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機械仕掛けの神の物語⑪



 アリシア……アリスの心が本来の強さを、希望を取り戻したことでマキナの目的は達成された。そのあとは少しアリスと戦いを継続したあと、『ただ快人と射線が重なった』という理由で攻撃を止め、戦いを終了させた。

 エデンの状態であってもほぼ全能といっていい力を持つ彼女が、快人だけを避けて攻撃できないはずもない。ただ、これ以上アリスと戦いを続ける理由も無かったので、ちょうどいいタイミングだと戦いを終わらせた。


 そのあとは我が子である快人に巻き込んでしまったことを謝り、アリスに自分がマキナであると伝えればすべては目的は完了だと、そう思っていた。

 そう……彼女の思惑通りにことが進んだのはそこまでだった。


 彼女にとって誤算だったのは、快人が長年彼女が待ち続けた己に牙をむく……あふれんばかりの愛を注ぐにふさわしい『愛しい我が子』たる資質を持っていたことだった。

 そのせいで彼女の、マキナのテンションは過去最高潮になった。なにせ、まだ完璧には解決してないとはいえ親友のアリシアは希望を取り戻し、待ち続けていた最愛の我が子を見つけることができた。

 まさに幸福の絶頂ともいえる状態だった彼女は、そのテンションのままこの世界に来る前に考えていた通り己の名前をエデンと名乗った。

 そう、早い話が……アリスに対して、自分の正体がマキナであるということを伝え忘れてしまったのだ。


 アリスが彼女の正体を見破った際に「肝心なところで詰めが甘いというか、抜けている」と評価したのは、まさにその通りであり、愛しい我が子の登場に浮かれて一番肝心な部分を忘れてしまっていた。

 ふたりの元を去ってすぐにそのことには気づいた。しかし、だからといって……アレだけキメ顔で去っておきながら、いまさら戻って「実はマキナでした」などと言うのは、神の威厳的にもNGであり彼女は大いに頭を悩ませた。


 そして改めて自分の正体を伝えるために、『アリスの雑貨屋を訪れた』。

 マキナにしてみれば、アリスがやっている雑貨屋に行けて、なおかついまなら愛しい我が子が居て、その上で前回会った時に忘れていた己の正体を伝えられると……まさに一石三鳥と言っていい方法だった。

 しかし、内心ウキウキでアリスの雑貨屋を訪れたマキナだったが、ここでも大きな誤算が発生することになる。それは彼女が来訪してすぐにアリスが告げた言葉……。


「……即座に帰れ、ゴーホーム!」


 ……ハッキリ言おう。『滅茶苦茶ショックだった』……それこそ、一瞬楽園(エデン)との接続が切れかけるぐらいにショックだった。

 いや、もちろんマキナも仕方がないことだと頭では理解していた。己の正体を知らない状態では、そんな風に敵意を向けられても仕方ないのだと……。

 ただ、彼女の想像以上に大好きな親友に敵意満載の目で睨まれるというのはショックだったみたいで、彼女は軽くパニックに陥ってしまった。


 こんな険悪な状態でどうやってアリスに己の正体を打ち明けようかと悩み、結果として『アリスへの返答がそっけなくなっていくという悪循環』にハマってしまう。

 さらには愛しい我が子への愛や、途中で乱入してきたクロムエイナへの対応などもして、精神的に立ち直るよりも早くあの一言である。


「……カイトさん、私、こいつ、嫌い」


 ここもハッキリ言おう、半端ではないほどショックだった。それこそ、本体がここに居たら泣いていただろうと思えるレベルで、甚大なダメージを受けていた。


(……アリシアに、嫌いって言われた……)


 表情こそ変化していなかったが、正直精神的にはかなりテンパっており……。


「汝に好かれたいとも思いません。極めて無駄です」


 などとよく考えればおかしい言い回しで返事をすることになった。そんな時に助けを出してくれたのは快人であり、彼の「アリスと仲良くしてほしい」という発言は、まさにマキナにとって救いの手だった。

 おかげでただでさえ高かった快人への評価が、さらに倍増することになるのだが、幸か不幸かそれに気付いた者は居ない。


 そしてこの雑貨屋でも、マキナはよく考えればおかしいと思える行動をとっている。

 快人から仲良くしてほしいと言われた彼女は、アリスにお近づきの印といって大金を渡した。そう、『我が子では無い筈のアリスがなにを受け取れば喜ぶのか把握していた』のである。


 その後溢れる快人への愛情が暴走しかけたりもしたが、多少はアリスとの関係も回復することができた。そんな彼女だが、実は店を去る直前はとても大きな罪悪感にさいなまれていた。


(……ごめんね、愛しい我が子。この埋め合わせは必ずするから……貴方をダシに使う、駄目な母親を許して)


 そう、彼女は店を去る際に理由をつけて雑貨屋の商品を大量に買っていった……ここもハッキリ言っておこう『ただ欲しかっただけ』である。

 全知であるマキナは、当然、雑貨屋の商品がすべてアリスの手作りであるというのは把握しており、なんとか購入して帰りたいと考えていた。

 しかし、ひとつの世界の神である自分が『親友の手作りの品だから』などと言う理由で大量の買い物をするのは、威厳的にNGだったので回りくどい方法を使ったのである。


 おかげで彼女はアリスの手製の商品を買うことができ、ぬいぐるみなどは大切に飾ろうなどと内心ウキウキで雑貨屋をあとにして……また正体を名乗り忘れていたことに気付いて肩を落とした。

 いちどタイミングを逃してしまうと、なかなかに言い出しづらいもので、結局彼女がアリスに対して己がマキナであると伝えられるまで長い期間が空くことになってしまったのだった。











 昔話に一区切りがつき、マキナは腰かけていたビルの端からゆっくりと立ち上がって微笑みを浮かべる。


「まぁ、昔話はこの辺りにして、そろそろ始めよっか?」

「あ~そうですね。いい加減、お腹も膨れましたし、やりますか」


 マキナの言葉に頷いてアリスも立ち上がると、景色が切り替わり再び真っ白な空間になる。マキナはその空間の中をふわりと浮かび上がるように飛び、アリスから少し離れた場所に着地してから口を開く。


「準備はどうかな? ヘカトンケイルの究極戦型は発動させた?」

「えぇ、まぁ、さすがに本当にカイトさんを守るときほど力は出ませんが、戦える準備は整ってますよ」

「……戦える準備は整ってる……か……ふふふ」

「なッ!?」


 マキナが少し離れた場所に移動する間に素早くヘカトンケイルの究極戦型を発動させ、準備は万全だと告げるアリスを見て、マキナは穏やかに微笑んだ。

 その笑顔は柔らかく、敵意の欠片こそ感じないものではあったが……直後に、アリスは崩れるように地面に膝をついた。


「う~ん……まだちょっと、『認識が甘い』かなぁ」

「ぐっ、これは……」


 魔力は感じない、しかし体に力が入らず立ち上がることができない。不可解ともいえる状況に混乱するアリスに対し、マキナは微笑んだままで言葉を続けていく。


「ちょっと思い浮かべてほしいんだ。アリスが思う戦闘力が高い人たち……あっ、物語の終わり(エピローグ)は論外だから除外してもらうとして、ソレ抜きのシャローヴァナルとかクロムエイナとか、あとはエデンの時の私も加えてもいいよ。とにかく、思い浮かぶ限りの強者を想像して」

「……」

「……想像できたかな? じゃあ、大事なことを言うね。いまアリスが思い浮かべた強者たちは……戦闘力っていう意味では、『全員束になったとしても私の足元にも及ばない』よ。まずのあたりから認識を改めないと……『私の前で立つことすらできない』からね」


 優しさすら感じる声で告げるマキナの言葉を聞き、アリスはしばらく沈黙する。舐めていたわけではない、見くびっていたわけでもない。それでも、まだなお、認識が甘かった。

 ソレを理解すると同時に、アリスは必死の形相で足に力を籠め、ゆっくりと立ち上がった。


「……ありゃ、さすがアリス。もう『タネ』に気付いちゃったかな?」

「タネ……ですか、よく言いますよ。『貴女はなにもしていない』。ほんのわずかな魔力すら発していない……いまのは、ただ単純に『少しだけ臨戦態勢になった貴女を見て、勝手に私の体が屈しかけた』って、そういうことでしょ?」

「正解。『私という存在の圧』にアリスの体が『無条件で負けを受け入れかけた』って、言ってみればソレだけだよ」

「なるほど、だから……認識が甘い、ですか」

「そういうこと……ほんの僅かでも気を緩めちゃ駄目だよ。ありったけの力を絞り出して、ありったけの想いを体に籠めて、限界を越えるほどの気力を漲らせて……それで、ようやく、私の前で立てるようになるからね」


 マキナはいまだ笑顔のまま、魔力の欠片すらその体から放ってすらいない。しかしそれでも、ほんの僅かでも気を緩めれば押しつぶされそうなほどの圧力を感じる。

 彼女はそれほどまでの強者なのだ。準全能級といっていい力を持つアリスが、そのすべてを振り絞ってようやく……対峙することができるというレベルの……。


「……はぁ、まったく――」

「「全知全能の神様ってのはとんでもないっすね」」

「――っ」

「うん、もちろん『全能』も『全知』も、完璧だよ。さて、それじゃあ特訓を始めようか……もちろん手加減はするけど、頑張ってね。一応ほかにピッタリの呼び方もないから、全知全能って言ってるけど……私、そこらへんの全知全能の神よりよっぽど強いからね」


 そう言って数多の世界の創造主の中でも上位に位置する機神は親友に向かって微笑んだ。せめて、自分にほんの僅かでも力を使わせて見せろと、そんな微かな挑発を込めながら……。









 なにもない真っ白な空間の一角で、アリスは疲れ切った表情で仰向けに倒れていた。そんなアリスを微笑ましそうに見つめながら、マキナは軽く手をかざす。


「とりあえず、一回目はこの辺にしとこうか……回復させるね」

「……どうも……というか、マキナ、強すぎ……」

「ふふふ、まぁ、私はこれでも神様だからね。それでも、さすがにヘカトンケイル究極戦型の成長は早いねぇ、最後の方はちゃんと攻撃できてたよ」


 疲れ切っていたアリスの体力と魔力を回復させながら、マキナは賞賛の言葉を口にする。実際彼女から見て見れば、アリスの成長は悪いものでは無い。戦闘開始前と比べて、明らかに大きく成長している。


「……いちおう聞いておきたいんすけど、いまの戦い、マキナは何パーセントぐらいの力だったんですか?」

「う~ん……えっと、ゼロコンマ……のあとに『ゼロ何個までなら』やる気出るかな?」

「やっぱりそんなレベルですか、まったくマジで半端ないっすね」


 1%すら力を出していないというマキナの言葉は予想通りだったようで、アリスは上半身を起こしたあとで呆れた表情で天を仰いだ。

 そんなアリスを見て苦笑しつつ、マキナはアリスの隣に座りながら口を開いた。


「まぁ、いまの条件でなら百回戦おうが、千回戦おうが、私が全勝すると思うよ。けど、もし私が愛しい我が子を害そうとしていて、アリスが愛しい我が子を守ろうとしているって状況なら、絶対勝てるとは言い切れない。アリスの強さって、そういう部分だと思うよ」

「それはまた、ずいぶんな高評価ですね」

「ふふふ、だって、アリスは私の英雄(ヒーロー)だからね」


 アリスを賞賛するような言葉と共に笑顔を浮かべたあと、マキナは少し考えるように口元に指を当てた。


「う~ん……そうだなぁ、とりあえず当面の目標ってのは決めたほうがいいかもね」

「まぁ、指針が合ったほうがやりやすいのは確かですね」

「うん、というわけで、当面の目標は……『私の心具』を使えるようになるってので、どうかな?」

「……なんですって?」


 マキナが口にした心具という単語に明らかに驚愕した表情を浮かべるアリスだったが、聡明な彼女はすぐにその理由に思い至ったのか、少しして軽く手を叩いた。


「……あぁ、なるほど、そういえばマキナは人間だった時に、究極戦型を発動した私……つまりは、心具と融合した状態の私に触れてるんでしたね」

「そういうこと……まぁ、全能の私にとってはわざわざ使う必要のない力ではあるけどね。それでも、ヘカトンケイルで私の心具を使えるようになるってことは、ある程度私の力に近付けた証明にもなるし、目標としてはちょうどいいんじゃないかな?」

「たしかに、そうですね。いや、しかし、全知全能の神様になったマキナの心具ですか……さぞとんでもない力を持ってるんでしょうね」

「……」


 アリスが何の気なしに告げた言葉を聞いて、マキナは気まずそうな表情でサッと視線を逸らした。


「……マキナ?」

「あ、いや、えっと……私の心具は……使えるようになると……その、べ、便利、だよ」

「……あぁ、なるほど、大して強くないんすね」

「……だってしょうがないじゃん。心具って別に持ち主の力量で能力決まらないし、ついでに言えば必ずしも戦闘向きの能力とは限らないわけだしさ……」


 どうも言葉の内容から推測するに、マキナの心具は戦闘向きの能力ではないらしい。だがそれも仕方がないことだろう。心具はあくまで術者の心を基準としたものであり、術者自身の戦闘力は能力に何の影響も及ぼさない。


「ふむ、まぁ、そうですね。ちなみに、名前は?」

「……『ファクトリーギア』」

「それはまたなんとも、生産系っぽい名前ですね」

「実際生産系だしね。ネタ晴らししちゃうと、私のファクトリーギアは、生物以外なら実物が手元にあれば、『魔力を消費することで複製できる』って能力だよ。まぁ、いろいろ制限もあるから、どんなものでもいくらでもってわけじゃないけどね」

「なるほど、それは確かに便利そうですけど……創造の力を持つマキナには、別に不要な能力ですね」

「まぁ、そういうことだね」


 制限があるとはいえ生物以外のあらゆるものを複製できるというのはすさまじい能力ではあるが、全知全能であるマキナにとってはそれは心具を用いずとも行えるものであり、結果として心具は無用の長物となっている。

 そんな風に休憩しながら雑談をしていたが、ふとアリスはなにかを思いついた様子でマキナに声をかけた。


「マキナ、あ~ん」

「え?」


 そして反射的に開けたマキナの口に、どこからともなく取り出した『熱々のおでん』を放り込んだ。


「ふぎゃあぁぁぁぁぁ!? あふっ、あふぃぃぃぃ!?」

「……いや、治してねぇんすか猫舌……」


 いつかどこかで見たのと同じように、口元を抑えてゴロゴロと転がっていたマキナだったが、すぐにその力で猫舌を直したのかピタッと動きを止めて起き上がった。


「……忘れてた」

「抜けてるところは、相変わらずですよねぇ……まぁ、力はとんでもなく成長してますが、見た目やそういう細かな部分も変わってなくて安心しましたよ」

「……そんなことないよ。私も長い年月で立派に成長して、包容力溢れる大人の女性に……」

「大人の女性って……私と似たようなちんちくりん体形でよく言いますよ」

「……は?」


 軽い口調でアリスが告げると、どうやら聞き捨てならない内容があったみたいで、マキナはジト目に変わる。そして少しして立ち上がり、自慢げに胸を張りながら告げた。


「……一緒にしてもらっちゃ困るなぁ。私とアリスには大きな差があるんだよ」

「大きな差? それは包容力溢れる大人の女性がどうとかに関してですか?」

「そう! ふふふ、気付かないかな? いい? 私の胸のサイズは『B』、アリスはA……つまり、大きな差があるんだよ!!」

「……Bぃ?」


 自信満々のドヤ顔で告げるマキナを、アリスは怪訝そうな表情で見つめる。その表情には「なに言ってんだコイツ」といった感想が、ありありと現れていた。

 そしてアリスは立ち上がり、マキナの胸をジッと見て、首を傾げた。


「……う~ん、Bもあります? Aじゃないっすかこれ」

「Bだよ! 完全にB,圧倒的にB! いやむしろ、限りなくCに近いBって言ってもいいぐらいだよ!」

「う~~~ん」

「全知の私が言うんだから、間違いなくBだよ!」

「いや、そんなの完全に自己申告じゃねぇっすか……」

「はぁぁぁぁ!? そんなこと言うなら測ってみればいいじゃん! 絶対Bだからね!!」


 気心知れた親友同士だからというべきか、疑わし気な視線を向けるアリスに対して、マキナはムキになって宣言する。

 するとアリスは軽く頷いたあと、おもむろにマキナの胸に手を伸ばした。


「……ふむ、う~ん。これは微妙なところのような気がしますね」

「いや、人の胸鷲掴みにして、したり顔でなに言ってんの……」

「いや、マキナが測ってみろって言ったんで……」

「そんなのアリスなら目視で測れるでしょ!?」

「え~でもそれだと、誤差があるかもしれませんしね」

「じゃあはいこれ」


 マキナは手元に計測用のメジャーを作り出し、アリスに手渡す。受け取ったアリスは、少し考えるような表情を浮かべたあとで口を開いた。


「……じゃ、脱いでください」

「……別に脱がなくても、服の差ぐらいアリスなら計算できるでしょ。なんなら私が教えてもいいし」

「……なるほど……『中にパッドか何か入れてるんですか』」

「はぁぁ? このっ、じゃあこれでいいでしょ!!」


 売り言葉に買い言葉、アリスの呟きを聞いたマキナは少しやけくそ気味に告げたあと、上半身の服を消した。


「……ワンピースなのに上半身だけヌードって、またマニアックな……」

「別に下を脱ぐ必要はないでしょ。ほら、早く測ってよ」

「はいはい、どれどれ……」


 顔を赤くしながら告げるマキナに苦笑したあと、アリスは手に持ったメジャーを使ってマキナの胸のサイズを測り……微妙な表情を浮かべた。


「……むぅ」

「ほらっ! Bでしょ?」

「たしかに、Bですが……これギリギリもいいとこですよ。ほぼ誤差レベルじゃねぇっすか」

「でも、BはBだからね」

「……その体、盛ってません?」

「盛ってないよ!?」


 勝ち誇った笑みを浮かべるマキナと、釈然としない表情を浮かべるアリス……たしかにギリギリではあったが、マキナが言った通り彼女の胸のサイズはBカップであった。

 マキナは満足そうな表情のままで上半身の服を元に戻したあと、渾身のドヤ顔に変わって言葉を続ける。


「これで分かったでしょ? 私はもう巨乳って言ったっていいと思う。ふふふ、この私の溢れ出る大人の魅力と包容力で、愛しい我が子もいつか私を愛するようになるんだよ」

「……いや、ドヤ顔浮かべてるとこ悪いですけど……Bカップは別に巨乳じゃないですよ?」

「えっ!? そ、そんな……い、いやでも、ほら、限りなくCに近いBなわけだし……」

「なにサラッと盛ってんすか、限りなくAに近いBでしょうが……いや、百歩譲ってCに近いBだとしても巨乳とは呼べなくないっすか? だって、快人さんの身近に限定しても……たとえば、リリアさんとかDカップですし」


 呆れたような表情で告げたアリスの言葉を聞いて、マキナは一瞬キョトンとした表情を浮かべたあと、腕を組んで考え始めた。


「……リリア……えっと、ごめん、『どの肉塊』だったかな……」

「……覚えてねぇんすか」

「えっと、たしかアレだよね……あの『信号機』みたいな、三人のひとり……青はルナマリアって覚えてるから、たぶん黄色か赤……えっと……」

「信号機? あぁ、髪の色が、金髪、赤髪、青髪だからですか……上手いこと言いますね」

「……う~ん……全知で調べよ」


 我が子以外は基本的に肉塊としか認識していないマキナは、リリアと言われてもいまいちピンときていない様子だった。いちおう以前多少なりとも会話をしたルナマリアのことは覚えているみたいだが、リリアとジークリンデの区別はついていない。

 結局思い出すことを諦めたマキナは、全知の力を用いてリリアを調べ……なぜか、片手で眼を覆いながら天を仰いだ。


「……なにしてるんすか?」

「いや、ごめん、ちょっと思うところがあったから……」


 その不可解な行動にアリスが首をかしげるが、マキナはしばらくそのまま天を仰ぎ続けていた。


(……そっか、貴女も『振り回される側』なんだね。なんだろうこれ、すごい親近感だよ……我が子じゃないけど、もうちょっと……優しくしてあげようかな……)











 シンフォニア王国にあるアルベルト公爵家の屋敷、その執務室でひとり仕事をしていたリリアは、突如部屋の一部が光を放ったことに驚いてそちらを振り向いた。

 すると、ものすごく見覚えのある二十枚の翼を持った天使がいつの間にか室内に現れていた。


「エ、エデン様――あっ!? も、申し訳ありません!!」


 リリアもその天使が極めてぶっ飛んだヤバい奴だというのは理解していた。不用意に名前を呼んだだけでなにをされるか分からないレベルの超級の危険人物であることも……。

 だからこそ、咄嗟に名前を呼んでしまったあと青ざめた顔で頭を下げた。その判断は正しい。実際、我が子では無い彼女が不用意に名前を呼べば、エデンの怒りに触れていただろう……『いままでなら』。


「……構いません、許します」

「は、はぁ……」

「リリア・アルベルト」

「は、はい!?」


 正直なぜエデンがここに現れたのかサッパリ分からないリリアは、額から大量の汗を流しつつも必死に背筋を伸ばす。迂闊な失言は、すなわち死を意味すると認識していたから……。

 しかしエデンはいままでと違い、リリアを肉塊と呼ぶこともなく、刺すような雰囲気も纏っていない。それどころかゆっくりとリリアの前に近づいたあと、掌に薬剤が詰まった瓶を出現させて差し出した。


「……これを差し上げます」

「え? えっと……これは?」

「『胃薬』です。効果は最高峰で、体への副作用もありません。減れば自動で補充されるようになっています」

「は、はぁ……えと……あ、ありがとうございます?」


 胃薬が入った瓶を受け取りながらも、リリアの頭は混乱しっぱなしだった。なぜ自分は、このぶっちぎりでヤバい神から『哀れみの目』で見られているのだろうかと……。

 そんな混乱しきったリリアの前で、エデンは要は済んだと背を向け、光に包まれて消えていった。最後に一言だけ残して……。


「……強く、生きるのですよ」

「……………………はい?」


 誰も居なくなった執務室の中で、まったく事情が分からないリリアは心底不思議そうに首をかしげていた。





~リリア・アルベルト~


①稀代の才能を持つ天才で、容姿や能力を含めかなりの高スペック

②元王族という高貴な生まれであり、現在は継承権を破棄して若くして公爵家当主

③唯一と言っていい特異体質で、臨戦態勢になると魔力が雷みたいに迸る

④大剣を武器として使う、独学で魔法を覚える、短期間で騎士団の師団長に上り詰めるなど武功エピソード多数

⑤美女の幼馴染(ジーク)と美女の親友兼メイド(ルナマリア)が身近いる上、屋敷の使用人は全員女性

⑥いくつかの事業でも成功しており財産もかなりのもの

⑦人族の中で初めて時の祝福を受けて、最高神に気に入られる

⑧本祝福を受けたことを時を操る魔法が使えるようになる

⑨六王のうち5人、最高神のうち2人、三国王の全員と知り合いであり、評価も高い

⑩世界の創造神が、早い段階(少なくとも快人の誕生日)で名前を憶えている

⑪その創造神から、人族代表みたいに認識されており、快人が断ったとはいえ天空城とか下賜してくれたりする

⑫成長したらいずれ人族で唯一、六王や最高神と互角に戦えるであろう最強クラスに届く



とまぁ、俺TUEEE系小説の主人公でも張れそうなスペックを持ち、なおかつ作中での出番も多く、戦闘的な活躍シーンも多い……にもかかわらず、序盤から現在に至るまで、ほぼ一貫して『ポンコツ可愛い』というポジションで安定してるお嬢様は、ある意味奇跡のキャラだと思います



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― 新着の感想 ―
ここで異界の創造神様からも、胃痛戦士の最上位認定されたのかー まだ1,000話行っていない時点で笑
[一言] 世界創造の神から強く生きるのですよとか言われるの割とあれな環境になったんだな…頑張れリリア
[一言] リリアさん…D…_φ(..)メモメモ
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