閑話・神界~祭り企画会議~
新年あけましておめでとうございます。今年もどうかよろしくお願いします。
神界の上層、最高神とその直属の上級神のみが立ち入ることの出来る神聖な地。そこにあるみっつの神殿のうちのひとつ、時空神クロノアの神殿には三人の最高神が集合していた。
円状のテーブルを囲み、真剣な表情で向かい合う三人……いや、ふたりとひとり。今回の集まりはシャローヴァナルが提案した神界の祭りについての話し合いだった。
シャローヴァナルの命により中心となって企画を行うのはクロノアとライフだが、この場にはフェイトもいる。というのも、今回の祭りに関してはフェイトが監修を行いフェイトの許可なくして実行に移してはいけないと、シャローヴァナルより厳命されているからだ。
「ではさっそく始めたいと思う。運命神、これが我と生命神で考えた企画書だ」
「自画自賛するようですが、かなりいい出来だと思っています。正直、手直ししていただく個所は少ないかと……」
「ふ~ん、流石仕事が早いね……まぁ、私としては楽できた方がいいしね」
クロノアとライフがフェイトの前に置いた企画書は、軽く百ページを超える分厚さであり、かなりキッチリと細部にわたるまで企画の詳細が書かれていた。
フェイトはそれを面倒くさそうな表情でパラパラとめくり……『魔法で消し飛ばして』から、ニッコリと笑顔を浮かべた。
「……さっ、それじゃ『神界の祭り』について『一から』話し合っていこうか」
「え? いや、運命神……いま、我らの企画書を……」
「どこかに問題があったということでしょうか?」
威圧感すら覚えるフェイトの笑顔に少し戸惑いつつ、クロノアとライフが訪ねると……フェイトの顔から笑顔が消え、そのままドンッと拳を机に叩きつけた。
「どこか、じゃないよ! 全部!! あぁ、もう、監修だけなら楽できるかなぁとか思ってた少し前の私をぶん殴ってやりたいよ。というか、時空神も生命神もなに考えてんの!? シャローヴァナル様は『祭り』をやれって言ったんだよ、誰が『式典』やれって言ったのさ、馬鹿じゃないの!」
「い、いや、しかし……シャローヴァナル様の膝元ともいえる神界での行事だ。それなりの格というものは必要であろう?」
「そ、その通りです。参加者にもある程度の礼節を求めるのは必要な……」
そうフェイトが怒っている理由は、先ほど見た企画書の内容があまりにも酷かったから……そして、それをクロノアとライフがおかしいと思っていないことがなにより問題だった。
「いや、まず『参加者による式の練習三時間』? なんで開催側じゃなくて、参加側が練習すんのさ!」
「……しょ、所作も重要であろう?」
「次に『神界の巡礼』? まず巡礼なんて単語が出てくる時点でおかしいことに気付けぇぇぇぇ!!」
「……し、神界の地を知らずしてしっかりとした祈りは難しいと思っての配慮だったのですが……」
そこまで話したところで、フェイトは額に手を当てて深く大きなため息を吐いた。
「……まさか、ここまで酷いとは……というかさ、ふたりとも勇者祭とか六王祭とか出たよね? その上で、本当にアレで大丈夫だと思ってるの?」
「神界の中層に招かれ、シャローヴァナル様に祈りを捧げられることは大変栄誉なことであろう?」
「えぇ、いかに祭りといっても神聖なるシャローヴァナル様の下で行われる以上、厳粛であるべきです」
迷いない二人の言葉を聞いて、フェイトは天を仰いだ。そして目を覆い隠すように手を当て、静かに告げる。
「……ちょっと待ってね。馬鹿ふたりに分かりやすく間違いを説明するための言い回し考えてるから……うん、やっぱここは、カイちゃんを使わせてもらおう」
凝り固まってるとすら言っていいクロノアとライフの思考を修正するため、フェイトは必死に言葉を探す。そして思いついたというより、真っ先に思い浮かんだ快人を例に出すことに決め、ふたりの方を向いて口を開いた。
「……じゃあさ、聞いて。今回の祭りには、カイちゃんは絶対招かれるよね? シャローヴァナル様にとっても、ものすごく重要な存在ってのはふたりも分かってるよね?」
「うむ」
「もちろんです」
「……で、だよ。ふたりが企画したとおりに祭りを行って……『カイちゃんが楽しんでくれる』って思うの?」
「「……」」
フェイトの言葉を聞いて、クロノアとライフは絶句したような表情を浮かべて硬直した。ふたりとも快人とはそれなりに言葉を交わしており、その性格も把握している。
となると、快人の性格や嗜好に当てはめて考えると……。
「「……思わない」」
「でしょ? じゃあ駄目じゃん! 礼節だとか厳粛だとか言ってさ、それでカイちゃんが楽しめない祭りを企画するほうが、シャローヴァナル様に対して無礼なんじゃない?」
そう言われてしまうと、クロノアとライフもなにも言えなくなってしまう。ふたりが企画した祭り……もとい式典は、それこそ分刻みでのスケジュールを組んだ堅苦しいものだ。
そういったものを快人が好まないことぐらいは、さすがのふたりでもすぐに理解できた。
「カイちゃんは凄いけどさ、好みとか感性はわりと一般的だよ。カイちゃんが楽しめる祭りなら、他の人族や魔族も楽しめる可能性が高いし、逆もしかりだね。だからさ、ふたりはまず『カイちゃんに楽しんでもらえる祭り』を考えてみるのはどうかな? 細かな部分はその後で調整すればいいんだしね」
「……な、なるほど……盲点であった。礼を言う、運命神」
「えぇ、気付かぬうちにシャローヴァナル様に対し、これ以上ない不敬を働いてしまうところでした」
「……カイちゃんの名前出しただけでこの物分かりの良さ……やっぱカイちゃんはすげぇや」
どうやら流れは上手く修正できたみたいで、クロノアとライフも真剣な表情でなにかを考え始めた。フェイトがそれを見て満足げに頷いて、用意された紅茶を飲んでいると……考えがまとまったみたいで、ふたりが口を開く。
「……内容に関して、できれば人族の助言が欲しい。リリアに相談してみることにしよう」
「招待される側ではなく、招待する側……主催となるからこその違いもありますね。私は六王に話を聞いてみることにしましょう。六王祭を企画した彼女たちからなら、よい意見がもらえるでしょう」
「……うん、悪くないと思うよ。じゃあその方向で企画練り直して、もう一回話そう……じゃ、頑張ってね~」
とりあえず一つ目の関門は突破したと言える状態にホッと胸を撫でおろしつつ、フェイトは軽く手を振ってその場から去っていく。
そして神殿の外に出て、神界に広がる青空を眺めながら……ポツリと呟いた。
「……ふたりの考えを悪い意味で神族的すぎるって感じちゃうのは、私が成長したからかなぁ? まぁ、今回の件はふたりにとっても考えを変えるいい切っ掛けになりそうではあるね。けど、う~ん……あの感じだと、まだ二回か三回は壁に当たりそうだなぁ……まぁ、とりあえず、カイちゃんのところに遊びに行こっと」
有史以来初めて神界が企画側に回って開催される祭りは、少しずつではあるが着実に動き出していた。
おまけ~六王配下の設定・界王配下幹部編①~
①『魔華姫』リーリエ
界王配下筆頭であり、赤い花が咲いた長い金髪が特徴的な、盲目の女性魔族。光の届かない暗い洞窟の奥にのみ咲く魔導華の精霊であるため、生まれつき目が見えない。
しかし感知に特化した能力を持ち、周囲はおろか相手の表層意識すら読み取れるので、日常生活に不便はまったくない。
性格は穏やかで優しいが、ちょっと茶目っ気もある。七姫の中では一番リリウッドに似ている性格。
②『妖精姫』ティルタニア
現妖精王、ラズリアの後輩にあたり、ラズリアと同じく花の妖精。ラズリアのことを心から尊敬しており、服装や口調を真似しているが、髪の毛の色だけは少し違う。
七姫のムードメーカー的な存在であり、いつも明るく元気。
最近ラズリアがよく「カイトクンさん」なる人物についていっぱい自慢してくるので、そのカイトクンさんという人に会ってみたいと思っている。
リリウッドもカイトと知り合いではあるが、名前が違うので別人だと思ってる。
③『草華姫』カミリア
草の精霊。居ても気付かれない六王幹部NO1、薄い茶の三つ編みに服装も村娘のようととにかく地味であり、気の弱さも相まってまったく凄そうには見えない。得意なのは家事全般であり、そのせいかアインにはリリウッドに仕えるメイドだと勘違いされて、押し切られる形でメイドオリンピアに出場している。
しかし、実は七姫で一番強いのは彼女であり、リーリエと共に公爵級に昇格する……それで少しは目立つようになるかと思えば、今度は『名前は知ってるけど、姿が思い出せない公爵級NO1』に輝いてしまった。
ちなみに好きな食べ物は草餅、将来の夢はお嫁さんである。
④『桜花姫』ブロッサム
ノインから話を聞いたリリウッドが作り出した桜の木の精霊。黒い髪に桜を模した簪を刺した和風美人であり、刀を武器として使うなどノインに似た雰囲気を持つ。
かなりの天才ではあるが、己に驕ることなく自己鍛錬を続けている。防御能力に特化した力を持つ者が多い七姫の中では、珍しく防御より攻撃が得意。
同じく剣士である死王配下幹部六連星のシリウスと一度模擬戦をして破れてからは、彼女を目標に腕を磨き続けている。
シリウスから聞いた話では『超絶飛翔蛇流』という謎の剣技を使う、凄まじい剣士が魔界に存在しているらしく……会うことが出来たら、ぜひ弟子入りしたいと思っている。




