機械仕掛けの神の物語③
『差し込み投稿だと、投稿したことに気付かない可能性がある』
ならば、『最新話と差し込み同時に更新すればいいじゃないか』と思ったので、アニマ編も一緒に更新してます。そっちは差し込みで更新しているのでご注意を……。
背の高いビルの立ち並ぶ大都市、まだ早朝と言っていい時間でありどこか無機質な静けさを感じる街の中を、ひとりの少女が歩いていた。
ウェーブがかったセミショートの金髪に青い瞳、紺のジーンズに白のシャツと茶ジャケット、ラフな格好をした少女は途中で足を止め、道の脇に設置されている大き目の機械に近づく。
いくつかのボタンを押して操作をしたあと、少女が手のひらサイズのカードをかざすと機械の中からは出来たてのホットドックが出てくる。
それを一口食べて再び歩き出しながら、少女は誰にでもなくひとり呟いた。
「……う~ん、便利は便利なんだけどねぇ。どこもかしこも無人販売、支払いは電子マネー、いまとなっては現金を持ち歩くやつなんて少数……なんだかなぁ。間違いなく技術は日々発展してるんだろうけど、なんとなく衰退してるように感じちゃうね。20世紀だか、21世紀だかの時にはあちこちで夢の未来予想図なんてのも見たけど、実際未来になってみるとこんなものかって感じだね」
呟いたあとで、少女は足と止め軽く溜息を吐いた。そして次の瞬間、少女の姿がブレてその場から消え去った。早朝とはいえ、周囲には多少なりとも人はいる。しかし、不思議なことに……少女が消えたことに気付いた者は誰も居なかった。
いつの間にか少女は大都市の中でもひときわ大きなビルの屋上に立っており、朝焼けに染まる町並みを眺めながら、まるで誰かに話しかけるように口を開いた。
「……イリス、あれからずいぶん経ったよ。世界から魔法が忘れられて、私たちの生きた時代がおとぎ話になって……それでも、まだ私はイリスの最後の願いを叶えてあげられてない。恋愛ってこんなに難しいものなんだね……まぁ、じっくり探してみるよ。イリスの居る場所に行くにはまだ時間がかかりそうだけどさ、その分土産話いっぱい持っていくから……待っててね」
かつて世界を大邪神から救った希望の英雄アリシアは、いまもまだ親友の最後の願いを叶えるたびに世界を旅していた。
移り変わる世界を旅しながら、多くの絆を紡ぎ、そしてそれを失いながら……それでもなお、前を向いて歩き続けていた。少しずつ、己の心に湧き上がる諦めという感情から逃げるように……。
「さて、この街には5年ぐらい居たかな? そろそろ拠点を変えよっかな……さて、次はどこに行こう?」
そうな風に呟きながら、アリシアはカード型の携帯端末を取り出して起動させる。すると空中にディスプレイが浮かび上がり、世界地図が表示された。
「そういえば、アジアの方には長いこと行ってないなぁ。次はその辺にしよう……前回は飛行機で移動したし、今度は船にしてみようかな?」
海上を進む豪華客船のデッキの上で、アリシアはのんびりを海を見ていた。
「数日かけての船旅の初日が快晴なのは幸先がいいね~。水平線もよく見えるし、楽しい旅になりそうだ」
ひとりそう呟きながら、のんびりと日の光を受けて眩く輝く海を眺める。すでに出航してから数時間が経っているため陸地は見えず、視線に映るのは一面海ばかりだ。
頬を撫でる海風に心地よさそうに目を細めたあと、船内のレストランで食事でもしようかと考えたアリシアは、海から視線を外しかけ……途中で視線を鋭いものに変えた。
「うん? なんだろ、あれ……島、かな?」
アリシアの視力は常人とは次元が違う。常人が双眼鏡を用いても見えないような距離であっても、彼女には簡単に見ることができる。
その視力が捉えたのは、遥か彼方に見える小さな島……それだけであれば、特に珍しいものでもないように思える。
「……なんだろう、気になるな」
長年世界を旅し続けた彼女の直感が、その島からナニカを感じていた。気のせいと片付けることもできたが、アリシアは自分の感覚を信じることにして、ポケットから携帯端末を取り出して地図を起動した。
「……おかしいね。あの島、地図に載ってない。数百年前ならともかく、いまの時代の最新式の地図にない島……これは、久しぶりに面白そうな匂いがするね」
ニヤリと笑みを浮かべたアリシアは、携帯端末をポケットってから準備運動のように体を伸ばし始めた。
「あ~最上級の客船だったから少しもったいないけど、それより面白そうだからね……じゃ、まぁ、行きますか!」
そう呟いた直後、アリシアはデッキから海に飛び降りた。しかし、デッキにいた他の客は誰ひとりとしてそれに気付いていない……いや、気付けない。それだけではなく、すでに船員も含め『アリシアがこの船に乗っていた』という記録も記憶も、一瞬の内に消え去ってしまっていた。
『海の上を走り』一瞬で目的の場所まで移動したアリシアは、目の前にそびえる島……のようなものを見ていた。
例えるならキノコ……エリンギ……少なくとも自然にできたとは考え辛い、上陸を拒むような反り返る形状の崖で三百六十度覆われた島。
「……なるほどね、『人工島』か……しかも、私が見たなかでも最大級の大きさだよ。しかも、凄いね……あの崖、機銃にレーザー砲……ちょっとした要塞並か」
崖の高さは目算百メートルほどで、パッと見は普通の岩肌に見える。しかりアリシアが内部を魔法によって投資してみたところ、凄まじい数の重火器が仕込まれていることが分かった。
そしてそれはつまり、ソレだけ厳重に守る必要のあるモノが、この島にはあるということ……。
「これは思った以上に大物の予感がするね。久しぶりにワクワクしてきたよ……さすがに財宝ってわけじゃないだろうけど、軍とかの秘密施設だったりして……楽しみだなぁ」
そう言って笑いながらアリシアは『崖を歩いて』登り始めた。まるで重力など存在しないとでも言いたげに歩き、張り巡らされたセンサーもまったく反応させることなく島へと上陸する。すると次に見えてきたのは、鉄の壁だった。
「……こりゃまたすごいね。熱、音、振動、あらゆるセンサーがびっしりと地面に張り巡らされてるし、地面には地雷も山盛り……それをかわしながら進んだとしても、今度は入り口のない鉄の壁がぐるっとなにかを囲んでる。なるほど、空からしか入れないようになってるわけだ……まぁ、私には関係ないけどねっ!」
あまりにも厳重な守りを見ても、アリシアに動揺はなく、軽い口調で呟きながら跳躍……ただそれだけで彼女は、そびえたつ鉄の壁より遥かに高く飛び上がった。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るかっと……うん?」
見えたのは同じような鉄の壁が更に内側に感覚を空けて二枚ほど、そしてその先には……まるで庭のように見える小さな草原とポツンと立つ、大き目の箱のような建物。
そして……その箱の前に立ち、驚いたような顔でアリシアの方を見ている……癖の強い錆色のロングヘアに灰色の瞳、白いワンピースを着た美少女
空を飛びながら魔法で周囲を探ってみるが、この島に少女以外の生体反応はなく、その少女がこの島の唯一の住人であるということが分かった。
どうにも予想とは違った展開に首を傾げつつも、アリシアはフワリと少女の目の前に着地した。
「あまりに厳重なんでお宝でもあるのかと思ったら、女の子がひとりって……なにこの状況?」
「なにこの状況は、私の台詞でもあるんだけど……急に空から現れた貴女はだれ? 天使さん?」
軽い口調で話しかけるアリシアに、キョトンとした表情のままで聞き返す少女。そして、これがすべての始まりの出会いだった。
「天使ではないけど、その辺は話すと長くなっちゃうから、先に自己紹介でもしとこうか……私は、『アリシア』。しがない旅人で、ちょっと変わったバケモノだよ」
それは、望まず超越者へと至った。いまは失われた力を使う英雄の少女と……。
「ふふふ、私は……『マキナ』。貴女風に言うなら、生まれた時から籠の鳥で……世間知らずのバケモノだよ」
望んで神へと至った特異な力を生まれもった少女……そのふたりを主役に紡がれる約束の物語の……。
アリシアちゃん、まだ世界に見切りを付けてない、捻くれてなかった頃のお話。




