恋人たちとの海水浴④
すべて問題なく……とはいかないものの、とりあえずのペアも決まり一旦水着に着替えて再集合ということになった。
更衣室のあるそれなりにしっかりした建物に移動して、男女別れて着替えをすることになるが……まぁ、当然というかなんというか、着替えるスピードは俺が一番早く皆を待つ形になる。
……と、そう思っていたのだが……。
「……早いですね、シロさん?」
「そもそも、更衣室に移動する必要がありません」
「……そういえば、そうでしたね」
以前一緒に海に行った時と同じ白っぽい色合いの水着に、花柄のパレオを身に着け、髪型をポニーテールに変えたシロさんが一足先に集合場所で待っていた。
シロさんの水着を見るのはこれで二度目だが、相変わらず美の化身かなにかじゃないかと思う美しさである。
「えっと、シロさん。水着、すごく綺麗ですよ。それにその髪型も、よく似合ってます」
「ありがとうございます。もっと褒めてくれてもいいですよ? 褒めると、私が喜びます」
「あはは……」
いつも通りのシロさんの様子にどこか安心しつつ苦笑しながら、俺はこれからのことについて考えていた。というか、端的に言って……若干緊張していた。
というのも、いまから順次着替え終わった恋人たちがここにやってくるわけだ。そしてわざわざ考えるまでもなく、皆すごく可愛いと思う。
となるとやはり、俺は恋人としてしっかりその姿を褒めてあげるのが甲斐性というものだろう。そしてできることなら、それぞれ違った言い回しで褒めたいところだ。
ただここで問題となるのは、俺のボキャブラリー……果たして、ここから七人をしっかり褒めてあげられるだけの言葉が思い浮かんでくるかどうか……。
シロさんに関しては二回目だったので、少し落ち着いて見れたような気がしないでもないが、ここからは完全に初見……気合を入れなければならないだろう。
と、そんなことを考えていると、直後にクロの明るい声が聞こえてきた。
「お待たせ~……って、あ、あれ?」
振り返ると明るい笑顔を浮かべてこちらに向かってくるクロの姿が見えた。
クロの水着は一見シンプルにも見える黒色のセパレートタイプのビキニに、落ち着いた暗めの色合いの花柄のパレオ……あれ? この組み合わせって……。
どこかで見覚えのあるような組み合わせの水着で現れたクロは、俺とシロさんの近くまで来たあと……チラリとシロさんを見て驚愕したような表情を浮かべ、一度視線を外してからもう一度シロさんを見て……膝をついた。
「……か、被ったぁぁぁぁ!?」
そう、クロの水着はシロさんの色違いと言っていいほどまったく同じ組み合わせだった。その上髪型もポニーテール……まぁ、クロの髪はシロさんほど長くないので、ショートポニーではあるが、髪型も被っていると言えば被っている。
いや、まぁ、八人もいるんだし水着が被るのはある程度仕方ないと思うんだけど……。
「お、落ち着いてクロ。八人も居れば被るのも仕方ないって……それより、よく似合ってるよ。暗めの色合いで少し大人っぽい感じでカッコいいと思う」
「……カイトくん。えへへ、ありがと」
水着が被ったことに若干ショックを受けていたクロだったが、俺がフォローを入れたことで持ち直したのか、はにかむような笑顔を浮かべながら立ち上がった。
……しかし皮肉なことに、いまこの場には空気を読むという機能がデフォルトでオフになっている方が存在していた。
「私の勝ちですね」
「……う、うん? 勝ちって……なにが?」
なぜか突如勝利宣言をしたシロさんに対し、クロは不思議そうな顔で首を傾げた。
「私はこの水着は二度目です。そして、クロはその水着になるのは初めて……つまり私の方が先と言うことです」
「う、うん?」
「……つまり、『クロは私の二番煎じ』ということで、私の勝ちです」
「………‥……は?」
おっと、なんか妙な空気になってきたぞ。シロさんの言葉を聞いたクロの表情が固まり、少ししてその体から黒い霧のようなものが漏れ出してきた。
「……な、なんだろうこれ。別にもう被ったとかはどうでもいいんだけど、それでシロが勝ち誇ってるのが……なんか、ムカつく」
「ドヤァ」
「……」
その瞬間プツンとなにかが切れるような音が聞こえた気がした。以前から知っていたことではあるが、シロさんはクロ相手にだけは割と対抗心を出す。そしてクロも、シロさんに対しては割と容赦がない。聞いた話ではあるが、温厚なクロもシロさんとは時々喧嘩することもあるらしい。
それはふたりの仲がいいということの証明でもあるのだが……この場合においては……。
「……シロ、ちょっと海水浴の前に運動しよ? ね?」
「黒星の追加が欲しいのですか? 私は構いませんよ」
「そもそも負けてないんだけどね……シロの石頭じゃ、理解は難しかったかな? じゃあ、叩き込んであげるよ」
「受けて立ちましょう」
引きつった笑みで告げるクロと、無表情ながら対抗心に満ちたシロさんは、そのやり取りのあとで姿を消した。たぶん喧嘩をしに行ったんだと思う。
……まぁ、ここでいきなり始めないだけちゃんと理性は残ってるみたいだし、海水浴までには戻ってくるだろう。
砂浜にひとり残る形となり、なんとも言えない微妙な空気を感じていると、そんな心を癒してくれる可愛らしい声が聞こえてきた。
「……カイト……お待たせ」
「アイシスさん」
「……どう……かな?」
少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら、やってきたアイシスさんはフリルが沢山ついた可愛らしい水色の水着を身に纏っていた。
長めの髪は首の後ろで一本に纏め、透き通るような白い肌を惜しげもなく晒すその姿は反則級に可愛らしい。見ているだけで心が浄化されるようだ……まさに天使である。
「水着も可愛らしくてすごく似合ってますし、その髪型も新鮮で素敵ですよ」
「……ありがとう……嬉しい」
……本当にこんなに可愛らしい方に死王なんて物騒な通り名を付けるのは間違ってると思う。付けた奴思いっきり知り合いだけど……。
「カイちゃ~ん、お待たせ~」
「あっ、フェイトさん――ッ!?」
そして、その次に襲ってきたのは衝撃だった……思わず「でかっ」とか言ってしまいそうな、パッと見た瞬間に凄まじいインパクトのある水着姿でフェイトさんが現れた。
フェイトさんの水着は……うろ覚えではあるけど、たしかクロスホルターと言うんだったっけ? 首の前で布が交差していて、胸の谷間が見えるビキニだった。
白と紫と黒の三色がバランスよく入った色合いでフェイトさんによく似合っていると思うが、どうしてもそれ以上にそれ以上に衝撃を受けてしまうのが、そのこぼれんばかりの胸の大きさである。
俺の恋人たちの中で一番の巨乳でもあるフェイトさんの水着姿のインパクトはすさまじく、いまはクッションに乗らずに普通に歩いてきていることもあって、揺れているその胸に思わず目が引き寄せられてしまう。
その姿を見ていると、トランジスタグラマーというものの魅力を思い知らされる気分である。
「……フェイトさん、水着になると普段とはガラッと印象が変わるというか、なんだか新鮮ですが、すごく可愛いですよ」
「あ、あはは、ありがと……けど、水着って初めて着たけど……ちょっと、窮屈だね」
「そ、そうですか?」
「うん、なんか胸のあたりに圧迫感があるというか、いつもとは違う感じだねぇ」
「な、なな、なるほど……」
何気ない様子で告げるフェイトさんだが、どうにも冷静になれない。というのも、その発言が出るってことは……やっぱり、フェイトさんって普段……下着付けてないんじゃ……い、いや、落ち着け、想像するな! 俺もいまは水着姿なんだし、変に意識してしまうと大変なことになる。
お、落ち着いて深呼吸だ……けど、まだ四人……いるんだよなぁ。というか、いまさらながら考えて見ると……八人の水着美女に囲まれる状況になるわけだよな? 果たして俺は最後まで冷静でいられるのだろうか?
~おまけ・ヘコんでるマキナちゃん①~
マキナちゃん「……愛しい我が子の前であんな失態……せっかくいままで、威厳と優しさと母性に満ち溢れた頼りがいのある大人の女性で通してたのに……」
アリスちゃん「突っ込みどころが多すぎて突っ込む気にならないんですが……別にマキナのポンコツはいまに始まったことじゃないでしょ。いままでも、性格的なヤバさと異世界の神って立場的な圧で誤魔化せてただけで、ちょくちょくポンコツやらかしてたみたいですし」
マキナちゃん「……私はポンコツじゃないもん。ポンコツって言ったほうがポンコツなんだもん。アリスはいじわる、すっごくいじわる」
アリスちゃん「まぁ、その馬鹿って言った方が馬鹿理論は置いとくとして、いい加減立ち直ってくれません? 訓練進まねぇじゃないっすか」
マキナちゃん「……慰めて」
アリスちゃん「……はい?」
マキナちゃん「……優しく慰めて」
アリスちゃん「めんどくせえな、コイツ……」




