは、いよいよ予め決めたペア同士に分かれての海水浴の始まりである。そして俺は、それぞれのペアの場所を自由に移動しながら参加するわけなんだけど……俺が一番最初に向かうべきペアについてはもう決まっている。
そう、シロさんとリリアさんのペアのところである。まずここのペアを、最低限ある程度会話が成立するぐらいに仲良くしなければ他のペアのところに行くわけにはいかない。
いや、以前のシロさんならともかく、最近のシロさんならそこまで過剰に心配する必要もないかと思うが……リリアさんの方が緊張しまくってしまっているだろうし、その緊張をほぐすためにも最初はフォローが必要だと思う。
そんなことを考えつつ、シロさんとリリアさんの元に向かいながら視線を動かし、軽く他のペアたちの様子も見てみる。
クロとジークさんは、どこから持ってきたのかボートやビーチボールなどと言った道具を準備しており、なにやら楽しげに会話している様子なのが見て取れた。クロもジークさんも社交的だし、このペアは本当にまったく問題がない気がする。
アイシスさんとフェイトさんは、海には向かわず浜辺を歩いていた。遠目に表情を見て見ると、少し互いに気を張っている感じはしたが、気まずそうな感じではないのでこちらも大丈夫そうだ。
アリスとアニマは……なにしてるんだろう? アニマがアリスに向かって頭を下げており、アリスがなにやら苦笑を浮かべている。う~ん、想像でしかないが、アニマがなにかアリスに教えを乞うている感じだろうか? ちょっと気になるので、シロさんとリリアさんのあとは、あのペアのところに行ってみることにしよう。
……さて、問題のシロさんとリリアさんは……う、うん。予想通りといえば予想通りだけど、なんか蛇に睨まれた蛙って言葉が頭に浮かんできた。
互いに向かい合ったまま、シロさんは無表情でリリアさんは滝のように汗を流している。
「……シロさん! リリアさん! 最初はこちらにお邪魔しますね」
「カイトさんっ!?」
出来るだけ明るい雰囲気になるように努めながら声をかけると、リリアさんは救世主と巡り合ったかのような安堵した表情を浮かべた。
やっぱり最初にきて正解だった。とりあえずふたりができるだけ会話できるように、最初は俺が話を振っていこう。
「それで、おふたりはなにをして遊ぶか、もう決めているんですか?」
「いえ、まだです。それより先に行うべきことがあります」
「……先に行うべきこと、ですか? 創造神様、それはいったい……」
俺の質問を聞き、シロさんは相変わらずの抑揚のない声で答えてくれたが、その言葉の意味がわからず俺とリリアさんは揃って首を傾げた。
するとシロさんは俺の方に向けていた視線をリリアさんに戻しながら、ゆっくりと告げる。
「今回の目的は親睦を深めることにあります。であれば、最初にある程度互いの精神的距離を詰めておくべきでしょう。距離を開けたまま行動を起こしても、いい結果につながるとは思えません」
「な、なるほど……」
お、おぉ……ものすごく真っ当な意見である。さすがアリスも認めるほど精神的に大きく成長したシロさんは一味違う。
どうやらシロさんは、リリアさんがいっぱいいっぱいな状態であることにもちゃんと気付いており、最初にそこを解消しようと考えているみたいだ。
これは、本当に心配のし過ぎだったかもしれない。シロさんがこうして歩み寄る姿勢を見せてくれているのなら、それこそ別に俺が来なくともいい感じに親交を深められた気が……。
「というわけで、まずは呼び方からです。リリア……今日は無礼講とします。よって、私のことを『シロ』と愛称で呼ぶことを許します」
「「……」」
瞬間、周囲から音が消えたような気がした。えっとこれはアレだ……シロさんは歩み寄ってくれている。本当にこれでもかと言うほど、しっかりリリアさんと親交を深めようとしてくれている。
しかし悲しいかな、世の中良かれと思ったことが必ずしもいい結果につながるとは限らない。
本当に不思議な話である。シロさんは確実に歩み寄ってくれてるのに、なぜか傍目に見ると『リリアさんに最初の試練が訪れた』みたいに見えてしまう……というか、リリアさんの顔がさっきまで以上に悪くなっている。
「……あ、ああ、あの……創造神様、さ、さすがにそれは……」
「シロと愛称で呼ぶことを許します」
「し、しかし、そそ、それはあまりに無礼で……」
「シロと愛称で呼ぶことを許します」
「わ、私には大変に難題で……」
「シロと愛称で呼ぶことを許します」
「……はい。シロ様」
リリアさんの目が死んだあぁぁぁぁ!? 完全に押し切られた形である。まぁ、無理もない……俺も経験したから分かるが、あの無表情かつ抑揚のない声での無限ループは独特の迫力がある。
う、うん。前言を撤回しよう。やっぱり最初にここに来てよかった。これは、思った以上に先が長そうである。
マキナ「というわけで、アリ……???が忙しいみたいだから、しばらくは私がシリアス先輩の相手を務めるよ!」
シリアス先輩「……いや、別に必ずしも相手が必要なわけじゃないんだけど……まぁ、いいか。???よりはマトモそうだし」
マキナ「それじゃあ最初は、本編の我が子の恋人たちみたいに私たちも友好を深めるところからかな? じゃあ、お互いのことを知るために……互いの『我が子の可愛い所ベスト100』を教え合おう!」
シリアス先輩「……は? い、いや、それはちょっと……友好を深めるなら他の……」
マキナ「あっ、そっか、そうだよね。ごめん、私が間違ってたよ」
シリアス先輩「……分かってくれたか」
マキナ「初心者向けに気を使ったつもりだったけど、それでもベスト100は少なすぎたね。友好を深めるなら最低限『我が子の可愛い所ベスト10000』ぐらいは語らないと、似たり寄ったりの答えになっちゃうね!」
シリアス先輩「???!!! 頼む、戻ってきてくれ!! 私の相方はお前しかいない! というか戻ってこなくても言い方、このヤベェ奴どっかに連れて行ってぇぇぇぇ!!」
マキナ「じゃあ、さっそく私から……あっ、ひとつひとつの『補足説明』も抑えめにするから『4800時間』ぐらいで終わると思うから、そうしたら次はシリアス先輩の番ね! 時間は気にしないで! 時間の流れ変えとくから」
シリアス先輩「いやあぁぁぁぁぁ!? 洗脳されるぅぅぅぅ!?」




