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機械仕掛けの神の物語①

すみません、ちょっと忙しくて続きが書けていない状態ですが……あまりに更新が長く空くのもアレなので、先に完成しているマキナ編のプロローグを掲載しておきます。


アニマ編の続きは後ほど【差し込み】の形で更新します

 『前提が変われば本質も変わる』


 その神が口にした言葉の通り、たしかにたったひとつの前提が変われば、すでにあるはずの本質も姿を変えるだろう。

 たったひとつの情報が、不可解な行動全ての説明となる。たったひとつの真実が、巧妙に隠された目的を見つけ出す鍵となる。


 なぜ、彼女はあそこに姿を現したのだろうか? その要因は、はるか遠い昔に交わした――『約束』だった。








 シンフォニア王国王都、大通りから外れた場所にある小さな雑貨屋。そのカウンターで、店主であるアリスは静かにナイフの手入れをしていた。

 普段は猫の着ぐるみを着た分体が店番をしており本体は快人の護衛に付いているのだが、今日は珍しくアリスは快人の護衛を複数の分体と配下に任せ、本体でこの場にいた。

 そして少しして、魔法具の灯に照らされた店内に純白の羽根が舞い降り、眩い輝きと共に異世界の神が降臨する。


「……いちおうは不敬、と言うべきですかね。私を呼び出すなど、どういうつもりですか?」

「いや~時間ピッタリですね。お待ちしてましたよ、エデンさん」


 無表情と言っていいエデンに対し、明るい笑顔を浮かべながら告げたあと、アリスは軽く手を振る。すると店の扉に鍵がかかり、扉の前の札がひっくり返る。

 その行動に反応することはなく、エデンはただ淡々とした口調で告げた。


「用件はなんですか? 我が子以外に時間を割くほど私は暇では……」

「いや~まぁ、アレですよ。ちょっとばかし、協力してほしいんですよ」

「……」

「ほら、前にシャローヴァナル様の一件があった時、私も少々力不足を実感したわけなんですよ。私がもう一段階上の実力者なら、他にも取れる手はあったんじゃないかってね」


 にこやかに告げるアリスの言葉を聞いて、エデンは怪訝そうな表情を浮かべた。それを自分に話す意味が分からないとでも言いたげに……。

 その反応は予想通りのものだったのか、アリスはニヤリと笑みを深めながら本題を切り出す。


「で、まぁ、早い話がちょっと修行でもしようかなぁって思ってるわけなんですけど……ほら、私ってヘカトンケイルの究極戦型状態でしか体も魔力も成長しないんですよ。究極戦型自体は、広義の意味でカイトさんを守ることに繋がるって解釈で発動できるんですが……格上相手じゃないと、まともに成長してくれないんですよね。だから訓練相手が欲しかったわけです」

「……」

「クロさんあたりに頼めれば最善だったんですが、クロさんもクロさんでいろいろ試行錯誤してるみたいなので邪魔する気にはならなくて……かといってシャローヴァナル様がそんなお願いを聞いてくれるとは思えません。っと、そこで閃いたわけですよ! エデンさんに頼めばいいやって……というわけで訓練相手になってください」

「馬鹿馬鹿しい、実にくだらない話です。そんな願いを私が聞く理由などありません。無駄な時間を過ごしました」


 訓練相手になってほしいというアリスの言葉を切り捨て、背を向けて去ろうとしたエデンだったが……直後に聞こえてきた声に足を止めた。


「……あいたたた、以前エデンさんと戦ったときの古傷が痛みますねぇ」

「……」


 わざとらしい大袈裟な言い方ではあるが、エデンはなにやら困ったような表情を浮かべてアリスの方に振り返った。

 するとアリスはパッと明るい笑顔を浮かべて、言葉を続けていく。


「いや、もちろんアレは私のためにやってくれたことだって分かってますよ……まぁ、他にも方法あっただろとか、そんなことを思わないわけでもないですが」

「……い、いや、それは……」

「ええ、分かってます。早急に解決というなら、あそこが最善のタイミングでした。だから、私としても感謝こそすれ、怒るようなことはなにもありませんよ」

「……」


 その言葉にエデンはあからさまにホッとしたような表情を浮かべたが……とうぜん、そこで終わるのであればアリスはわざわざこんな話はしない。


「……まぁ、『私が気付くまでに半年以上』、実際に言い出すまでに『丸二年以上』正体を隠してたことに関しては、怒ってますけどね」

「ふぐぅっ!?」


 思いもよらない一言に、エデンは大きく後ずさった。そして青ざめた顔に大量の汗を流し始める。


「ほんと、薄情なものですよね! あ~あ、星空を見上げながら語り合った私たちの友情はどこに行ってしまったんですよかねぇ~」

「ぐっ。そ、そそ、それは……」

「もっと早くに言ってくれてもよかったのに、酷い話ですよね!」

「あっ、い、や、その、それにはいろいろ事情があって……」


 おそらくいまのエデンの姿を快人やクロムエイナが見れば驚愕するだろう。普段は神らしく傍若無人とすら言っていいはずの彼女が、焦った様子で視線を泳がせまくっている。

 もっともアリスにとっては、狙い通りの反応ではあるが……そう、もはやアリスにとってエデンは厄介な相手でもなんでもない。

 アリスはいっそ大げさすぎるほどあからさまな動きで両眼を覆い、鳴き真似のような恰好で畳みかける。


「あ~あ、私は親友だと思ってたんですがねぇ! 悲しいなぁ!! 辛いなぁ!!」

「……ったよ」

「おや?」

「分かったよ! 協力するよ! すればいいんでしょ!!」


 やけくそ気味に素の口調で告げるエデンを見て、アリスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。そして、先ほどまでの悲しそうな演技から一転し、満面の笑顔を浮かべた。


「いや~快く引き受けてくれてありがたい限りですよ。やっぱり持つべきものは親友ですね! じゃさっそくですけど、『本気で暴れても壊れない空間』の用意をお願いしますね。あっ、あと、長くカイトさんの護衛から離れる気はないので『終わったら出発の1秒後ぐらいに戻してください』。ああ、それに動くとお腹もすくので『美味しい食べ物』もお願いします」

「……」

「おっと、忘れるところでした。実は神界での戦いで力が上がってから、いくら魔力で保護しても元の強度的にナイフが耐えきれなくなりそうなんですよね。この世界にはこれ以上丈夫な素材はないので……『加工しやすくて丈夫な素材』もください。ああ、加工はこっちでやるので大丈夫ですよ」

「……これだよ。私の正体が分かったとたんに、この図々しさ……全然変わってないよ。アリシ……アリスのそういうところも、私がなかなか言い出せなかった原因のひとつだからね」


 次から次へと笑顔で要望を告げてくるアリスに、エデンはジト目でツッコミを入れた。ただその声にトゲはなく、どこか「しょうがないなぁ」とでも言いたげな、優しい声だった。


「……はぁ、分かったよ。どうせいろいろ質問攻めにするつもりなんだろうし……私は準備しておくから、『楽園(エデン)』に案内してもらってね。情報レベルⅣまでの開示を許可しておくから、聞きたいことがあるならいろいろ聞いておいて」


 ため息を吐きながらそう告げたあと、エデンに変化が現れた。極彩色だった瞳の色が『灰色』に変わり、アリスに対して綺麗な角度で頭を下げた。

 そして直後にエデンの横に白い扉のようなものが現れる。


『では、アリス様、こちらへどうぞ。《マザーブレインマキナ》の元へご案内いたします』


 聞こえてきた機械音声のような声を聞き、アリスは顎に手を当て真剣な表情を浮かべながら問いかけた。


「……ふむ、なるほど。つまり、貴女は『マキナ』ではないってことですか?」

『肯定します。マキナ様によって作られた《総合管理観測プログラム》、code名は楽園(エデン)。ただいまこうしてアリス様と会話をしていますのは、案内のために一時的にアクセスを許可された地球という星の担当である個体です』

「まぁ、いろいろ聞きたいことはありますが、それは移動しながらの方がよさそうですね」

『かしこまりました。では、ご案内させていただきます』

「……どうでもいいですけど、その顔で腰低く対応されると、なんかすごい違和感ありますね」










 黒い景色に緑色の光る線が幾重にも走り道が形成されていく、景色は黒色のはずだが暗くはなく己の体もはっきりと見える……そんな空間をエデンに続いて歩きながらアリスはのんびりと口を開いた。


「……さて、一瞬で着くこともできるはずなのに、わざわざこんな空間を移動してるってことは……『私が聞きたいことを聞き終えたら到着する』って、そういう認識でオッケーですか?」

『はい。その通りです、なんなりとご質問ください』

「ふむ、じゃあまず一番初めにコレを聞いときますかね。エデンさん……いえここは、マキナと呼びますか……マキナはさっき情報レベルⅣまでの開示を許可するって言ってましたね。それって、どの程度まで答えてくれるんですか?」

『情報レベルは最大で《Ⅴ》まで存在します。レベルⅣであれば、大抵のことにはお答えできるかと思います。マキナ様がこのレベルまで情報開示の許可を出すのは初めてのことです』

「なるほど……」


 楽園(エデン)の言葉から、重要な機密以外はほぼ解答してくれると認識したアリスは、数秒思考してから質問を投げかけた。


「じゃあまず、ひとつ目の質問です。貴女はさっき『地球という星の担当をしている個体』って言いましたよね? それはつまり、他にも同じ役割を持つ存在がいるってことですか?」

『はい。総合管理観測プログラム楽園(エデン)に関しましては、《4700億と1体》が存在します。私の個体ナンバーは76812です。基本的に容姿能力共に違いはなく、担当が違うだけとなります。戦闘力に関してましては《準全能級》、貴女のお知り合いであればクロムエイナ様と同格かやや劣る程度とお考え下さい』

「……4700憶のエデンさんとか、なんすかそのホラーは……いや、まぁ、アレはマキナの性格がぶっ飛んでるだけってのは分かるんですがね。ちなみに、その半端な1体ってのは?」

『はい。現在アリス様をご案内しておりますこの体がその1体にあたります。この個体につきましては、マキナ様が愛しい我が子と呼ぶ宮間快人様のために、特別に調整を加えて作り直した個体のため他の楽園(エデン)とはやや異なります。もっとも、能力自体に差はありません、体の内部構造などがより人間に近いものとなっています』

「……とんでもない話ですね。つまるところ、マキナにとってエデンさんってのは……」

『はい。《いくらでも替えの利く末端兵》といったところですね』


 間違いなく世界創造の神と呼べるだけの力を有し、ほぼ全能といえる能力を持つエデンも、本体であるマキナにとってはいくらでも作れる便利な駒程度でしかない。

 マキナが想像以上に凄まじい神であることを認識しつつ、アリスは質問を続けていく。


「じゃ、次の質問です。総合管理観測プログラム……ってことは、他にも別の役割のプログラムがいつって考えていいんですか?」

『はい。その認識で間違いありません。マキナ様が直接造られたプログラムに関してましては、楽園(エデン)の他に二種存在します。順に紹介いたしましょう、どうぞ、右手をご覧ください』


 楽園(エデン)の言葉に従ってアリスが右を向くと、ふたりが歩いている場所からかなり離れた位置の空間が歪み、巨大な鉄の星が出現した。


「……アレは、前に神域で見た……うん? けど、あの時とは違ってコアが無いですね」

『はい。以前トリニィアでアリス様が遭遇した際には、内部にマザーブレインマキナが入っていました』

「……つまりアレですね。あの時エデンさんが『私の本体』って言ったのは、中にマキナが入っていたからで、あの機械の星自体は、本体でもなんでもないってことですね」

『はい。その通りです。あの星は《対敵殲滅プログラム》、code名は奈落(タルタロス)と申します。三種のプログラムの中でマキナ様から最大の力を与えられており、その力は《全能級》。大抵の世界であれば、世界の創造主ごと奈落(タルタロス)一機で殲滅可能です』

「そりゃまた、とんでもねぇっすね。んで、アレは何体いるんすか?」

『はい。《98兆体》存在しております』

「インフレ半端ねぇ……」


 ここまでの話だけでも、マキナの軍勢は準全能級4700億体に全能級98兆体。過剰すぎるほどの大戦力であり、アリスも思わず呆然と呟いた。


「……それで、もうひとつのプログラムは?」

『はい。そちらは定まった姿はありませんのでお見せすることはできませんが、《防衛用プログラム》、code名は(アイギス)と申します。防衛に特化した準全能級のプログラムであり、《無量大数》存在します』

「何度目になるか分からないですけど、とんでもねぇっすね。以上で全部ですか?」

『はい。マキナ様が造られたプログラムは以上になります。ただ、三つのプログラムの中で唯一人格を有する楽園(エデン)に関しては、独自の判断で補助プログラムを製造することが許可されています。私も補助プラグラムαとβというふたつのプログラムを製造しました。現在はそれぞれ《天照》《月読》と名乗っていますので、地球に来られることがあったらこき使ってやってください』


 淡々と告げる楽園(エデン)の言葉、それによって得た膨大な情報をアリスは高速で思考しながら整理していく。

 そのまま少しの沈黙が流れたあとで、楽園(エデン)は変わらぬ機械音声のような声で告げた。


『他に質問はございますか?』

「……さっきから貴女はマキナのことを、『マキナ様』って呼ぶ場合と、『マザーブレインマキナ』って呼ぶ場合がありましたけど……それはどういうことなんですか?」

『申し訳ございません。そちらは情報レベルⅤに該当するため私には返答を行う権限がありません。マキナ様に直接ご確認ください』

「なるほど……了解です」

『他に質問はございますか?』

「あるにはあるんですけど、まぁ残りはマキナに聞くことにしますよ」


 アリスがそう告げると楽園(エデン)は足を止めて振り返り、ぺこりと頭を下げた。


『かしこまりました。それでは、到着でございます』


 その言葉と共に、目の前に巨大な歯車が付いた扉が出現した。そしてその歯車が大きな音を立てて回転し、巨大な扉がゆっくりと開かれていく。


『私の案内はここまでとなります』

「そうですか、いろいろありがとうございます」

『いえ、それでは失礼いたします。地球を訪れることがありましたら、どうぞお気軽にお声がけください』


 そう告げたあとで楽園(エデン)は姿を消した。それを見送ったあと、アリスは軽く頭をかきながらポツリと呟いた。


「……やっぱ、あの顔で腰低いのは、違和感ありますねぇ」




マキナちゃんがチートすぎる。そんなチートなマキナちゃんでも、初手土下座するしかない物語の終わり(エピローグ)が論外すぎる。

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― 新着の感想 ―
[一言] シロさんがカイトクンさん側についたのにアリスが修行したがってるってことは、まだあのとき以上の脅威が差し迫る可能性を見出してるってことなんだろうか……
[気になる点] あれ?もしかしてアリスちゃんって クロムエイナより年上? シャローヴァナルよりかは下なのかな?
[一言] 数は力だけどありすぎても使わないだけだよね……シロさんみたいなどれだけの数があろうとも関係ない奴には意味ないし
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